第226話 教授-過去編③
〈...ってわけだ。〉
「そう、リーツにも現れたんだね。」
レギスの森の異変から2時間経った頃、再びお母さんから連絡が来た。どうやら異変が起きていたのはレギスの森だけではなく、リーツでも起きていたという事だ。
ワイバーンが襲撃して来たらしく、討伐したルザーナとクロマ曰く、
・真っ黒なオーラを纏っている。
・動く死体、なのに痛覚はある。
・高い所から落下したり攻撃したりで骨が折れたはずなのに、何事も無いかのように動く。修復した様子がない。
・強い殺意、敵意、呪力。
・破邪の力、治療魔法に滅法弱い。
...と、邪獣のスキルで蘇った魔物達と共通点がいくつかあった。
〈だから今度はリーツの周辺調査をするんだ、帰って来たばかりなのに....。〉
「そりゃただでさえ緊急事態だからね、とりあえずお母さんは結晶を探して。魔物の方はルザーナ達に任せた方がいい。」
〈ああ。〉
通話終了。
...ふぅ、お母さんも大変だな。
それに加えてルザーナとクロマが成長したというのが嬉しくて仕方がない。今度会ったら頭撫でたい、抱き付きたい!!
「...邪獣復活の兆しが本格化した途端、大陸内外各国が大慌てし始めた。」
「だね、幸いこの前邪獣復活の件を話したお偉いさん達の国や土地は準備が結構整ってる。...普通怪しい人の話なんて信用出来るものじゃない。たとえ嘘でも邪獣ってのはそんなに恐ろしい存在だったんだね。」
「ああ。例を挙げるならば...とある大帝国が1時間後に呪力に染まる荒れた死地へと化した....とかな。」
「ひぇ。」
私達は何と戦おうとしてるんだって思いたくなる。
そんなやばい存在がなんで生まれ.......ん?
「ねぇ、邪獣ってそもそもどこから現れたんだろ。それに加えてなんで生まれたのか?」
「わからない、なんで生まれたかなんて知れば今頃解決しようと動き伝えていた。っはぁ、嫌な世の中だ。神は人を試すと言うがこれはやり過ぎだろ...なんの悪意だ?」
ーーーーーーーーーー
「師匠、師匠は俺より長く生きてるんだろ?」
『ええ、ウチは少なくとも120年は生きてる。』
俺は森の精霊に鍛えられて数年、俺は15歳となった。
邪獣復活の噂はさらに大きくなり、不安も広がるばかり。
父さんも町を守るため防衛強化措置をとっているが文献を見る限り邪獣相手には一時凌ぎにもなるかどうか。
勇者の称号を持つ俺が強くなり邪獣を倒す...それだけが今世界を救う最も最善の方法。思ったより色々辛い世の中だ。
両親に修行の事は伝えている。
だから基本師匠にどこかに連れて行かれてはスパルタに鍛えられた。お陰で魔力の扱いが上手くなり、自宅近くの森の魔物は俺に勝てないどころか服従した。
『ウチは邪獣が現れた時代、土地に生き残った精霊の一体。今は逃げ延びてここで暮らしてるの。』
「そうなのか。」
『当時はそれはヒドくてね、邪獣の呪力で邪精霊になってしまった同胞を何人も殺したよ。...皆が散りゆく姿が目に焼き付いてしまってさ、怖いんだ。』
「...。」
『ウチに出来る事はちっぽけだけど、悲劇を終わらせる気持ちは誰だって一緒。だからマース、私と旅をしようさ。』
「旅...?師匠に色々連れて行かれてるのに?」
『あんなピクニックじゃダーメ。それにあんたは幼い頃から精霊と話せる時点で本来人間が使えない精霊魔法の素質があるってわかってるんだから!』
「え...?」
精霊魔法...その名の通り精霊が使う魔法。人間には使えないが素質があれば使えると噂されるが真相は不明...なのだが。
『精霊魔法も根本は魔力。仮定が違うからそうなるのよ。』
「か...仮定とは?」
『知らない!』
「...。」
パキッ
「...!」
『あら、誰かしら?この辺りの人間じゃないわ。』
「...あれ、なんでこんな所に人が?」
そこに現れたのは褐色肌の銀髪女性...、
「き...君は!?」
『魔人族じゃない、なんでこんなところに?』
「へぇぇ!?どこからか声が聞こえた、誰!?」
そういえば精霊を見慣れない者には精霊側がその人には対し姿を見せようとしない限り見えないのだっけな。
『...ここよ。』
「ふぁお!何これ可愛いわぁ!!」
『わー!?』
「...ああ、私は[アイシャ]。見ての通り魔人族。」
「俺はマースだ。君はここへ何しに?」
「ん?旅よ、私強くなりたいから。」
「ずいぶん単純だな...。」
なんだこの人、突然現れては急に干渉して来て。
「私は守りたい人達がいるのだけど今のままじゃ弱い、だからこうやって色んな所に行ってるの。」
『ほーらマース、こんな女性が旅してるんだから。あんたも強くなりたいなら色んな所に行くべきよ!』
師匠もしつこい...。
「へぇ、貴方も修行の身なら私と来る?」
「なんでだよ!?」
「だって...あんた[聖勇者]でしょ?」
「!?」
その言葉を聞いて俺は驚いた。
何故初対面の俺を勇者と見抜いたのか、
わからないが只者じゃない....
「...私も勇者だもん。[魔勇者]アイシャ。」
「え...。」
『なるほど、歳の割に強い魔力纏ってたのはそう言う事だったのね。』
「最初に言うべきだったかな?でも守りたい人がいるのは事実だ、家にいると親が権力や人種差別やらでうるさいからこうやって行方くらまして旅してるの。」
「...なんで俺に話す。」
「旅仲間だから!」
「なんでもう仲間になってんだ!!?」
『いいじゃない後は親に聞けば旅のスタートよ!』
「お前も勝手に決めるなよ!?」
この後アイシャの事は隠し俺は旅に出て強くなりたいと両親に話した。両親は少し寂しそうに賛成をした。
...勇者という称号に振り回されるような人生にさせて申し訳と言っていたが俺はそうは思わない。人生はどう流れようが自分で自分の流れを勝ち取ればいいと今は思っている。
「いやっほーい!捕まえてごらーん!」
「おねーちゃん待てー!」
「つかまえるー!」
「!!?」
「あ、終わった?」
「待て待て!?なんでお前町の中にいる!?」
「おやマース様、そういえばここが中立地帯である事は聞いておられませんでしたね。」
「中立...?」
「この辺りは種族差別をしない風潮なのです、しかし周辺の領域は聖人主義であるためあまり大きく言える事ではないのです。そのため基本子供にこう言った事は言わずもしなんらかの理由でこの地にやって来た他種族には優しくしているのです。」
「...色々情報が。」
「あっははは!出発は明日にしようか、もう疲れたでしょ?」
「お前のせいでな!!!?」
「ほほほ、仲がよろしいですな!」
そんな訳で俺は聖と魔、勇者同士で旅をする事になったのだ。
ーーーーーーーーーー
「...。」
「あれ、教授その写真?」
「ああ、大昔に撮った写真だ。」
「そうなんだ...。」
その写真には若かりし日の教授らしき男性、
綺麗な魔人族の女性、
そして魔人族の子供が二人写っていた。
〈もしもし聞こえるハルカ!〉
「あれ、どうしたのお母さん?」
〈結晶あった、けど森で見たのよりサイズが大きいんだ。〉
「サイズ?どれくらい?」
〈...根本直径1.8m、高さ3m...?〉
「はぁ!?急にそんなデカいの来る!?」
「...?」
かくかくしかじか...
「オイオイ...離れた地になんでそんなデカいのあるんだ...?ハルカ、お前が行った方が良い、アイツらは破邪の力に慣れていないはずだ。」
「そんな気がしてた、フィア!」
そういう訳で私は再びエデル領域に向かうのだった。




