第224話 牙を剥く兆し
変な黒い結晶を破壊してから数時間、
レギスの森にある精霊水の川に異常があった事を報告受けた精霊女王ガイストがやって来た。
ガイストは顔を真っ青にしながら現れ、こちらを見るなり腕をガチッと掴んで、
『キジコ様無事ですか!?どこも痛く無いのですか!?呪いは受けておりませんか!?体に異常はありませんか!?』
「大丈夫だって...もう治したから。」
『治した!?つまり呪いかかってたんじゃないですか!?どうしていきなりそんな無謀に走るんですかバカー!!!』
...とすっごい怒られた。
ほっぺグニグニしてくる辺り結構怒ってらっしゃる、ごめんなさい。
『...ったく、帝国はさっきこの事態に気づいて自国の守備を強化したけど、この状況をあのお方はなんと言うのやら...。』
「ああ...帝王は[調律]の所持者だからもう気づいたのか。でもあのお方って?」
『へ...?ああ、私の上司ですよ。』
「上司か...上司?待って精霊女王が一番上なんじゃないの?」
「キジコちゃんは知らない様ね、精霊王よりも上の存在にして精霊の頂点...[精霊神]様の事を。」
精霊....神?
『精霊神様は位階序列の2。同時に秩序之天秤の[輪廻]を持つお方です。』
「輪廻...って事は魂に関連する何かを知ってる人になるのか。」
秩序之天秤...
・守護、調律、時空、輪廻、神域の5つに関
連する存在を監視、知る事が出来る超特殊
なスキル。
「そうね、輪廻は魂の流れ、神域は神の存在、時空は時の進行、調律は世界のバランス、守護は世界の守り手、大雑把に言えばこんな感じよ。」
『おそらくキジコ様が転生して来た事もかなり早い段階から知っていたでしょうけど...。』
「?」
『...いえ、なんでもないわ。精霊水の川を元に戻してくださりありがとうございました。私は一度精霊神様にこの事を報告してきますので代わりに水の大精霊をこちらに呼んで起きます。それでは...。』
そう言ってガイストはどこかに転移して行った。
さて、邪獣の復活の兆しが現れたがこれをどうするか...あんなのがいっぱい出たら流石の私でも手に負えない。
協力要請をしようにもしづらい、なぜなら向こうは呪いやら病気やらの塊。ルザーナならギリワンチャンまだしもクロマやスアは呪力関連のスキルは持っていないから下手に呼べば危険に晒してしまう。
そう考えるとハルカがいかに邪獣特効なのかがわかるわ...。一応家は戸締りしてるからまだ帰らなくても大丈夫だ、しばらく異常事態が発生しないか色々調べておこう。
今ヴァルケオが結界外、マウ姉が結界内、テュー兄は空から森を監視、自然精霊達はガイスト様が呼んだ大精霊に任せる。
私は...そうだな。
この状況を急ぎ朱斗達に伝えるのがいいだろう、これは間違いなく...書類案件だ面倒畜生!!
そういうわけで私はリーツに帰る事にした。
ーーーーーーーーーー
「ご主人様...どこに行ってしまったのでしょう。」
「タビさん曰くレギスの森に行ったみたいですよ。」
キジコが森に飛んで行った後の頃、ルザーナとクロマは休憩中に主人の行方について話していた。
「師匠の事ですからジッとしていられなかったのかもしれませんね。私達は今こうやって働いている身ですから。」
「ご主人様...。」
「ルザーナ、そんな顔してたら師匠に迷惑かけますよ。ほら、しゃきっと。」
己の主人が動く中、自分は主人の側にいない事に寂しげ漂わすルザーナ。自立したのは良いがこれはこれで少し辛いようだ。
「ルザーナさん、クロマさん!」
「あ、はい!タビさん。」
「町の警護の手伝い任せられるかな、今日担当だった人が風邪を引いたみたいで...。」
「わかりました、行きましょうルザーナ。」
「はい!」
〜ルザーナ視点〜
よし、ご主人様がいない間にも私はこうやって自立する事が出来たんです。ご主人様が頑張ってるのですから私もいっぱい頑張らなくちゃ。
今リーツは警護強化のため警兵の追加があったのですが何人かはリーツに始めて派遣された警兵さんだそうで、町について把握していない所があるので、私達のような町の事を知り実力ある館従業員にこの仕事を任せられる事があるのです。
聞いた話によるとこう言った状況に紛れ犯罪に手を伸ばす輩が割といるそうです...、
「例えばこんな風に!」
「ギャアアアッ!!?」
「スリは犯罪ですよ?」
ほらいた。
治安悪さの原因になろうとしないでください。
泥棒は警兵に預け盗られた物は持ち主に返しました。
現場に戻ってさあ見回り再開。
「かっこいいじゃないですかルザーナ〜。」
「やめてくださいクロマ、仕事をしただけですよ。」
「仕事に前向きなその姿勢がかっこいいのですよ。」
本当にやめてください、つい照れて恥ずかしいです。ギュッと尻尾握ってあげましょうか、いえ人前なのでやめておきます、なので。
「クロマ、少ししゃがんでください。」
「?」
フー...
「ひゃぁっ(小声)!?」
耳に息でも吹きかけておきました。
「何をするんですか!?」
「これであいこです。」
「むぅ...。」
...っ!
「ルザーナ...今、南...レギスの森から嫌な気配を感じませんでした?」
「はい、同時にご主人様の魔力も。」
...ご主人様は何かと戦っている?
「グオオーーーーンッ!!!!」
「!?」
「っ、上!!」
それは突然空から落ちてきた。
真っ黒なオーラを纏ったワイバーンが落ちて来た。
落ちてきたのに傷がない。
骨の折れた音も聞こえたのに、何事も無かったかのように動き始めた。
突然それは現れた。
上空か真っ直ぐ落ちてきた。
人々が悲鳴をあげ逃げてゆく。
「...クロマ。このワイバーンは何か変。」
「ええ、魔力の流れがとても不安定かつ不気味です。これは今すぐに消し飛ばしてでも倒すべきです。」
「...地竜開放!!」
赤く光る目が私達を睨む、だがその目はどこか虚。
「スアや朱斗さん蒼鈴さんもこれに気づいてるでしょうけど、待っていられるような時間はありません。ルザーナ、もしもの時のために持ち堪える力は温存しておいてください、魔力が不安定過ぎてワイバーンがどれほど強いのかがわかりづらいです。」
「ええ、当然クロマも緊急時の転移分の魔力を残しておいてください。」
リスクを考え出来る最善の行動をとる。
近くの警兵達は住民の避難に専念させておこう。
ルザーナ、参ります!!




