第222話 教授-過去編①
「...。」
床に散らばった書類に上で寝落ちした教授。
それを呆れた目で見下ろすハルカ。
「教授...こんな忙しい時に床で寝てるとは。だからあれほど適度に寝て肝心な時でも疲労なく動けるようになっておけと言ったのに...ったく。」
「(無駄だ、そいつは昔からそれだ。)」
フィアも諦め感じる声で念話してきた。
「困った男だ、世界って本当にこんなやつに警戒心抱いてたのか?」
一応ベッドまで運んどくかぁ。
服に対して物体移動、オーライオーライ。(物扱い)
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俺は細菌学の研究者だった。
日本という国で個人的に興味を持ち、細菌と人類の共生、歩みなどを研究していた。
人類と細菌の共生は歴史が長い。例を挙げるならば発酵食品、保存が効いて栄養価の高い上に大体のものは美味い。細菌は増殖し食品を変質、人間は栄養をもらう。人類歴史に於いてこれほど細菌と共生出来たものなんて無いだろう。
そんな俺も細菌に色々研究するのが好きな男だ。俺の研究分野は基本的に今言った人類と密接して来た細菌が中心だった。
そう、自分なりに研究が出来る男だった...ある日までは。
ある日休暇を終え出勤をしている時だ、それは見間違いでも疲労でもなんでも無いハッキリとあった。
[黒い大穴]が。
それを見てすぐ俺の意識は消えた。
次に目覚めたのは...どこかの家。
洋風で大きな家、こんなの日本にあったか?
「マース、どうしたの?」
「え?」
振り向くと髪が金色の女性、一体どちら様だ?
「どうしたのお母様。」
「マースが庭がボーっとしていたからどうしたのかなって。」
...そういや意識が...ん?
お母様?
ズキッ
「いたっ....。」
「マース!?」
突然だが激しい頭痛に襲われ、俺はまた意識を失った。
次に目覚めたのはベッドの上。
俺が目覚めるなり騒ぎが起こる、するとさっきの女性と少し髭の生えた男が部屋に入って来た。
「マース、大丈夫か!」
「は、はい!大丈夫ですお父様。」
お父様だと?
...そういえば目覚めた後から妙な記憶が溢れ出して来た。
知らないが知っている景色、知らないのに知っている人、知っている筈がないのに知っている思い出。
倉田数也...俺の名前。
マース・アイクスィア....誰だ?
誰って...俺か...俺!?
ベッドの近くにあった鏡を見るとそれは知らないけど知っている顔。よく見れば手が小さいし若々しい。
思い出した、通勤途中黒い何かに吸い込まれ気づいたら...まさか。
この現象に心当たりがあった。
なんらかの原因で死んだのに気づいたら違う体になって場合によっては記憶が残ったまま。
ああ...異世界転生って奴だ。
なんてこった、よりにもよって乳酸菌に関する論文をまとめてたのに...最悪のタイミングだ。
「マース、じっとしていてくれ。」
「?、はい。」
「...鑑定。」
は?
男が鑑定という言葉を口にした瞬間、何かが透き通る感覚がした。
「...特に異常はないな、ただ体力が少し減っているな。今日は休んでおけ。」
「わ、わかりました。」
男...いや、この世界での父親は去っていった。
...待て、また記憶が溢れて来た。
魔法、術式魔法陣、魔物、人類、その他...どうやら本格的に本の中のような異世界らしい。
だとするとあの男が使った鑑定というのも魔法の一種だろう。
...俺どうなるんだ?
ーーーーー
それからしばらくして俺は体も大丈夫となり外に出る。
そこは町、結構広く人々が笑っている。
だが自分の家と比べて小さい、もしかして今の親は領主とかそういうのか?
「マース、大丈夫か?」
「はい、大丈夫ですお父様。」
「おはようございます、領主様!」
やっぱり。
「...もうすぐ...ですね。」
「ああ。」
?、なんの話をしているだろうか。
さっきまでの笑顔が消え何かに怖がるような...。
「どうしたのですかお父様。」
「マース...そうだな、お前にも話しておくべきだな。」
「...なんでしょう。」
「マース様...今この世界は滅びの危機に瀕しているのです。」
「...滅び!?」
どういう事だ、転生してすぐ世界が滅びの危機って一体どういう状況なんだ!?
「邪獣だ。」
「邪獣...?」
「邪獣というのは今から100年前に現れた災厄、災いの魔物でございます。」
「数十年前、勇者と呼ばれる存在が己の命を犠牲に封印をした。だがもうすぐその封印は解ける。」
「...世界の危機って、その邪獣ってのはそんなに強いのですか!?」
「ああ強い、いやそれだけじゃ無い。邪獣には呪いを自在に操る事が出来るという、その力でかつて多くの人間が命を落とした。」
「...!!」
そんな奴が復活したらまずいじゃないか。
次死んだらどうなるんだ、今の俺はなんなんだ!?
「怖い話をしてしまったな。だがこれはいずれ起きる、それは忘れるな。」
「...はい。」
...怖い、本能的な何かで恐怖を感じてしまう。
恐怖...か。
昔、納豆菌に関する実験で十分な殺菌もせず別の実験室に入ろうとした部下を見てド肝を冷やした事がある。
アレと一緒だ、積み重ねたものが一気に崩れ去るの事に恐る気持ち。子供になったせいかより怖く感じる、現代兵器も無いであろうこの世界が怖い。
俺は生きたい。
正直この世界に来たばかりでわからない事が多い、それでも生きていたい。
今の俺になる前の...マースと言う子の気持ちが伝わってくる、家族を、みんなを守りたいと言う気持ちが。
...強いなこの子は。
恐怖に飲まれた俺が情けない。
ならどんな事でもいい、俺は俺に出来る世界を救う方法を探したい。
キラッ...
「...!!?」
「マース...なんだその光は!」
「えっ!?」
気づくと俺の手には眩い光が、光は俺に纏い覆ってゆく。すると不思議と何か自信がついたと言うか、力が湧き上がった。
「これは!?」
「まさか...マース様が選ばれたのか!?」
「え、ええ!?」
「マース!...その力はかつて...、
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「...んぉ!?...夢か。」
ガラッ
「やっと起きたか...教授、向こうで邪獣に関する厄介な事態が起きた。眠気覚ましてから早く来て。」
「!...わかった。」
懐かしい夢を見た気がする...ただの人であった時の。




