第221話 親孝行
「行くよキジコちゃん!」
「おう!」
妖変化、猫モード。この森の中を素早く的確に動くならば猫として行動する方が有利だ。
「ふふ、随分綺麗になったわね。」
「こんな時に何言うの...ありがと!」
私とマウ姉は魔物熊に炎を放ち、熊は真正面からくらい後退した。思えばマウ姉(狐モード)と2人(匹?)で戦うのは初めてかもしれない。よーし親孝行頑張りますか!
熊は力任せに腕を振り、木々を薙ぎ倒す。
私はそれを避け、隠密を使いながら熊の行動を観察、マウ姉は炎を纏い熊の注意を惹きつける。熊は薙ぎ倒した木を咥えマウ姉に向かって振り飛ばすもマウ姉は気を一瞬で灰にした。
「しまった...木炭にしとけば良かった。」
...ただ灰にするよりは良いね、うん。
そんな事はさておき熊はマウ姉を爪で引き裂こうと襲い掛かる。...ふむ、今の所カラミアのように風を操ったりなどの魔法とかは使ってない。それとさっきの奴らと比べて火力も耐久力もあるように思える。
何かが上がって何かが下がる...さっきの魔物や邪精霊と戦い、なんとなくだがそうなのじゃないかと思っている。まぁまだ推測の段階だ、そろそろ加勢をしよう。
「マウ姉!コイツ以前魔法とか使ってた?」
「使ってないわ!この熊は力任せに暴れるのは昔と同じ、でも凄く強化されているわ。」
強化されているのは同じ。
魔法は元から使っていない。
感覚も特に失っている様子はない、
痛覚もしっかりある。
...コイツはなんなんだ?
「狐火・烈火乱舞!!!」
マウ姉は火の玉を連射、熊は腕で顔を防ぐもダメージを負っていく。見たところ自動治癒とかも持っていない。
「妖炎玉!!」」
「グオオオオ!?」
ならさっさと倒すに限る。
私は化け猫を解除、魔砲を起動。
「ペネトレーザ!!」
「陽光・烈閃火!!!」
魔力と光のレーザーが熊に被弾、しかし硬くて貫かない。
...ってかマウ姉レーザー使えたんだ、かっこいい!
ってそんな事考えてる場合じゃない、と言うか硬い!あのレーザーでも貫通しないなんてどんな肉体強度だ!?
「グオオオオッ!!!」
「この程度...あら?」
「どうしたマウ姉?」
「...今一瞬、熊の魔力が乱れたわ。よくはわからないけど意味があるはずだわ!」
「なら...やる事はただ一つ。」
攻撃をしない。
もしかすれば、それが。
私とマウ姉は熊にただ近づき攻撃を避ける。
熊は必死に爪を、前脚を、腕を振る。
木々は倒され、吠えると空気が揺れ、突進すれば一瞬で獣道が出来る。
「グルル....グオオオオーーーー!!」
馬力を上げるような大きな吠え。
わかる、パワーが一気に上昇した。
同時に[減った]ようにも見えた。
「ようやくわかったわ。」
「マウ姉も?私もわかったよ...あの熊は[生命力]が犠牲になっている。力を引き出せば引き出す程生命を失ってゆく、それだけがわかった!」
なら...もっと効率のいい方法を思いついた。
「燈朧、霊獣妖力解放!!!」
「熱っ、キジコちゃん!?」
「マウ姉離れてて!!」
向こうはなんとしても私達を食おうとしている怪物。食うためなら力をどんどん引き出すはず、たとえ無意識でも生命を犠牲にしてな!!
「私の全力....大妖怪モード!!!」
妖炎色の長い髪が妖しく輝く。
私の力が溢れる。
熊は本能的に力を引き出す。
「うおおおおおーーーーーー!!!」
「グオオオオーーーーーーッ!!!」
「凄い...キジコちゃんまだ力上がるの!?」
熱気を熊に向けると熊は耐えるのにも力を使う。
これで...終わりだ。
「グオオオッ...........。」
熊はまるで何もかもがカラになったかのように突然動きが止まり倒れた。瞬間、死骸は灰になって崩れ消えた。
「...ふう。」
流石に力を使いすぎた、体力魔力温存のために獣人モードになった。
「...終わったわね。」
「まだだ、この川の汚染原因をつきとめないと。」
レーダーフル稼働。
どこに何がある、この汚染...原因はなんなんだ。
この前兆を止める方法はなんだ?
「...!川の中だ。なんかある!!!」
物体移動でそれを引っこ抜く。
それはドス黒い結晶。
見た瞬間、脳にノイズが入るような不快な感覚。
これは...破壊しなきゃ。
ハルカ...もう一度意識を。
〈おーけー。〉
....待て、もしかすれば視覚も。
〈視覚...?〉
ハルカ自身もこれを見てくれ。
目に魔力を込める。
〈...。〉
[ 連結スキル、視覚共有を習得。]
[効果:個体キジコとハルカの視覚を共有。]
「〈早速発動。〉」
〈...え、何これ!?〉
川の中から出て来た。
...壊すからさっきの力お願い。
〈わかった。〉
「〈連結スキル、破邪の癒光。〉]
「うおおおおお!!!!」
漫画で見た事あるが、こう言う邪に満ちたやつって癒しの力がめっちゃ効くとかあるけど、多分これもそれ。
破邪の力を纏い猫パンチ。
すると結晶は光に反応し粉々に打ち砕け消滅する...だが。
「ああ...ああ...手が...。」
手が....血塗れになった。
ーーーーーーーーーー
〈...手、大丈夫?〉
「キジコちゃん、多分それ邪獣の呪いの力かも。」
「邪獣の呪い...そういえばハルカが。」
〈うん、実際破邪の癒光が格別その傷を癒している。〉
[ 補助スキル:呪力耐性(1)を習得。]
[効果:肉体、精神に悪影響をもたらす力、呪いへの耐性が上がります。]
[ 補助スキル:毒耐性(1)を習得。]
[効果:文字通り毒への耐性が上がります。]
[ただし全ての毒に作用するわけではありません。あくまで人体に有害な量に達した場合のみこのスキルは発動します。]
[ 補助スキル:邪獣呪力耐性(1)を習得。]
[効果:邪獣特有の呪いに対し耐性が上がります。]
「...キジコちゃん、何かスキル手に入れた?」
〈呪力耐性、毒耐性、邪獣呪力耐性の3つを得たんだね。スズネさんのアナウンス聞こえたよ。〉
「うん、色々痛みが少し引いた。」
〈あと少し....よし。〉
痛みが無くなった。
「これでよし...お?」
この感じは...
その瞬間、黒かった川の水が透き通り始めた。
水からはよくわからない神秘の力が溢れ、周囲の全てを癒してゆく。
精霊水の川が...戻った。
疲れた私達は浅瀬に倒れ浸かる。
「....はぁ。」
「終わったのね...。」
「キジコ!マウリ!」
「...ヴァルケオ?やっほー。」
「無事か!?」
「無事だよ、ちゃんと元気。」
結界外の調査を終え戻って来たヴァルケオ。
すっごい焦った様子で帰って来たけど大丈夫、もう終わったし怪我も治した。
あえて言うならお腹空いた。
ハルカとリンクしてたせいかすっごい疲れた。
甘いもの食べたい。
『川が戻ったー!』
『戻ったー!』
「おーい!」
環境良好の証、自然精霊様のご登場だい。
「...この世界で、自らの足で進み行った初めての親孝行がこれだなんて、ちっとハード過ぎじゃない...?」
「そうだな...ありがとうな、キジコ。」
「親孝行ねぇ...今度は何やってもらおうかしら?」
「ヒェ...。」




