第21話 過密な一日
「....チッ、バレてたんかよ。」
「いや、[闘牙]を使ってようやく気づけたよ。」
するとスーロッタの体から禍々しいオーラが発する。
このオーラ...どこかで?
「偶然取り憑いたとは思えない...誰の差金だ、邪精霊。」
「!!」
『...流石、大昔の野獣の末裔...と言ったところか。もう暫くこの体を使う予定だったんだがなぁ。ったく、うぜぇよなぁ。』
ケイの言葉からか聞く限り、どうやらスーロッタは邪精霊に取り憑かれているらしい。
邪精霊は早朝戦ったばかりだって言うのに。
過密スケジュール過ぎねぇか?
「お前、朝に戦った奴と関係あるのか?」
『...?なんの事だ。』
「スキルイーターを核としていた邪精霊だよ。」
『ああ、アイツとは別人って奴だよ。その感じから察するに負けたんだなアイツ。』
やっぱり何か知っていそうだな。
だがヤツは今朝のと違い魔力が安定している。
油断は出来ない。
「同じ日に邪精霊に二度も出くわすなんてどういう偶然だ?」
「キジちゃんの言う限り本当に裏がありそうだ。」
『裏ぁ?あるよそら。アイツと俺は同時に召喚されたんだからな。神獣の資格を持つお前を殺すために。』
「召喚だと...?」
邪精霊は召喚出来るのか...。
そして同時に召喚されたって事はジジイの件の黒幕と同一、そいつは間違いなく私を狙っているのがこれではっきりわかった。
「お前を召喚した奴はなぜ私を狙っている。」
『知るかよ、ただお前を殺せって命令されたんだからな。』
「だったらその召喚主はどういう奴だ?私の事を知っているようだし。」
『教えるかよ普通。奴には色々契約の下で俺は動いてる。その疑問に、はいそうですかなんて言葉はねぇよ。』
流石にすんなりいくわけないか、
「なら、無理矢理でも言ってもらうかな。朝のアイツのように何かに取り憑いてないとまともに行動取れないようにも思えるし。」
『おいおい、この体は人質でもあるんだぜ?下手に攻撃出来るもんじゃないよなぁ?』
するとケイが
「構わない。何もしないままなら今後何も起こらない、昔からスーロッタが言ってたよ。」
...もしもの時の覚悟はあった..って事かな。
「ケイ...キジコ様...気を..つけて...。」
ゼオはかなり強いのを食らったらしく、まだまともに戦えそうにない。
「ゼオ、心配するな。どの道やるだけやってみるしかないんだ。」
「ケイさん、行くよ。」
「ああ。」
『ケッ、人質作戦もそれほど有効じゃなさそうだな。めんどくさいがこのまま殺すか。』
バシュッ
『...!』
その一瞬で邪精霊の元に着くケイ、
「破岩脚!!」
『グッ..!』
爆発したかのような衝撃波が響き渡る。
『この程度...!』
「強撃爪!」
『ガッ...この魔物がぁ...!』
ケイさんの蹴りが入った瞬間の隙を狙い私の攻撃が入った。
『チッ、いきなり急に寄ってたかって鬱陶しいな!』
邪精霊は刃先の砕けた大剣に魔力を溜める。
すると剣が再生し、赤黒い刃が見える。
『余計な魔力を使った...!ソニックスラッシュ!!』
「があッ!」
「ケイさん!」
俊足の横薙ぎがケイに入る。
そのままケイは後の木に飛ばされる。
『ふん、大した魔法の無い体だがなかなか強い力を持っているじゃないか。』
「チッ..。」
スーロッタの肉体だけあって生半可な強さじゃない。
『さて、さっさと死んでもらうぞ魔物が。』
「...そう簡単に殺せるかな?」
『フンッ....調子に乗るなよ!ハアッ!!』
...正直今朝の戦いは相手が最初から弱った状態だったから倒せたものの、今回はそんな様子も無い。
ただ避けてばかりもあれだし、試しに使ってみるか。
スキル:隠密発動。
「よっと!」
『そこだ!!...な!」
邪精霊の刃の先に私の姿は無い。
「どこ狙ってんの?こっちだよ。」
『小癪な!!』
成功だ。
これは私の得意分野。
相手の実力は高いが決して弱点がないわけではない。
向こうは大剣に対し今の私は小さな猫の体。
ちゃんと狙わないと当てれないし、
無駄に動けば体力は減るだけ。
そこに加えて隠密で敵からの認識力を下げている。
つまりこの状態で回避する事で敵は次に繋げる攻撃を当てづらくなる方法だ。
テュー兄直伝の戦術よ!
いつまで持つか知らないけど、
こっちばっかみてる場合じゃないよ?
「鋼壊斬!!」
『ガアッ!?』
ケイの凄まじい威力の手刀が後ろから入る。
骨何本か絶対折れてるだろう。
『あ...が...!?』
「もろ首と肩の間に入った。よく効くだろ?」
『ふ..ふざ..け...!』
その瞬間ケイが脚に魔力をこめる。
「激怒之剛脚!!」
ケイの蹴りで邪精霊は硬い地面に強く打ち付けられる。
「キジコ様!」
「くらえ魔砲弾!!」
追撃で私の技が入った。
今のでかなりダメージは入った。
邪精霊は動こうにも動けない。
勝負はあった。
『あ..あああ...!!!』
「...自然治癒は無駄よ。スーロッタは覚えてるけどレベルは高くないしその傷治すには時間かかる。降参して素直に情報を吐け。」
『だ...だれが..ガハッ!?』
ケイの足が邪精霊の腕を蹴る
「吐かないならさっさとその体から出て行けよ。」
ケイの鋭い目が邪精霊を睨む。
『だま..れ...そんな事...従うわけがないだろおお!!』
「じゃあ、死ね。私達戦争出てる時点で覚悟あるから。」
『ぐ...ふざけるな...死んで...たまるかああああ!!」
「!?」
『物体移動!!』
再び地面の石が撃ち上がる。
「があ!?」
「ケイさ...ぐぁ..!?」
『...どちらも...受け入れんぞ..覚えて..おけ...!!』
邪精霊は撤退を図ったが...
「今だミーシャ!!」
『!?』
ミーシャから眩しい光が発せられる。
「ようやく発動出来ます。
終わりです、自然魔力奥義:精霊之祝福...!」
『!!??やめ...!』
「苦しいでしょうね。本来この技は精霊力を用いた集団強化魔法、私達にとっては善なる効果をもたらします。
邪精霊を除き。」
精霊之祝福:自然に深く関わる魔力こと自然魔力の高位種、精霊力を用いた集団強化魔法。与えられた者は精霊に祝福され、一時的に更なる力を得る。ただし極めて悪い心を持った者や、逆属性とも言える邪精霊には、ただダメージでしかない。
『ぐああああ...ち..畜生....ぉぉ.....!!』
黒いオーラが魔力粒子となって消え、スーロッタの体がその場に倒れ込む。
そしてケイのオーラが鎮まり、荒れた髪も元に戻る。
「..はぁ....はぁ....お..終わった...す?」
「...邪精霊..の....気配は...感じない...。」
体力切れで私達も倒れ込んでしまった。
「ヴルル!!!!」
「ケイ!!キジコ様!!」
「スー!しっかりしろ!!」
ケイはリミッターを解除した反動でそのまま眠り倒れ込んでしまった。
そう言う私も緊張の糸が解けて意識が遠ざかる。
今日一日、この体で無理をしすぎたようだ。
ミーシャの料理が煮える中、事態は収まり
ただ静けさが広がった。




