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猫に転生しても私は多趣味!  作者: 亜土しゅうや
邪獣動乱編
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第217話 おかえり

 「それではまず、私の名前はハルカと申します。私は研究所からの使者として現在この場にいます、そのためこの話の信憑性は皆様に取ってはとても低いものでございます。ですがこの話は近いうち...それも今年中に起きる出来事です。そのためもしこの通信を切るのであれば暫くの期間国内の守備を強化、また衛生・環境状態の良質化を維持して下さい。」

 「...我はハルバンス=サジェス、サジェス帝国の主を務める者だ。ハルカ殿、例え冗談であっても邪獣の話を無視出来るような者はこの場におらん。邪獣の脅威は数百年経った今でも恐れられている、詳しく聞かせてもらおう。」

 

 突如私の家の客間で始まった緊急リモート会議。

 出来れば他所でやってくれ....。


 「私はレンシア・ムート、ムート王国の女王でございます。我々は中立大国の主、桃花殿を信用しているからこそこの場にいます。ですのでどうかご心配なく。」

 

 他の王達もその言葉に頷く、どうやら信用出来るというのは本当らしい。腹の内は知らないが。


 「...では。まず邪獣に着いてお話しします。」


 ハルカは先程私達に話した邪獣の話をした。

 邪獣がまだ生きている事、

 邪獣ウィルスの感染症初期症状の対処法、

 邪獣自体がウィルス感染個体である事、

 その邪獣は他とは違う何かが起きていた事、

 マギアシリーズの真実、

 そして...


 「私は邪獣対抗のための肉体を持って生まれた存在です。血縁上はお母さ...あー..。」

 「私の血を主としてこの子は作られました。生物学的には私の娘になります。可愛いでしょ。」

 「「娘!?」」

 「ちょっとキジコ様子供出来たの!?」


 帝国モニターの方からヴェアートさんの驚愕ボイスが聞こえた。


 「ちょっとヴェア...静かに。」

 「うう...ごめん。」

 「んんっ...それでハルカ、質問があるけどいい?」

 「何、お母さん?」

 「確か鑑定で邪獣の血とか書いてあったけどさ、ハルカには...邪獣の血が流れてるって事でいいんだよね?」

 「うん、ちょっぴりだけ...ああちゃんと浄化済みだよ。邪獣ウィルス感染の新たな対抗策として抗体を持った細胞の作製実験を教授はしたんだ。その中で唯一抗体を持った細胞を培養し完成したのが私の素体だよ。少なくとも邪獣ウィルスの感染、邪獣が持つ呪いの力に完全耐性を持ってる。」

 「じゃあ、ハルカの血から抗体が...。」 

 「それはダメだった。」

 「えっ。」

 「一応何度か試したんだけど...抗体は無かった、むしろ変質していた。」

 「変質...?」

 「うん、向こうの世界の知識をもとにマウス実験ってのをしたんだけど...そのマウスが完全な抗体を持つことは無かった、せいぜい初期症状は無効化ってくらい。」

 「...どういう事?」

 「後天的だと人体に悪影響過ぎて作れない、だから先天的な作成でって事がこの抗体作成コンセプトなんだけど、それだと適合し過ぎていたんだ。邪獣の細胞や遺伝子が私という肉体となったことで形が変わった。結果その抗体は私には凄まじい効力を示すけどそれ以外にはそんなにって感じになっちゃったんだ。だから私から血清やワクチンを作ろうにもあまり期待出来ないって訳なんだ。」

 「そうか...。」


 向こうも研究が必ずしも上手くいくわけではないというのがわかるな。

 

 「さて、話を戻そう。ハルカ、邪獣の復活は年内と言ってたけど、具体的にはいつ頃になるんだ?」

 「最も可能性があるのは...13月の後半だよ。」

 「年末で忙しくなる時期だな...困ったな。」

 「かつて邪獣との戦争は熾烈を極め数十年の末討伐したと記録には残っている。だが今回はどうなるか...。」

 「...今こうやって向こうが復活する前に対策出来る事自体がものすごく幸運やわ。かつてのような惨劇だけはなんとしても避けないとね。」

 「その通りだ、邪獣に滅ぼされかけた世界が蘇ったというのにまた破壊されるとなると非常に迷惑だ。」

 

 王達は会議をしている間に部下を使い国の守備耐性を整えている様子が感じられる。信用してもらってるのはわかるが、同時に邪獣が数百年経った今でもとても恐れられているのが嫌でも感じる。

 この世界来てそんなに経ってない私には若干理解が追いつかないのが情けない。


 『一つ質問をよろしいでしょうか?』

 「はい?」

 『邪獣はどこで現れるのでしょうか...?』

 「それは...、


 「かつて邪獣が死した地...レギスの森だ。」

 

 「...!」


 縁側に立つ男の姿...ヴァルケオだ。横にはエレムスもいる。


 「すまないキジコ、本当は明日来る予定だったが、桃花からの緊急連絡を受けてな。」

 「邪獣が生きていると聞いて驚いてな、。」

 「ヴァルケオ、エレムスさん...!」


 二人は縁側から入ってきた。

 あーちなみにルザーナ達は2階に行ってもらった。

 狭くなるので。


 「以前ロティアートが言っていたな、あの森で邪獣の牙の破片を見つけたと。」

 「はい、あの地こそが邪獣が死した地。邪獣はウィルスだけでなく呪いに関する力を持っていますが..。」

 「俺たちが森の神域に張っている神力結界が呪いと完全復活を阻止していた。キジコ、お前と暮らしたあの地の奥にある岩は知っているな。」

 「うん、近辺の岩場で修行してた。」

 「あそここそが神力結界の中でも最も強い結界が貼ってあったんだ。その中にあるのが邪獣の死した場所だ。」

 「...そうだったのか。」

 「あの地は大聖獣様の命で長年守ってきた、討伐後も残っていた呪いの力を封じるためにな...。」

 「あの森にそんな秘密が...。」

 「...隠していて悪かったな。」

 「「私はそんな事気にしないよ。」」

 「ん?」

 「あ...ごめんなさい。つい過去の記憶が...。」

 

 うっかりキジコとして反応したハルカ、顔が赤い。

 可愛い(可愛い)。


 その後も私達は今できる事と今後の対策会議予定を決め、今日の所は解散となった。



ーーーーーーーーーー


 「...ふぃ、こんなに話すとは思って無かった。」

 「お疲れ様、ハルカ。」

 「...小さいな。」

 「?、どうしたヴァルケオ。」

 

 ヴァルケオはハルカと私の頭を撫でる。


 「...色々大変だったな。」


 なぜかその言葉には重みがあった。


 「...こんな姿でごめん、ヴァルケオ。」

 「いいさ、お前が元気そうであるのが嬉しいよ俺は。」

 「もっと元気になりたきゃ俺が鍛えてやろうか?」

 「「それは結構です!!!」」

 「なんでだ!!」

 「ぶふっ、あっははは!!!」

 

 外がすっかり暗くなっている。冬は本当に外が暗くなるのが早いなぁ。寒い時間帯だけどエアコン的な術式学んでおいて良かった。


 「じゃあ私はそろそろ帰るよ。」

 「...そうか。」


 ドスンッ!!!


 「うお!?」

 「庭に何かいるぞ!」

 「この気配は...!?」

 「迎え。」


 「...久しいな、神獣と霊獣、そしてエデルの番猫よ。」

 「プロト10...!!!」


 庭に現れたのはマギアシリーズ・プロト10。

 以前よりも強化されたような見た目をしている、配線が無いというか機竜という言葉がやたら似合う。


 「...魔力が跳ね上がってる。」

 「そう構えるな、戦う気は無い。」

 「フィア、出来れば町の近くに来るのはやめて。」

 「...フィア?」

 「プロト10の名前、言いづらいからつけた。」 

 「えええ!?」

 

 この子...自由だな。

 でもまぁ確かにプロト10とはいちいち言いづらかった気がするけども...。


 「さて会ってすぐだがまた会おう、我々も忙しいのでな。帰るぞ。」

 「...待ってフィア、し忘れた事がある。」

 「...?」


 「ルザーナ、クロマ、スア...ちょっといい?」

 「はい。」


 


 「...ただいま、また会えて良かった。」


 ハルカはルザーナを抱いた。

 その声は悲しみ混じりの泣き声、

 私であり私じゃない存在故の言葉。


 「...おかえりなさい、私もまた会えて嬉しいです...ご主人様。」

 「...!!!ああ...あああああ....。」


 さっきまでは平然としていた少女、でもずっと耐えていた。私の記憶を持ちながら違う世界を生きていた事で心の底に溜まっていた感情が溢れていた。


 「師匠...おかえりなさい!」

 『会えて良かったの...うう...。』


 「...少し用事を思い出した。5分だけ向こうを飛び回ってこよう、それまでには泣き止んどけよ。」


 フィアは一度飛び去り、私の家には少女の声が響いていた...。

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