第215話 私は私の道を行く
「なにせ邪獣は...死んでないからな。」
「...え?」
ーーーーー
「...ちょっと待って、邪獣が...生きてる...!?というか邪獣の痕跡って残ってたの!?」
「はい、私自身も勝手に研究に首突っ込んでるうちにその事を理解しました。」
さっすが私、じっとするのが苦手で妙な分野に手を出すとは...なんてヤツだ。(自分含め)
そんな事よりも、
「...!!嘘でしょ...朱斗蒼鈴、大至急緊急会議の準備して!」
「桃花様...ここで会議する気?」
「緊急過ぎる自体なのよーー!!」
ーーーーーーーーーー
「どう言う事?邪獣が生きてる?」
「ああ、少し待て。」
そう言って教授は双眼顕微鏡を取り出し、邪獣の血が閉じられたプレパラートをセットする。
「見てみろ。」
「....っ!?なんだこれ...。」
それはグロテスク。
汚染させた血液には黒い物質が漂い、血液中の細胞は悲惨な姿となっていた。内側から蝕むには納得がいく。
「それでさっきのようにフォーセ鉱石をっと。」
「...!!?黒い物質だけが消えた...。」
そしてすぐ赤い血も消えてしまった。
「これは...。」
「そうだな...数百年前に現れた邪獣が邪獣ウィルスを撒き散らしたのではなく、邪獣自体がそもそも邪獣ウィルスに感染した個体だった...俺はそう考えている。」
「伝説の災害がそもそも災害の被害者そのものって事?」
「そうだ。血を調べる限り感染したのは当時の聖獣であるのは間違いない。出なきゃそこまでの強さは無かった。」
「でも...それだったら他の聖獣も感染して邪獣になってたんじゃないの?」
「そうそこだ、ただ感染しただけでこうなるかと言われたらあまりにもおかしい。ならその邪獣にだけ他とは違う何かがあったのは必然となる。...そして残念ながらそこから先は俺でもまだしらねぇな。」
教授は大きなため息をつく。
「...ここまで聞いて見ていうのもあれだけどさ。なんで敵である私にここまでする?」
「...さぁな。考えてみれば無用心過ぎたな...まぁ言ってしまったもんは仕方ねぇ、忘れるか?」
「アホか、寧ろオリジナルが知らない事情を今出来るだけかき集めた方が後の得策だ。なにしろ私は下手に扱うのはダメな存在なんだろ?」
「ああその通りだ俺が馬鹿だった。着いてくるなら勝手にしろ。」
「はいはい勝手にしますー。」
心なしか教授からはクソみたいな末端研究員達と違い私が研究に首突っ込んだ事にどこか楽しげを見せた気がした。
洗脳とかそういうのじゃない、
オタクが共通の友を得た時のような感覚か?
それからまぁ...半分勝手ではあるが教授の研究に首を突っ込みこの事態について調べる事にした。オリジナルの私の事だ、今頃交友関係も増やしてはトラブルに巻き込まれているだろう。
ルザーナ達元気かなぁ...。
ーーーーー
「...ぁっ!?」
突然頭痛が襲いかかってきた。頭を抑え転がると何かが脳に流れ込んできた。
そこには朱色の女の子が大剣を持ち襲いかかってくる映像...いや、記憶。それに対して全力で戦っている。
というか誰だこの女の子....!?
凄まじく強い、大剣女子ってだけでもフィギュア欲しいくらいなのに...。
「どうした!?」
「...ってのが。」
「...ただでさえお前の存在が謎そのものだが...。おそらくオリジナルのお前が何かしら強い衝撃...出来事があったのだろう。お前の言った事から考えるとそいつはニコだ。」
「ニコ?」
「もう1人の神獣候補だ。」
「...!!」
もう1人の神獣候補...!?
あの女の子が!?
「確かその話は...、」
「1ヶ月前だな。」
「!?」
映像結晶から聞こえる謎の声、
しかしなぜか、本能がコイツを恐れている。
まるで敵わない何か、大きな壁。
そこに映るのは金属を纏うボロボロの竜....。
「プロト10、お前眠っているのじゃないのか?」
「さっき目覚めたばかりだ、...随分面白いのがいるじゃないか。」
「ああ、例の実験体だ。最近目覚めた上に記憶もガッツリ受け継いでこーなってる。」
「プロト10...っ!?」
また頭が痛む。
記憶に追加されたのは...ニコという女の子とデートっぽい事してた後に...町に引っ越してきた女の子が攫われて...ニコとプロト10に挑むも敵わず...朱斗と蒼鈴の真の力でボコボコにされた....って記憶が入ってきた。
「...ここがどこか知らないけどこんな所にいたのか。」
「フンッ。」
「どうやらかなり記憶を戻してきたようだな....あー。」
「?」
「そういやお前の名前付けてなかったな...。」
「...そういえば。」
思えばキジコじゃないけどキジコであると思ってたので名前そこまで気にしていなかった...変な気分だ。私は別人、キジコだけどキジコじゃない。
「なんだ、名がないのかお前は。...プロト11か?」
「そんな名前やだよ!!?」
(間違ってはいないのだがな...。)
そんな名前は嫌です。
自分で決めるべきだ...。
「うーむ....。」
「なら新たな仲間としていい事教えてやろう、人間は名を決める際に思い出のある光景にあった物から名を付けると聞く。」
「新たな仲間って...でも思い出のある光景かぁ。」
「そんなすぐ考えなくてもいいだろう、ゆっくり考えるといいさ。プロト10、お前も一度点検するからもう一度寝ろ。」
それからしばらく私は考えたが思いつかなかった。
その間退屈しのぎではあるが自身の戦闘力強化をしようと実験体という名目で教授の手伝いをする事にした。
この行動が良くないのはわかる。
私だってやっていい事悪い事判断して行動している。
余計な罪は増やしたくない、でもあの研究を知った以上無関係になるつもりは無い。
私自身もレーダー機能はある、あの話は本当だ。ボロボロとは言えプロト10に組み込まれていたフォーセ鉱石の質が通常のマギアシリーズよりもかなり良い。おそらく30分は邪獣ウィルスを無効化出来るだろう。
...きっと私の行為も愚かなものだろう。
でも構わない、退屈な日常が嫌いだしそもそも私はオリジナルのキジコじゃない。私は私の意思で生きてもいいと思う。
いわゆるダークヒーロー、せっかくの機会だ私にやらせろっての。
そうしてしばらく時が過ぎ...、
(私の名前...。)
部屋のベッドで考えている内に...寝た。
その時夢を見た。
古い記憶の夢を。
(ねぇお父さん、私が生まれた時ってどんな感じだった?小夏って名前だけど私が生まれたの冬じゃん、12月27日。)
(ん?ああ...赤ん坊の頃のお前はすごく元気でな、雪が降る真冬だってのにまるで夏の季節ような元気があったから小さな夏と書いて小夏と名付けたんだよ。まぁ、冬にも負けない元気を持つ人間という事だな。)
(...いい事言うじゃん。)
(父親だからな。)
...そういえば高校生の時にそんな事聞いてたな。
懐かしい、もう聞けない家族の声。
オリジナルの記憶。
....そうだ、私はオリジナルとは違う。
キジコであってもキジコじゃない。
雪が降る季節に生まれた夏。
なら私はその反対を行く。
貴方の血を引く別人として生きていく事を決めた。
...いや待てそれは寂し過ぎる、ある意味自分に返ってきて心が痛い。
そうだ、
「...んで、決めたのか。」
「教授、私とキジコって遺伝子的にはどう言う関係なの。」
「ん?...そうだな。色々過程は違うが血縁的には親子に近い。なにせキジコ以外の血が混じっているからな。」
「なら決めた。別人であり娘。色々意味を込めて名付けるなら...晴れた夏、晴夏だ。」
その瞬間、目の前が暗くなった。




