第210話 霊神決戦:決着
「ねぇ、キジコは優勝したら何したいの?」
...大会前日、パースに訪れていた時の話だ。
「何したい...?この大会で勝って貰えるのって称号と賞金、んでおまけに栄光...的なのじゃないのか?」
「そうだけど、それをどう使いたいもって事。」
改めて思った、大会で勝った後の事を。
「ああ、家の改修だね。私これでも家持ってるんよ、でも選んだ物件はボロボロでね。金は向こうが出すとか言ってくるけど私の家だから自分で金を払って改修したいのよ。」
しばらくギルドでの依頼仕事をしていない。
近頃はクルジュさん達衣服関係のお店に布の納品しているくらい。
「キジコ自身の腕でなんとか出来ないの?」
「無理、建築の知識は無い。」
「そっか、...私はね、ハル姉の工房をもっと立派にしたいの。」
「そうなのか?」
「うん、それを決めたのは最近だけどね。ハル姉の工房、近頃古くなった箇所や道具があるからこの際ね。」
「...いいじゃん。ハルさんの工房の商品はまだ使った事ないからまた今度、リニューアル後に行ってみるよ。」
「うん、ぜひ来てよね。」
ちなみに本大会に出場した時点で賞金は出る。
すでにマイホームが建てれる賞金を稼いだとはいえさ...ここまで来たら勝ちたいよね。
そんな事を思い出した。
ーーーーー
「....!!」
「....。」
魔力が空っぽになり、力を振り絞ったパンチ。
拳はお互いの頬に命中。
「相討ち...?」
「...母上。」
「...決まった。あれは相討ちじゃない。」
「え...?」
「...ありがとう、キジコ。」
気を失い崩れ落そうになるキジコを支えるニコ。
「....!!!!!!」
「...お疲れ様、2人とも。」
「....試合...終了ーーーーーーーッ!!!!!闘王闘技優勝者はニコ様だあああーーーー!!!!!」
大きな拍手と歓声が響く。
お陰ですぐ気を取り戻した。
「...あ、ああ?イッテテ...今昨日の記憶思い出してたような...。」
...!
首筋に冷たい何かがポタポタと落ちている。
「...ありがとう...ありがとう。」
ニコだ、まーた涙目だよこの子。
顔痛くなるぞもう...。
「...あー、負けた。んーで、優勝おめでとう。」
「うん...うん...!!!」
「お前泣きすぎだろ、今年終わる前に涙枯れんぞ。」
「...バカ。」
「はいはいバカだよ...私ゃ。」
「だってキジコも...泣いてるじゃん。」
自分の顔を触ると、涙で濡れていた。
「仕方ない...だろ!だって...悔しいからさ!!...ここまで来たからさあ!悔しいよ!!...今日ぐらい私にもっと泣かせろ、お前は泣きすぎだからさあ!!」
私はニコに抱きつき泣いた。
悔しさいっぱいに大声で泣いた。
ずっと溜まっていた気持ちをぶつけるように泣いた。
悔しいよ。とっても悔しいよ。
こんなに泣いたのはきっと初めてだよ。
大声で、
涙でぐちゃぐちゃになって、
喉が痛くなるほど、
とにかく泣いた。
「...頑張ったな、キジコ。」
「...凄かった、凄かったです、ご主人様...!!」
「師匠....!」
『グズ...えっぶ...。』
「ニコ...頑張った、お前は頑張ったよ。」
「ゔん...ゔん...!!ニゴ...すごかっだよ..!」
「...そんなに泣かれるとビショビショで重いんだけど。」
「...っ。...わがっ...だよ。」
服で顔を拭く。
「帰ろ、疲れた!」
「...そうだな!」
私達は手を挙げ頑張ったーってする。
「皆さん!闘王闘技歴史上最高の戦いを見せたお二方にさらに大きな賞賛を!!!」
ーーーーーーーーーー
大会終了後...その日の夜。
「...今日の夜風は気持ち良いね。」
「ああ、ヘットヘトの体にすげぇ効くわ。」
桜華の館最上階、展望エリア。
「ゆっくりしているのは良いですがあまり当たり過ぎないでくださいよ。師匠とニコちゃんは今しばらく安静なんですから。」
「この館は闘技場と同様空間魔法で春の気温にしているとはいえ寝落ちは危険ですよ。」
「神獣霊獣なったばかりの体であれだけ暴れたんだ。ったく、何回迷惑かけて入院する気だこの猫さんは。」
「色々本当に申し訳なーい(棒)。」
「...でも私神獣なってもう1ヶ月以上は経って...。」
「覚醒したお前らが100年200年の寿命で済むと思うな。長く生き膨大な魔力を持つ以上無理はするな。それと純粋なソレは寿命があるかすら怪しい、神獣の血を引いている母上でもあと数百年は生きれるだろうな。」
「ちなみに母上の年齢は...。」
「言 わ な い で ね ♪」ゴゴゴゴゴ...
「「...はい。」」
背筋がゾッとした。
尻尾がブワッてなった。
「...ほんとにお疲れ様、二人とも。表彰式は3日後だけど動けそう?」
「はい、この分なら大丈夫です。」
「暴れないならな。体が頑丈になっても無理はするな。」
「ああ。」
...長かったな、ここまで。
始まりはニコの異変、ギウスティージアがニコに力を与えその心を時間をかけて壊していった。そのせいでニコは何度も苦しみ泣いていた。私はニコと約束した、闘王闘技で闘おうと。ニコに備えて1ヶ月ヴァルケオ達と特訓し、何度も苦労しボロボロになって死にかけて、...ようやく今を掴み取った。遅くなったけど楽しかったよ、ニコ。
正直言ってまだやる事はある、謎の少女と研究所。アイツらについて色々調べなければならない。
でも今しばらくは休んでいたい。だって疲れたからね!
よーし私は寝る!
フォンッ...
んぁ?念話通信だ。
「(こんな時間にすみません、キジコさん!!)」
「菫ちゃん!?」
「(以前お話したカフェについては覚えていらっしゃいますか?)」
「ああ、あのパンケーキのカフェ...。」
「(明日新メニューが出ますよ!)」
「何ィッ!?聞かせろ!!!」
...こりゃすぐ眠れそうにないな。
闘王闘技編は残り番外編数話と本編数話で終わりとなります。
12月28日訂正




