第204話 大会前日、冬のパース
闘王闘技の決勝戦は12月15日。
私達はその間も特にトラブルも無く日常を過ごしていた。
そんなある日、私キジコはニコに誘われパースにやってきた。バノスの一件以来のパース訪問である。
これは12月14日、大会前日のお話。
「いよいよ明日だね、キジコ。」
「うん、楽しみだね。」
すっかり寒い時期になった。冷える風が町中を通り抜け、私とニコ冬コーデで歩いている。ちなみに闘王闘技決勝戦は魔法でその間は気温が春になるらしく、快適に過ごせるようだ。一体どんな魔法だよ!?
ニコはこの前クルジュさんに作ってもらったダウンジャケットを着ており、非戦闘服だけあってそのデザインと機能性を気に入っているようだ。
一方私は軽量型のダウンジャケットと内側モコモコのズボンを作ってもらった。お陰でお互い寒くても平気。
「キジコの前いた世界の服は凄いな、すっごく暖かい。」
「それを再現したクルジュさんの腕が凄いよ、今後も布の納品ついでに色々向こうの技術を教えようと思う。」
「期待してるよ!」
お互い女子、コーデのお話は盛り上がる。
ポフッ...
「冷たっ!...ってあら、雪だ。」
「本当だ。」
「私にとってはこの世界で初めての雪、こっちでもちゃんと綺麗だ。」
起きてる私にとっては初めての、この世界の雪。
雪の降る中の通勤が懐かしい、相変わらず冷たい。
「今日はキジコにパースを案内させるって言う仕事の名目で誘ったけど、雪が降ってきたら視界が霞んじゃうね。」
「なーに、雪で染まる世界もまた美しさだ。大会前のお出かけにはもってこいだ。」
「そう言ってもらうと国の主として嬉しいよ。それじゃ今度は向こうに行こ!」
私はニコに手を引っ張られ、雪の降る街道を走る。
ーーーーーーーーーー
30分後....
「...で。」
外は吹雪、
目の前にはあったかいココア。
「...ゲリラ吹雪は卑怯だ。」
「こんな吹雪、しばらくなかったけどこんなタイミングで来るとは...。」
今私達は町中にあるカフェ。
暖房が効いており、開店直後にやって来たので客は私達だけ。
「大変でしたね。ニコ様キジコ様、私からのサービスです。」
店主のおじいさんが作りたてのベリーパイを持って来た。大きさ的に25cmの内、二切れだが角度、切り口、断面全てが綺麗。職人技だ。
「店主さん、これ凄い綺麗ですけど...何年ほどこの仕事に?」
「そうだねぇ...パースに来てからは結構経つが、元々は中立国で今のようにカフェをしていた。経営を始めたのは今から...35年前だな。」
「35年!?長いんですね。」
「ああ、元々は輸送業で仕事してたが40歳手前になるとキツくなる所もあってな。元々大量の資材を運ぶ仕事だったから体の負担もデカくてな、引退してからはこうやってゆったり過ごしているわけさ。」
「なるほど...。」
「病気で亡くなっちまったが、嫁さんがこう言うのが得意でな。俺も色々勉強して今に至る。そのアズルリベのパイは夫婦揃って一番好きだったお菓子さ。是非とも味わってくれ。」
(※アズルリベ...ブルーベリー)
「ありがとうございます。」
私とニコはナイフとフォークを持って...
「では、いただきます。」
パク...
おお、ブルーベリーの酸味と甘さが口いっぱいには広がる。温かいこともあってさらに美味しい。
パイ生地もサクッとしており、香ばしい風味がたまらない。
「美味しい!」
「そりゃ良かった、そいつは人気メニューだからお二方はツイてるな!」
それからも私達は吹雪が止むまでカフェで過ごす。
ーーーーー
「ねぇキジコ。」
「ん?」
「これ。」
ニコは空間収納庫から何かのカードを取り出す。
「なんだこれ?」
「これはね、フェイティーって言う昔からある占いのカードなの。」
タロットカードみたいなのかな?
枚数は30、大きさはトランプカードよりちょっと縦長。
「しゃしゃしゃっと、しゃしゃー、今広げた中から一枚取るの。」
なるほど、わかりやすい。
「じゃあ....これだ!」
[枝分かれの道]
「なんだこれ。(2回目)」
「ウゲッ。」
「え、なに!?」
「これね、未来に何があるかわからないって言うカードなの。」
「それ誰でも普通なんじゃ...。」
「そうじゃないの。例えば普通の村人がある日王女様助けて表彰され大金持ちになったり、平和な暮らしをしてたら魔物の襲撃で惨劇が始まったりと、安定なんてそうそう掴めるものじゃないって意味なんだ。」
「現在進行形で私じゃんそれ!」
「あっははは!そうだね!」
これも運命か...。
「しゃしゃしゃしゃーと、じゃあ私は...これ!」
[己の道]
「それは?」
「これはね、誰かに流されず自分らしく自分のための自分の道を進むが良いって言うカード
なんだ。」
「なるほど...。」
占いらしいカードだな。
「まぁあくまで占いだ。結果で示すのは私達だ。」
「ああ、わかりやすいのが丁度明日にある。」
「ふふっ!」
ふと窓を見ると陽が照らしている。
気がつけば吹雪は去っていた。
私はお金を払い、ドアを開ける。
ビュオッ...
「うっ、やっぱり空気が冷たい。」
「さびびびび....。」
「はっはっは!また来なよ。」
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パース役所改め...新築、ニコの館。
「いよいよ明日だな、二人とも。」
「はい、今日はパースのお誘いありがとうございました。」
「いいんだよ、どうせ気が向いたらいつでも来るんだろ?」
「うん。」
「素直だな...。」
「キジコはそれでいいんだよ!」
すっかり暗くなった時間。
ジンも含め話をしている。
フォンッ...
「お、迎えが来た。」
「そうか、気をつけてな。」
「明日頑張ろうね!」
「ああ!」
ニコと拳をぶつける。
コンコンコンッ、
「師匠、迎えに来ましたー!」
「それじゃ、また明日!」
お互い手を振って私はクロマの転移で帰った。
「じゃ、明日に備えて今日はゆっくりしてろ。」
「今日ずっとゆっくりしてたよ。」
「そうだったな、はは。」
「明日が楽しみで寝れるか心配だよ。」
二人は明日、ようやく約束を叶える。




