第203話 ダウンジャケットの手芸職人
桃花様は決勝進出者の二人の意見を持って各国の王達に闘王闘技の再開を提案。大会運営の話合いや検討もあり3日後...
「キジコちゃん、ニコちゃん。」
「はい。」
「...闘王闘技、再開決定よ!」
「!!」
やったー!!!と喜ぶ私とニコ。
ようやく決勝戦、正直叶うか怪しかった約束。
この情報はすぐに広がった。
私が蘇り霊獣という存在になった事。
(死んでないけど)
ニコという神獣と闘う事。
神獣と霊獣の決戦が始まると。
私は皆と呑気に過ごしていたが、この時は知らなかった。この対決が国々で大きな話題となった事に...。
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12月5日...とある朝。
「...んんっ、なんか騒がしいな。」
町が賑わうにしては早い、まだ7時だぞ。こんな朝早くから一体なんの騒ぎだろうか?
私は一度洗浄魔法を使い身を綺麗し、いつもの和服を着る。ちなみに魔法具の和服、化猫と鳳凰が合わさった状態は霊獣状態のみで使っている。普段使うにしてもゴツいので。
さて、綺麗になった髪を櫛で整え身だしなみチェック。よし、オーケー!
とりあえず何があったのか行ってみよう。
「な...なんだこれ!?」
町中に貼られているポスター。そこには...
[闘王闘技決勝戦!!神獣vs霊獣、世紀の大決戦!!]
と書かれている。どこの怪獣映画だよ。
ご丁寧に神獣形態のニコと霊獣形態の私が写っている。そういやこの前、大会運営スタッフが写真が必要だとかなんとかで撮りに来たな。二人揃ってノリノリで撮ったが...こういう事か。
「あ、キジコ様!!」
「キジコ様ー!!」
「ん?」
町の人達が沢山集まって来た。
皆はキジコ様ー、がんばれー、と言ってる。
どうやら闘王闘技の決勝って思ってた以上に人気というか話題を持ち込むんだな...。それも現在この町出身の私が出ると言うんだから皆の活気がいつも以上に溢れている。
「よぉ、キジコ。」
「あ、ヴァルケオ!!」
「おお、聖獣様!!」
皆が道を開ける、そこにはヴァルケオがいる。
「聞いたぞ、色々あったんだってな。...なんであの時俺達はお前の側にいなかったのだろうな。」
「今は過ぎた過去の事を気にしていても意味はないさ。ただいま。」
「ああ、おかえりキジコ。」
ヴァルケオの笑顔はどこか、安心したような雰囲気があった。
「それで、どうしたの?」
「いや、俺もただお前を応援しに来ただけさ。そのために...これを受け取れ。」
キジコはお守りをもらった。
「なんだこれ、優勝信じてるっておまじないしたのに。」
「ただの保険だ、お前は巻き込まれるトラブルの規模が大きすぎる。おまじないすらキジコの安寧はもたらせないとは嫌な世の中だ。」
そう言ってヴァルケオは去っていった。
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一方パースでは...
「これがいいかしら、それともこっち?」
「ジン...ハル姉何があったの...。」
「神獣形態のお前に合う服を見ての通り選んで入る。確か身長170cmになるんだったな。」
「そうだけども...別にずっとあの姿って訳じゃないよ。」
「でも何かしら公式の場ではあの姿の方が有利かも知れんぞ。」
「その割にはなんで今町の服屋にいるの。」
(ユニ◯ロやG◯的な)
「なんでだろ。」
「知らないのかい!!」
こちらもお人形のように色々着せられている。
現在ニコ達がいるのは非戦闘関連の服屋。
ハルは可愛い我が子のためにの如くあれこれ冬用や来年用のファッションをニコに着せている。そのためニコは現在神獣モード、店員達があれこれ服を持って来てハルが着せている。
「やーん可愛いー!」
「こっちも似合うー!」
「これもいいわー!」
と、ハルの空間になって来た。
流石のニコもダレて来た。
(こんな事ならリーツのあの人に頼れば良かった、新しい服欲しくなったって言ってみればこうなるとは....まいったな。)
(クルジュさんだっけか、ちょっと変だが腕と才能は確かだっていう。)
(うん、非戦闘のおしゃれに関してはあの人が良い。)
(んじゃハルが落ち着いてからそっちに向かうか。)
(あ、このハル姉は止められないんだね。)
(ああ、無理だ。)
「これ着てみなよニコー!」
((ハァ...。))
「おや、随分人気なご様子。」
「ん?」
後ろから声が聞こえた。
そこにいたのはサラサラの金髪セミロング髪、ちょっぴり小麦肌で目付きが鋭く、妙にカジュアル感ある装備をした...
ガラの悪そうな女性でした。
「えーと、ニコ様ですよね。似合う服に悩んでいたら私が選びましょうか?」
その女性が着ているのはダウンジャケットって言うやつだ。キジコがこの町、クルジュさんに作ってもらうついでにオシャレとして量産を頼みたいとかで...もう出回っているのか!?なんかフードの所に毛のような何かが装飾されてる。
「それ...クルジュさんの!」
「お、よく知ってるね。」
「はい、キジコ...あ、親友がそのお店の服がおすすめだって言っていたので。」
「ほー、キジコちゃんがおすすめするほどねぇ。そりゃ行った甲斐があった。」
「え、キジコちゃん...?」
「うん、私も一応キジコちゃんと知り合いだよ。キジコちゃんが私と会えば驚くだろうね。」
驚くって...何者なんだこの人。
見た目の割には悪い人じゃない、むしろ良い人。
けど只者じゃない、長くて細く綺麗な指をしていて、見る限りその指の筋肉は硬過ぎず柔らか過ぎず、まさに職人の手とも言える何かを感じる。
「えーと貴方は?」
「ああ、それはナイショ。名前も腕も見せれば大騒ぎなっちゃうから。」
「そ、そうですか。」
「さて、ちょっと待っててね。」
その女性は素早く行動し、すぐに戻ってきた。
「はいどうぞ。そこのウサギのお姉さん、着せてあげて!」
「は、はい!」
その服は防寒着としてとても暖かく、派手すぎもしなければ地味すぎもしない。一目でグッドファッションって思った。
「すごい、これにしましょうよニコ!」
「う、うん。」
「貴方すごいわ、うちの工房に来ない!?」
「生憎だけど私は流離でね、儲けも良いから遠慮しておくよ。」
「そう....シュン。」
え、流離、儲けが良い?
本当に何者?
「お会計済んだわ、次どこ行く?」
「クルジュさんの所に行きたいんだ。あの人に頼めばきっと良いの作ってくれるから。」
「お、クルジュちゃんの所に行くかい?それならこれ。」
ニコは使い切り転移術式板を2枚貰った。
「え、これ!?」
「私それいっぱい持ってるから、往復分あげるよ。」
「あ、ありがとうございます!」
「それと、向こうでキジコちゃんに会ったらこれを渡してくださいな。すごく喜ぶだろうから。」
そう言って女性は私に封筒を渡す。
「では、ありがとうございました!」
「気をつけてねー!」
私達はクルジュさんのお店に転移した。
「...人生楽しそうでなによりだ。またその内会いに行くからね、キジコちゃん。」
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ガチャッ
「ん?あ、ニコ!」
「あれ、キジコ!」
「あ、ニコ様!いらっしゃいませ!」
クルジュさんの店にやってきた。
そこにはなんとキジコがいた。
「キジコもクルジュさんの店に?」
「私は布の納品に来ただけさ。ニコは?」
「私はクルジュさんに冬服を作ってもらえるか頼みに来たんだ。ダウンジャケットってやつ、私も欲しいかなぁって。」
「お?ニコ様、あの服は試作品を作ってあげた人はいますが販売は明後日なんですよ。」
「あれ、そうでしたか...。じゃああの人が来ていたのは試作品だったのか。」
「まぁでも良いのありますから特別売りますよ!」
「!、ありがとうございます!!」
「それにしても...ニコが言ってたあの人って?聞いた限りクルジュさんの試作品を着ていたんだろ?」
「ああ、黒色でフードの所に動物の毛のようなのが装飾されてて。」
「ファー付きか!クルジュさんいつのまに...。」
「え?」
「...?」
「あのー、私が提供したのはそんな装飾は付いてません。」
「え!?」
え、どう言うこと?」
「その人、どんな見た目でした?」
「はい、サラサラの金髪セミロング髪、ちょっぴり小麦肌で目付きが鋭いガラの悪そうな女性...。」
「え?」
「あ、その人です!」
「まさか...その人って....?」
「?、ああそうだ、これをキジコにって。」
私はキジコに封筒を渡す。
封筒の中身は、何か服や装飾品に関することが描かれた紙。
「ああ...やっぱり、元気そうで良かった!」
「?」
キジコが喜んでいる。
どうやら本当にキジコの知り合いだったようだが...?
「その人ヴァリールさんだよ!」
「ヴァッ!?」
「ヴァあああ!?!?」
クルジュさんが一番ビックリしてた。
そりゃそうだ、ヴァリールは超有名な手芸職人。
私でも知っている、まさかさっきの女性があのヴァリールだったなんて...。
「じゃあ...それは?」
「私宛ての新しいファッションのレシピだね。お、クルジュさんにも見せると良いさって書いてる。クルジュさん、今度私とここに描いてあるの作ってみようよ!」
「い、いいんですかあ!?こ、この私がヴァリール様のレシピに携われるなんて!!」
「えーと、手紙には...[どんどん作ってね!期待してるよキジコちゃん、クルジュちゃん!]...だってさ。」
「ひゃああああああああああ!!!!!」
そう言うわけで、キジコは闘王闘技後のやる事が増えたそうだ。
ちなみに私は3日後、ダウンジャケットのファッションを手に入れて満足しました。




