第200話 ただいま
12月1日...
「...これでよし、似合ってますわ。」
「おお、化猫と鳳凰が...。」
「スズネは本当に器用だね。」
「フフンッ!!」
スズネさんが用意してくれた新衣装。
白の和服とちょっと大きめの赤い羽織、一見動きづらそうだがいざ着てみればその逆、その上軽いし着心地も良い。
羽織はどういうわけか下部が風に靡くように浮いてる。不思議な力でなんとやらってやつか。
「にしても...すっかり毛が伸びたわね。冬毛かしら、ロングヘアーも似合うじゃない。」
「背も伸びてますわね、...165cm程でしょうか。」
「なぁっ、5cmニコに負けたっ!!」
私の肉体の再構築が完了した。
ボロボロだった体は全快し、さらなる強さを得た。今の私がどういう存在になったか、自分でも詳しくは知らない。
「でも一番気になるのは....。」
「尻尾だね。」
この肉体を得てすぐ気付いた。
尻尾が2本ある。
もう一度言おう、尻尾が2本ある。
これあれだよな、日本の妖怪話で出てくるあれだよね。そういや個体進化は記憶を元に構築する所もあったような...。
「キジコさん、これを。」
「!、久遠...なんでここに!?」
「キジコさんをこちらに呼び寄せた際、この刀も回収していました。とても大事なものですよね?」
「ああ、ありがとう!」
刃渡り60cmの刃はいつにも増して勇ましく見えた。
「さ、これで準備は万端ね。」
「今向こうの状況は...あ!?」
「!?、どうしたの?」
「...少々まずい事になってますね。転移の際に念話で説明します。」
「ええ!?...わかった。」
足元に転移の魔法陣が現れる。
「では...行って来ます!」
「気をつけてね〜。」
「ご武運を。」
「また遊びに来てくださいね!」
では...私、出発します!!
ーーーーーーーーーー
午前11時、キジコが復活する前...
「...。」
パース獣人国へ帰ったニコ、その顔は未だ晴れないようにも見える。今いるのは町の高台、かつて親友達と守ったこの町を眺めている。
彼女は神獣。より多くの獣人達を守り暮らしを良くするために、国の主として奮闘している。当時神獣として国に帰って来た時、国民は皆喜んでいた。そして彼女は失った親友の分も精一杯生きて努力していくと決めていた。
それから時は過ぎ、12月1日。
公務の休憩で町を眺めている。あんな事件があったのに国の皆は活気に溢れている。キジコもこの景色を見れば喜んでいただろうと思う。
「なにしてんだ、ニコ。」
「先生...、ああいやウダス。」
町の隠密警備部隊の隊長、ウダス。
元々はニコの父親の直属部下であり、ニコを鍛えた先生でもある。
「立場上は呼び捨ての方がいいが、俺はどっちでも構わん。んで、どうだ。一国の主として眺める景色は。」
「とても綺麗だ、私だけの力で掴みとった景色じゃないからこそ綺麗に見えるよ。」
「そうか...。」
ウダスは何かチケットを懐から取り出す。
「これをやるよ。」
「..?これって...。」
「リーツにあるお前が気に入っている茶屋の新商品の3割引チケットだ。あれ食べたかったんだろ、やるよ。」
「...!ありがとう。」
立場はニコの方が上、それでも己の生徒になんだかんだ先生として気にかけている。
「んじゃ行くか。」
「?、どこに。」
「リーツ。」
「...え?」
「そのチケットの期限は今日までだぞ。ジンには言っておいた、出かける準備をしてこい。」
「えーっ!?」
ニコは慌てて着替えに戻った。
ーーーーーーーーーー
リーツ
「ほい、到着。」
ウダスはジンから貰った使い切り転移術式板を使い、私をリーツに連れて来た。ったく、急にいうなよ慌てたじゃん。
それにしてもリーツに来たのは久しぶりだ。キジコはいないけどここも活気があって平和だ。皆元気にしているだろうか。
「あ、ニコちゃーん!」
「ん?あ、クロマ!」
町に入りすぐ、クロマと出会った。
「割と久しぶりです、元気にしていました?」
「うん、元気さ。クロマも元気そうで良かった。」
聞けばあれからクロマ達は朱斗達の下で働く事にしたそうだ。なんでも彼女達は能力が高い事もあり色々任せても良い仕事があったそうだ。館は住み込みで働けるから衣食住には困らない。
ちなみにクロマは近頃薬学の勉強をしているらしく、スアと共に薬草の育成研究や、リーツに新しくできた薬局で色々学んでいるそうだ。
キジコが亡くなった悲しみは消えていない。それでも彼女達は自分達に出来る未来を進んで今を楽しく生きているようだ。
あれから1ヶ月以上は経つ。時の流れは早いな。
「そういえばニコちゃんはどうしてリーツに?」
「このチケット。」
「ああ、茶屋の新商品ですね!せっかくですし私も行きましょう、今日は休日ですので。」
そういうわけでクロマが増え茶屋に向けて歩む。
「...なんだろう、懐かしく感じるよ。」
「1ヶ月程は経ちましたからね。...私も何度も感じてしまいます、師匠と歩いたこの道を。」
「...こんな事言うのもあれだけどさ、先生は父上と母上が失った後はさ、凄く辛かったんだよね。」
「...ああ。己の主を失った気持ちは今も残る程辛い。あの方達を救えなかった事が人生最大の失態であり後悔だ。でもな、あの方達が残した未来がある以上俺も泣いている場合じゃなかった。諦めなかった、だからこそ俺は今も地に足着いて歩いている。」
「先生...。」
「お前達は凄い、大切な誰かを失っても前に進もうとする。その方がキジコ様は喜ぶに決まってる。」
ウダスの声はどこか悲しそうな雰囲気があったが、とても優しい声だった。私も先生が生きていてくれて嬉しかった、再会出来てよかった。
「...ありがとう。」
そうして町を歩いている...その時だ。
ドゴォーンッ!!!
「!?」
「西の方からです!」
突然、町中で爆発が起きる。
私達は爆発が起きた場所へ向かう。
ーーーーー
「気に入らねぇ...気に入らねぇんだよ!!あんな奴が神獣だと!?ふざけやがって!!」
その姿に見覚えがあった。
「えーと...どこかで見たような?」
あくまで見覚え程度だが。
「ああん...ぁっ!?貴様ぁ...何故ここにいる!?」
ああ思い出した、闘王闘技の第二予選で自爆したティーツって奴じゃん!態度がすっげぇ悪いエルフで、元々所属していたエルフナイトもクビにされた問題野郎だったらしい。
「休憩でやって来た。...んでだ、お前は何をやっている、町の人に迷惑なんだよ。」
「黙れ!!テメェみたいなふざけた奴が神獣になって目立つなんて気に食わねえんだよ!!殺してやる、ここで会ったついでだ殺してやる!!」
「相手を見てものを言えよ....。」
「では...これでいいか?」
「!?」
周囲にいた人達に魔法陣が貼り付けられる。
「ぎゃーっはははは!!コイツは爆発の術式よ、俺を倒せば爆発、下手に動いても爆発、お前ら動くな!!コイツらがどうなってもいいのか、あああー!???」
...クズ野郎が。
「術式は女子供関係なくざっと500人に貼り付けた。さーて、ようやくお前を殴れるなあ!」
「っ...!!」
「俺はツイてるぜ!!嫌いな奴を...ようやく殴れるんだからなー!!」
ティーツはニコを殴る。
でもビクともしない。
「...気にいらねぇ、一人死んで..。」
「...待て!!!」
「おー?...そうだな、へへ。どうせ周りは動けねぇ奴らばかりだ、お前らにもコイツでいーっぱい楽しむ所を見せてやるよ!!」
「貴様ぁ....!!!!」
「ぎゃーはははははは!!!!」
ティーツはニコに触ろうとする。
動きたくても動けない人々は怒りを見せている。
「んじゃ、公開処刑の...はーじまりでー...、」
「始まらねぇよゴミクズ。」
「....あ?」
何かが転がった。
...ティーツの切り落とされた右腕だ。
「....ぎゃああああああああああ!!!!!????」
「...嘘...!!?」
たなびくキジ虎柄の長い髪、
猫耳型の髪の毛、
2本の尻尾、
ずっと聞きたかった声、
ずっと会いたかった、
ずっと待っていた!
「...キジコ、...助けて!!!」
「了解、任せろ!」
[個体名:キジコが[霊獣]に覚醒。]
[種族名:猫又]
「さーて、ぶっ飛ばす!」




