第198話 突然のお別れ
狙いはニコだ、キジコちゃんがそう言った途端4人はニコちゃんのいる部屋に転移した。
そしてすぐ、窓ガラスが割れる音が聞こえた。
私0.数秒遅れて気づいた、この事態の犯人の目的はニコちゃんである事。この念話通信障害の範囲を見てようやくわかった、これは何かしらのスキルによるものであり、発動しながらこっちへ向かって来ていた。
それも、とてもとても高度な隠密系のスキルで気配を消して襲撃して来た。戦闘体勢ではないとはいえこの私を欺くほどの隠密の使い手なんて...。
仲間のワイバーンに派手に暴れさせる一方で自身は高度に気配を消して目的地まで行く。その際近辺、周辺一帯の情報網を掻き乱し混乱させ、自身が動くのに有利な状況を作り出す。
非常にシンプルだが技の精度やレベルが高い、それ故単純な事に気付く事にさえ遅れてしまった。
「朱斗、蒼鈴!!」
「「はっ!!」」
「翠柳は館に残りの警備体勢を整えよ!!」
「ああ。」
私達は、窓の割れた部屋に向かう。
すると道中そこには負傷した従業員や兵が何人もおり、スアちゃんが手当てをしている。負傷者には爪で引っ掻かれた痕があり、明らかに人ではない者からの襲撃であると認識した。
部屋に入ると、クロマと眠ったままのニコ。ニコちゃんは無事なようだ。するとクロマちゃんが、
「桃花様、襲撃者は小型のドラゴンです!相当魔法に長けていて、現在師匠とルザーナが追跡に向かってます!」
と。襲撃者はドラゴンだったか...竜族は元が強い上に襲撃者の技術を見るに手練れなんて実力では済まないだろう。今魔力が弱っているキジコちゃんには少々まずいかもしれない。
だが今は周辺調査だ、負傷者がまだいるかも知れない。その上何か罠を仕掛けられていたらさらに危険、私達は一度分かれて調査をする。
朱斗は館周辺の負傷者確認、町の中央路にある病院の周辺に緊急救急エリアの設置。
蒼鈴は爆発物、爆発術式など何か仕掛けられていないかの調査。
そして私は追加の襲撃が来ないか、さらなる危険な侵入者がいないかを確認するために特殊な結界を、この町を覆うように張る。
...ん?結界の張りや効果に若干ムラがある。もしや.......やっぱり、念話通信障害の正体は空間を歪ませるスキルの一種。世界が歪む訳ではなくなんというか、空間魔法関連を発動するに必要な力が歪むに近い。空間に関する魔法と相性がとにかく悪い。さっき聞いた話だがクロマちゃんは転移先はニコちゃんの部屋の中にしたはずが、部屋の外に転移したと言っていた。ようやく事態に納得がいった。
...せめて結界を正常にしなくては。
私は半球状結界の頂点まで飛び、触れる。そこから魔力が乱れた結界を直してゆく。...思ったより時間がかかりそうだ、自分で張った特殊な結界ながら手こずるとはなんという事。
ゾッ...
「...え?」
それは突然だった。
町にいたルザーナちゃんの魔力が...ゼロに近いレベルにまで低下した。突然死が訪れたかのような。
「...!!!」
結界の修復が完了した。急いでルザーナちゃんの元にむか....おお!?急にぐらつき始めたというか、飛行魔法が正常に動かない...!!
私はそのまま地面に落下、一応無傷だが飛行能力が使えない。これは...空間を歪ませる力が強まっている。同時に町の人の魔力も感じれない。
...皆が危ない!!
私は走る。
向かったのは朱斗がいる救護エリア。あそこは町の中央路だから情報も集まりやすい。
「朱斗!!」
「母上、大丈夫か!!」
「私は大丈夫、それよりキジコちゃんは!?」
「ダメだ、気配が感じ取れない。負傷者も見ての通りだ、被害が思ってた以上に大きい。」
「母上、朱斗!!」
「蒼鈴、館はどうだった!」
「怪しいのは何一つ無かった、そっちは...どうやら思ってた以上に被害が出ているな。」
その多くは今の空間の歪みで体調不良を起こした人。中には救護班の何人かもそれにより座り横たわっていた。
「あんた達は大丈夫かい?」
「ああ。」
「俺もなんともない。」
ドゴォッ...
「!?、今の揺れ...。」
「離れてるが...向こうだ、おそらくあそこにキジコがいる!」
「朱斗、母上!この場は俺に任せろ、早くキジコ様とルザーナさんを!!」
「了解!!」
「済まない頼んだ、蒼鈴!」
私と朱斗はキジコちゃんがいるだろう方角へ進む。
だがそこで待っていた事実は、非情なものだった。
ーーーーーーーーーー
見えたのは...今にも消滅しそうなキジコちゃんの姿。
体は魔力の粒子となり始め、不撓不屈によるヒビはほぼ全身に入っている。今にも崩れそうなその姿。
「キジコちゃん、死ぬな!!!!!」
「キジコ!!!!!...間に合ってくれ!!」
だが私達が呼びかけた途端キジコちゃんの脚が崩れ地面に倒れる。大粒の涙を流したルザーナが駆け寄りキジコちゃんを起こす。
嘘だ、嘘だ。
キジコちゃんが...死ぬ!?
信じない、信じたくない、でもこれは夢じゃない。
とても非情な現実。
力を使い過ぎた者の末路を見せる公平で非情な現実。
私達が辿りついた頃にはキジコちゃんの目には光が無かった。そして...
「楽しかったよ、ありがとう。」
ただその一言を言い残し...消えた。
「ご主人様ぁーーーーーッ!!!!!」
その周囲にはルザーナの悲痛な声が響き渡る。
今にも胸が張り裂けそうな、とてもとても悲しい声が。
「...嘘だろ、嘘であってくれよ!!!」
「キジコちゃん...そんな....!?」
「ケッヘヘ...ざまぁ...ねぇぜ!!」
「...!!!」
そんな時、地面に横たわるドラゴンが起き上がる。
「お仲間一人助けるために自分の命賭けるなんて馬鹿だな...!!今回は退かせてもうらうぞ!!」
ドラゴンは逃げようとする。
「....クソドラゴンが。」
「あ...!?」
同時に、ルザーナの雰囲気が変わる。
ドラゴンが壁に叩きつけられる。
「...っ!?」
殺意に染まったその目はもはや私達の知るルザーナじゃない。
「スキル蛇王、お前に自由は無い。貴様の物理抵抗を強制的に引き上げ、痛覚を10倍、痛覚慣れを無効、意識を飛ばす事も許さない。」
「へ....ぐぼぅ!?!?!?」
ルザーナは思い切り蹴る。
何度も蹴る。
顔面も、鳩尾も、間接も、
何度も何度も蹴る。
ドラゴンは意識が飛ばない...いや、飛ばせられない。
痛みの慣れが起こらない。ずっと痛い。
痛覚が倍増し、とにかく痛い。
物理抵抗を引き上げられ全然死ねない。
死にたくても死ねない。
その光景に私達は戦慄した。
キジコちゃんの死を上回る恐怖とショック。
怒りと悲しみ、復讐心そのものとなったルザーナのその姿に私達は恐れた。
ドラゴンは何度も体が崩壊した。
だがルザーナが何かを言うとドラゴンの肉体が自動治癒、そしてまた蹴るの繰り返し。
ドラゴンの苦しむ声が止まない。
ルザーナの悲しみが止まらない。
「呪力脚。」
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!??」
さらなる苦しみを与えるルザーナ。
その目の涙は未だ止まっていない。
「おい...ルザーナ!!」
「!!!」
ドラゴンの精神は崩壊していない。
いや、崩壊出来ない。
「...俺達だって、泣き叫びたいのは同じだ。」
「でも...今のルザーナちゃんの姿をキジコちゃんが喜ぶとは思えないわ。」
「!!!...ぁ...あ゛あ゛あ゛....!!!」
ルザーナはへたり込んだ後、こちらによろめきながらあるて来た。
「さて...朱斗。」
「ああ。」
「ギリギリ殺さん程度でね。」
その瞬間、爆発でも起きたかのような音が響く。
「100発分は殴った。朱斗は?」
「100発分だ。じゃあな、糞野郎。」
朱斗達が去って行った瞬間、ドラゴンは断末魔をあげながら一瞬で粉々に砕け散った。
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「あれ...ここは。」
「おーはよ、キジコちゃん。」
久しぶりに見る庭園。
久しぶりに聞くオネエな口調の神様。
「あー...ごめん、またやらかしたわ私。」
過労死した私。
「いえ、キジコさん。あなたはまだ生きています。」
久しぶりに見る目つきの悪い閻魔様。
あー...ごめんなさいだわこれ。せっかく間接過労死した私を転生させてくれた方達なのに今度は過労死というか力の使い過ぎで死んでしまったのだが。
1年と十数ヶ月しか生きてないじゃん私。
...ちょい待て今何つった。
「私が...生きてる?」
「うん、キジコちゃん。君は今...覚醒途中なの。」
「は?」
覚醒...途中だと?
次回、豪邸に戻ってきてしまったキジコのお話。




