第197話 虚無ソマリテ/消エル
それは突然だった。
ルザーナが倒れた。
「..っ!!!!」
「ドラゴン・ソウルイーター...俺様の勝ちだ!コイツは竜族相手にしか効かねぇけどよ、条件さえ揃えば魂を瞬時に取り込む禁忌の術よ!!」
魂...だと...、
ゆっくりと、何かの...思考が、消えてゆく。
染まり上がってゆく、怒りが...無が...。
「うぅぅ....おあああああーーーーッ!!!!」
ラッゴの魔力が膨大に膨れ上がり、巨大で恐ろしい見た目のドラゴンへと変貌する。もはや先程の面影なんて感じない、怪物だ。
「グワーッハッハッハ!!!見よ、俺様が今まで取り込んだエネルギーを解放した姿を!!素晴らしい...素晴らしいぞ!!」
「あ...ぁ....!?」
「そこの青い竜の魂は俺様をさらなる強さに導いた!!礼として...主人である貴様も喰ってやるとしよう、主人も取り込んだ方が寂しくないだろうからな!!!」
ラッゴの鱗に...考えたくもない、青い色が混ざってゆく。
「ごちゃ...ごちゃ...うるせぇよ。」
「ハッ、お仲間奪われて随分乱暴な口調になったじゃないか!そんなんじゃモテねーな!!」
こんな短い期間でさ...なんでこうなるんだよ。
スアが死にかけた。
ニコが死にかけた。
...ルザーナが...ルザーナが...!!!!
[覚醒ポイントが1上昇]
「これ以上...。」
「あ?なんだってー?」
「これ以上...私から大切なものを奪うなよ...。」
「ハーッハッハッハ!!いい眼だ、だがこの世は奪われた奴が悪い、敗北者なんだ!!」
[覚醒条件を満たしました]
奪われた奴が悪い?奪われた奴が敗北者?...確かに笑っちゃうよね。結局はこうなるんだもんな、いくら強くなっても...いくら成長しても奪われないものなんて無い。
この世に絶対なんてない。私も大切なものを絶対守れるなんて保証はない。そういうのはわかってる...わかってるけどさ...。
いざ直面するとさ...目の前で見るとさ...。
「狂ってしまうんだ。」
ーーーーーーーーーー
町に血の雨が降る。
ラッゴの左腕が根本から切り裂かれているからだ。
側には獣人、暗い顔の中から金の鋭い眼を光らせている。
「....ッッ!!?ああああああーーーッ!!?」
「奪われた奴が...悪いんだよな。」
ラッゴは痛みで叫んでいる。
私にその叫びは聞こえない。
敗北者の叫びなんて聞こえない。
聞きたくも無い、聞く価値もない。
お前も似たような事したんだ、お前の価値観がそうであるならば私もその価値観で...お前から何もかも奪って消し潰す。
「馬鹿な...!?魔力が無いんじゃないのか!?」
なんで獣人に戻ったかなんて知らない。気にする気力もない。気にする価値もなく感じる。
あー...なんだろう、前にも似た事があった。思考はあるけど...真っ白、真っ黒なのか?わからないけどまた一色になってる。
瞼がちょっと重い。
やる気はある。
アイツを殺せばいい。
ただそれだけ。
ペネトレーザ。
「....!?」
喉に大穴が空いた。
ルザーナは助けるけどお前はさっさとくたばってくれないかな。
...ん?
「......ッガアアアアア!!!」
喉と左腕が再生した。
しつこい。
斬る。
四肢を斬った。
すぐに繋がった。でも痛みはあるらしい。
炎のブレスを吐いて来た。
魔力弾で押し勝ち顔に大火傷を負わした。
でも再生した。
...しぶとい、不撓不屈。
[危険、必要最低肉体強度まで回復しておりません]
[肉体の崩壊度が30%を超えました]
関係ない。まだ殴る。
[崩壊度35%]
私がどうなろうとも。
[崩壊度40%]
ルザーナを助ける。
ルザーナの魔力を感じる。
ルザーナはまだ生きている。
[崩壊度45%]
大切ないものを奪われた責任くらい取らせてほしいんだ。
[崩壊度50%]
[もうやめてください!]
[体が...体が...!!!]
体がヒビだらけで光ってる。
...そういやバッドステータスを強引に無視した力だから肉体がもう耐えられないのか。
でも関係ない。
[崩壊度55%]
泣きたいのは私だ。
[崩壊度60%]
鍛えてもらった意味がなくなる。
誰かを守る強さがわからなくなる。
もっと考える事もあるだろう。
どうやってルザーナを助けるとか。
どうルザーナに謝ればいいか。
わからない。
わからない。
わからない。
ただあのドラゴンを殺す事に頭の中が染められている。
ただルザーナを助けられれば良いと考えてしまう。
沈む、もっと大切な事がいっぱいあるのに。
染まる、戻る気力もない。
崩れる、進む気力がない。
[崩壊度80%]
どれくらい時間が経ったかは知らない。
ずっと無理をして来た私の体は今にも壊れそうになっていた。
まだ死ぬわけにはいかない。
ルザーナを助けれていない。
家族として...助ける役目を果たさせてくれ!!
(ご主人様....!!)
[崩壊度85%]
「!!」
「...が...ぁ...。」
一瞬、ルザーナの声が聞こえた。
...今しかない。
ラッゴの首を掴み魔力をより解放する。
魔力共有....いや、魔力を侵食させる。
「ルザーナ...今助けてやる!!」
私は魔力の塊の中からルザーナを引っ張り出した。
ーーーーーーーーーー
「...っ!!!はぁ..はぁ...!!?」
ルザーナが起き上がった。
...助けられた。
[崩壊度90%]
「ご主人様....え。」
「ごめんね、ちょっと気づくのが遅かったから無理しちゃった。」
「あ...ああ...!!!」
ルザーナの目には、今にも消えそうなキジコの姿が映っている。だがその景色はすぐに歪み始める、大粒の涙で。
「嫌...嫌...!!」
「...思ってたより時間は経っていない。私って本当に自分の健康に疎いんだね。」
[崩壊度95%]
「キジコちゃん!!!!!」
「キジコ!!!!!」
今のは...桃花様達の声か。
...もう力が入らない。
体から魔力の粒子が溢れている。
...体が魔力の粒子になっているのか?
「死ぬな!!」
「間に合ってくれ!!」
脚が崩れた。
地面に倒れた。
頑張り過ぎた。
前世も今世も死因は過労。
情けないけど、誰かを助ける事が出来たなら、
私はそれでも幸せだ。
...目が見えなくなって来た。
...突然すぎるお別れだ、せめて一言は言っておこう。
「楽しかったよ、ありがとう。」
[崩壊度...100%]
その体は...魔力の粒子となり、
消えた。
「ご主人様ぁーーーーーッ!!!!!」
次回、別視点




