第191話 ぶっ飛ばす
ニコ視点
...温かい。
とても温かい。
魔力が...心地良く満たされてゆく。
今まで感じた事のないこの不思議な感覚。
力が溢れる、
なのに小さな虫さえも守れるような、
この繊細な感覚。
これが...神獣。
今の私。
一歩進んだ私なのだ。
「なーんて綺麗で美しい女性だ。どこの女優でしょうかー?」
「...新しい神獣へ送る最初の言葉がそんなナンパ台詞なんてキジコだけだよ...でも。すっごく嬉しい!」
私のために皆と色々頑張ってくれたキジコ。
短い時間ですっかりボロボロである。
「怪我、大丈夫?」
「全然、桃花様の特訓の方がずっと怖い。」
「流石私よね!キジコちゃん凄く強化したのよ!!」
((褒められてねぇよ母上。))
「なるほど、確かにこの世の単純実力順位を示す位階序列の三の人に鍛えられちゃそうなるね、あっはは!」
キジコがこんなに頑張ってくれたんだ。私もその分...いや、倍でお返ししてあげなくちゃ!
[...邪悪めが!!忘れたか、我も貴様の力を持っている事を!!この力で...貴様達を滅ぼしてやるわ!!!]
ギウスティージアの魔力が増大、体が4m程になり、異形というか人型で黒く荒れた衣を纏い頭には牛の様な角、後ろには銀色の大きな魔法陣が浮かび上がる。
[我はギウスティージア!我こそが...神だああああ!!]
「私から無理矢理奪った魔力で神獣の力を構成したか...。どこまでも小者だな。」
「それじゃ私は向こうで休んでるから、頼んだぞ。」
任せてよね、私の力思う存分奮っちゃうから!
「真成無双剣!」
ちゃんと元の見た目に戻ったな。
変な奴に使わせて悪かったな。
[神罰を与える、大雷雨!!]
「うるさいよ。」
なんとなくではあったが、空に手を翳し魔法を壊す意識をした。すると雷が魔力の粒子となり消えていった。
「おお!?」
「これは凄い、一瞬で魔法が破壊された。」
[くぅ...神の裁き、輝光神撃!!]
ギウスは魔力の光線を放つ。
「眩しいな、ふんっ。」
このくらい真成無双剣を使うまでもない、手で振り払うだけで十分だと思い振り払うと案の定派手に砕け散り、跳ね返った一部がギウスに被弾した。
[ギャアアアーーッ!?]
「鳥の羽の様に軽いな。」
[...うおおおお!!]
ギウスは魔法で剣を作り出し、私に斬りかかって来た。
「はあっ!」
[ぬぉ!?...この程度!!]
力任せに剣を振るギウス。
地面を叩くたびに荒々しい痕が残る。
[神の怒り、神炎斬!!]
「でやあッ!!」
[ぐぁあ!!?]
ギウスが真正面から縦斬りしようとしたのでその隙に腹を横薙ぎで斬った。ギウスの体が上下真っ二つになり、斬り通った衝撃は会場のバリアにぶつかり大きなヒビが入り、今にも崩壊しそうになった。
「なんて力...ただの横薙ぎであの威力...!」
「バリアが壊れる、急いで修復だ!!」
ただの横薙ぎでこの威力は怖いわ。
最悪の場合キジコ達が先に死んでたよ今の。
私の手でうっかり皆殺しちゃった、テヘッな展開絶対あってたまるかっての。
そんな事考えモヤモヤしてる内にギウスの上下別れた体がくっついていた。
なんというか、弾けた肉体がグロめに細かく繋ぎ構成されいく光景をわざわざ見せられ気分が悪くなった。
余計にぶっ飛ばしたくなった。
「ニコ・大一閃!!」
[ギャアッ!?]
ぶっ飛ばすどころか斬ってしまった。
でも気持ち悪いもん見せて来たお前が悪いんだからな!
その原因私だけどね。
[高速再生!!]
「うお、気持ち悪っ!?」
[ハァ...ハァ...!おのれ..瞬速撃!!]
今度はキジコがよく使う高速移動攻撃技。
あの図体でこの速さは物理的に反則だろ!
でも今の私には...見える!
「そこだニコ・スラッシュ!!!」
[ガァアアッ!?]
「でかい隙を見せたな、だりゃあああッ!!」
ギウスを地面に叩きつけた。
その瞬間、ずっと溜まっていたコイツへの怒り...コイツが原因で起こってしまった悲劇に対しての怒りが爆発した。
一方的にな暴力ってのを見せてやるよ。
お前のせいで体が何度も傷ついた。
お前のせいで家の近所が魔物の血で染まった。
お前のせいで毎日が怖かった。
お前のせいで毎日が悲しかった。
お前のせいで何度かご飯が喉通らなかった。
お前のせいで眠る事さえ怖かった。
お前のせいでメンタル最悪だった。
お前のせいでジンとハル姉に迷惑かけた。
お前のせいで苦しんだ。
お前のせいで辛かった。
お前のせいでみっともない姿を見せた。
お前のせいで皆が悲しんだ。
お前のせいで悲しくなった。
お前のせいでキジコが傷ついた。
お前のせいでキジコを傷つけた。
お前のせいでキジコを殺しかけた。
お前のせいでスアを殺しかけた。
お前のせいでスアが死にかけた。
お前のせいで多くの人を失いかけた。
お前のせいで何かもかも失いかけた。
お前のせいで...
お前のせいで....!
お前のせいで!!
とにかく怒りがおさまらないんだよ!!!
何度も殴った、何度も斬った、何度も魔法を撃った。
それでも怒りが湧き上がる、ギウスの魔力が低下している。まだだ、まだ殴り足りないと感じてしまう。
そのせいで...私は気づけなかった。
[...我の勝ちだ。]
「!!」
私の後ろにギウスが放った魔力弾が迫っていた事に。
「魔泡滅却、汚れた魔力よ無に帰れ。」
一瞬だった。
不意打ちで放たれた魔力弾が透き通る魔力の球体に包まれ...縮小して消えた。
「一体何が...。」
「ストップだニコ、飲み込まれるな。」
「へ!?」
そこにはなんと...キジコがいた。
「なんで、観覧席にいたんじゃ...。」
「向こうに行くとは言ったが観覧席に行くとは言っていない。隠密使ってずっと闘技場内にいたぞ。」
嘘だろ、気配感じなかった。
...いや待て、そういやキジコは私と魔力共有したから、共有した魔力が原因で気づけなかったのかな?私の魔力だし、力がキジコにある程度与えられたか...。
「ったく、慣れない力に飲み込まれるんじゃありません!」
「ううっ...ごめんなさい。」
また怒られた...。
「まぁでも、よく頑張りました!さっさと終わらせよう。」
「!...ああ!!」
[...ここで...。]
「ん?」
[ここで...終わってたまるか!!]
ギウスは私達を暴れ払い、修復途中のバリアを突き破り死に物狂いで外へ逃げる。
[ここで終わってたまるか!!我は...我は!!]
ギウスティージアは逃げる。
神である自身が今は逃げ延びる事こそが世界にとって最善だと判断したからだ。
だがそんなの見逃すつもりは一切ない。
「行くよキジコ!!」
「おう!!」
私とキジコは魔力を思いっきり解放する。
溢れる魔力は輝き、力を感じさせる。
解放した魔力を手に収束する。
[愚かな、今撃とうとしてももう遅い!ここからであれば簡単に避ける事が出来るわ!]
「本当にそうかしら。」
[!?]
ギウスの動きが突然止まり、
その横には桃花様がいた。
[なぜだ...なぜ動ける!!]
「当たり前よ、あんたがニコちゃんに残り少なくなった魔力や神の力を使うから、神の加護の拘束の効力が消えたのよ。」
[...!!!]
「神の力味わったお礼に、とびきり強力な金縛りをかけたわ。じゃーねー!」
[まずい...まずい!!動け、動け!!!]
ギウスは焦る。
死が迫っているから。
見下していた奴らの仕返しを受けるから。
己よりも下等な存在に手を下されるから。
憎く忌々しい存在に手を下されるから。
支配したはずの肉体を失ったから。
「そういや...前にこの技撃った時は無駄にかっこよく名前つけてたけど...やっぱりキジコが考えた名前で撃った方が楽しいや。」
「そうか?まぁニコがそう言うならそれでいいか!」
これで最後だ、二度と現れるなよ!!
「「極限魔力大砲撃!!!!!」」
[嫌だ...嫌だ!!我は我はああああああ!!!]
放出された魔砲エネルギーはギウスを消し飛ばし、空の彼方へ消えた.......。
ーーーーーーーーーー
キジコ視点
青い空が広がる。
「ふぅ...終わった。」
「あー疲れた、疲れすぎた、もう無理。」
両者体力魔力すっからかんで地面にへたり込む。
「おーい、お前ら!!」
「おーす...あーダメ、元気も残り少ない。」
「私もー...。」
皆が走って来た。
「あーせめて体の傷だけでも治してくれないかな。」
「私もー。」
『では遠慮なく。完全回復治療。」
「うお、傷が癒えた!」
「この技...まさか!」
へたり込む私達の上を飛び通り過ぎる精霊。
『お疲れ様なの。』
「「スアああああああーーーッ!!!」」
『わ゛あああーーーッいきなり二人で抱きついてくるなの!!?』
「良かっだあああああ!!!」
「お前ら泣き喜んで余計に体力使うな!!さっさと帰るぞ!!」
「スパルタはんたーい。」
「はんたーい。」
「私が乗せますわ、ご主人様、ニコ様!!」
ルザーナが魔物形態になる。
だが地竜に覚醒したためか...3倍デカくなって見た目もちょっと変わった?
「あ、失礼しました!」
慌てていつもの大きさに戻った。
「これで大丈夫です!」
「じゃ、ありがたく乗せてもらうか。」
「ルザーナお願いねー。」
「はい!!」
こうして、ニコにとって長く関わっていた一つの騒動に、ようやく終止符が打たれた。
ちなみにクロマは転移頼られずちょっといじけてた。
ちなみに魔砲撃った際、闘技場の観覧席と壁が一部消し飛んだ。