第189話 遅かったじゃん
(...思ったより遅かったじゃん。)
(やかましいさっさとそっち行くから待ってろって。)
...
...
「ぶはっ。」
そこはあの時の部屋、ニコの部屋だ。
部屋に入っていたヒビは小さくなっていたが、窓の外や扉の向こうには悍ましい気配で満たされていた。
「よっす、キジコ。」
「おっす、想像以上に気楽だな。」
そこにはニコの姿があった。
ギウスに囚われたニコが。
「...良かった、無事で。」
「いや無事では無いけど、思ってたよりは大丈夫だね。ギウスは神なんて名乗ってるくせに想像以上に小物らしい。私を乗っ取りスアに大怪我負わせたのも、私とスアが弱り始めた所で不意打ちって感じだからね。」
思ってた以上に元気そうだ。
てっきり涙浮かべて良かったまた会えて的な展開が来るかと思ったが、そうでもなかった。
少し前までは暴走する自分が怖くて怯えていた子が...まぁ立派になって。
「ならやっぱりギウスはお前を完全に乗っ取った訳じゃ無いんだな。」
「ああ。この部屋は私の心の形だ、どう捉えるかは誰か次第だけど。私を完全に乗っ取るなら部屋の中から侵食して、ここにいるのは本来私じゃない何かがいるはず。でも侵食が起きているのは外。この部屋を覆う様に。」
「なるほど、ギウスはお前の心壊して乗っ取ろうと言ってたけど、今じゃヒビも小さくなるわ桃花様の治療で乱れた魔力整えてもらってたで思う様に侵食が出来なかった。んで痺れ切らして無理矢理外に飛び出てお前の意識を飛ばした瞬間この部屋を覆い肉体の支配権乗っ取ったのか。ゴリ押しじゃん。」
「その通りだよ。一応外の様子は感じ取ってたけどさ、アイツ見た目がほぼ私だから色んな動きがまぁまぁ私に引っ張られてる。んで私が頑張って意識を強くすれば動きも一瞬だけど抑えられる。」
「あー、2日前のあれはそう言う事か。」
それのおかげで何とか生き残れた。
ありがとーございまーす!
「まぁ話はこの辺にしようか。さてどうやってニコを助けましょうかね。」
「外のアイツ、ギウスをぶっ倒せばいいんじゃない?」
「そりゃそうか...脳筋発想だが最も正しいな。でもいいのか、仮にも神獣になれる力だぞ。」
「あんなのと精神融合するくらいなら死んだ方がマシだ。」
「だな。」
私とニコはニヒッと笑う。
「キジコ、助けに来てくれてありがとう。」
「当然だ。んじゃ、とっととぶっ飛ばしますか。」
「いえーい!」
私達はドアを開けた。
ーーーーー
[...貴様ら...!!!]
紫色で人型の何かがいた。
「おっす、お邪魔しまーす。」
[神の領域に踏み込む不届きものめが!!]
「いや私の体なんだけど、お前が出てけよ。」
[貴様などもはや邪悪も同然だ、この肉体は世界のためにあるのだ!!]
「訳わからん。」
部屋の外に出て見ればまぁご立腹のギウスさん。
「さて、あんまり長話する気も無いから。さっさとぶっ倒されてくれないかな。」
[...っ!!邪悪がああああ!!!]
「その見た目で言うかなあ!!」
ギウスは腕を槍状にして伸ばし襲い掛かる。
「行くよキジコ!」
「足引っ張るなよ。」
「言ってくれる!」
私はロケットスタートでギウスに突撃する。
[っ、うおおあああああ!!!]
「キジコ、左!!」
「右だ、ニコ!」
迫る腕を思い切り蹴った。
[ぐあああ!?]
「ははっ、お前自身は大した強さじゃないんだな!」
[黙れえええええ!!!]
ギウスは槍状の腕を増やして来た。
「黙るのは...。」
「お前だあああーーーーッ!!!」
二人揃ってパンチとキックのラッシュ。
ギウスの腕をぐしゃぐしゃ壊しながらどんどん突き進んで行く。
「「うおおあああーーーーッ!!!!」」
ギウスは全力で腕を伸ばし攻撃するも二人の勢いはむしろ増してゆく。
[な...なぜだ!?私は神の...神獣の意思だぞ!?失ってもいいのか!?この世界の光を消してもいいのかあああ!?]
「こんな汚れた光、誰もいらねえわ!!!」
ニコがギウスの顔面に全力パンチ!
[ぎゃああああ!!!]
「いい声だ、神なんて微塵も感じない小物の声だ。」
「ニコ、キャラ変わってる。」
ギウスは腕を戻し顔の痛みに苦しんでいる。
「お前みたいなのに世界任せられるか、お前にこの体渡すくらいなら死んだ方がマシだ。」
「二度目だな。」
[ぐううう....体..か。...ああああ!!もういい、いいだろう。]
「!?」
ギウスは突然膨大な魔力を溢れさせる。
[我からも言わせてもらおう、こんな邪悪が世界に蔓延るくらいなら...今ここで我ごとその精神を破壊してくれる!!!]
「...自爆する気か!」
流石にそれはまずい、今ここで精神が消えたらお互い死んだも同然になる。本っ当にアイツ嫌な奴だなぁ!?
考えろ、何かいい手段を。
あんな奴を取り除けそうな、いかにもチート染みた技とかないか。
なんかこう、すごく便利そうな...あ。
「打開策あった。」
「!」
[でまかせ言うのも見苦しいぞ邪悪が!]
「...ニコ、神獣の力だけどさ。神獣の意思があんな奴じゃなかったら欲しかった?」
「うん、もっと誰かを守れる強さが欲しかったから。」
「どうにかできるかもしれない。」
「え?」
「ニコ、全力で思い続けて欲しい。神獣になりたいとか皆を守りたいとか。」
「...それでいいんだね?わかった。」
[馬鹿め、神獣の力の権限は我のものだ!その程度でどうにでもなるかと思ったか!!]
「案外どうにかなるさ。」
私はギウスの背後に回り込み、ギウスの頭を掴む。
そして...魔法を使い始める。
[!?...なんだ、何だこれは!?]
「魔力変形。魔力を持ったものであれば、どんなものでも自由に変形させるという悍ましい魔法だ。」
私の工作意欲が火を吹く!
「ニコ!お前は何だ、何になりたい!!」
[やめろ...!]
「私は...。」
[やめろ...!!]
「私は...!!」
「やめろ..!!!]
「私は...!!!」