第186話 仕上げ
〜???〜
「クソッ、クソがっ、何故だ!!?」
どこかの森、
声を荒げ暴れているのはギウスティージア。
その目は怒りに染まり、声は逃げ場のない鬱憤で震えている。
「あり得ない...あり得ない!!神の加護を逆らうなどあり得ない!!骸積...貴様は神に逆らう者...許さん...許さんぞ!!!」
地面を殴り凹ませる。
その光景は神とは思えない、激情に駆られた獣。
「奴も...奴も邪悪の内か!!邪悪め...キジコめ!!神の加護を持たぬ貴様が、この世界で生きる権利も神になる権利もない!!なのに、なぜ今までのうのうと生きていられた!?なぜ我に選ばれたこの肉体が奴を殺さなかった!?どうしてこの肉体と並ぶ実力を持っている!?あり得ん...あり得ん、あり得ないあり得ないあってたまるかあああああああ!!!」
禍々しい闘気が辺り一帯を飲み込む。
宙を舞う蝶は羽が散り、
空を飛ぶ鳥は血を吐き地に落ちる。
地を跳ねる兎は恐怖で命を止め、
川は干上がり、
木は枯れ倒れる。
虫の音が響く静かな森はたった一瞬にして、
死...いや、無の大地へと変わり果てた。
「ああなんという事、私の悲しみに応え世界が真なるその姿を曝け出している!これが邪悪が乱した世界!!我がお前達の仇を討って見せよう、この世界を乱す邪悪を討とう!!!」
(これが...私の中にいた神獣の意思。)
(...本当に愚かだな。)
死屍累々の大地で、そいつはただ己を盲信していた。
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キジコ視点
夕方17時頃...
「そこまで!!」
「っ!!」
「また僕の勝ちだね、キジコ。」
不撓不屈を得てすぐテュー兄と武器の特訓をしている私。
闘王闘技が始まる前と似た光景になってる、テュー兄にまだ敵わない。
「すごいな...テュー兄の剣術。」
「剣術はね。キジコが得意なのは純粋な剣術じゃないからね。桃花ちゃん、そろそろ良いんじゃない?」
「?」
「そうやね....じゃキジコちゃん。今度はその武器使って私と闘いなさい。仕上げをするわよ。」
「!!」
急に桃花様の口から仕上げという言葉が出た。
「明日のためのスペシャルスケジュールはこれが最後。...全力で来なさい。」
「....っ、はい!!」
「...[残夢]、私は見定める。」
桃花様も本気だ。
...行こう。
「久遠、またこき使うけど良いよね。ニコを助けるためなんだ、私も頑張る、お前も頑張る、ただそれだけだ。」
私の刀、魔法具[ 久遠 ]。
今日はいつもより刃が綺麗に輝いていた。
「それじゃ審判...というより補助試験管はこの我、エレムスが担当しよう。準備はいいな、キジコ?」
「うん。」
「では...始め!!」
桃花様は手加減しながらも超スピードでパンチをしてきた。私は避ける。
「ふむ、これくらいは避けれるようになったのね。」
「あったり前です!!」
その隙を付き猫パンチ。
「重心とブレの問題はまぁまぁ改善されてるけどまだ遅いね。」
指二本で止められた。
やったー、一本増えてる。
私は一度距離を取り、抜刀体勢に入る。
「それじゃ私も何か適当なの使いますかな、蒼鈴。なんか武器ある?」
「これ使っとけ母上。」
蒼鈴が渡したのはいつぞや空間収納庫の特訓に使ったあの刀。色は紺、でもあれは確か大業物とも言える凄みがあり、私は少し背筋がゾッとした。
「っ!!」
私は抜刀する。
「おお、すごく腕上がってるよキジコ!」
「最低限以上の基礎は教えたからな。基本的な基礎は仕上がっていて当然だ。」
良い一撃を入れたが当然ながら桃花様は防いだ。
というか抜刀すらしていない。
「ふむ...テューニの言った通りいい腕にはなってる。でも...瞬発力がまだ足りんねぇ。」
「キジコ、抜刀する瞬間の力が足りていない!次はもっと意識しろ!」
「へい!!!」
私は一度下がり、久遠を鞘に納める。
意識しろ、ギウスにニコを取られた時の怒りはこんな比じゃなかった。私なら出来る、出来る!!
「せやあっ!!!」
「!!」
「それで良い!忘れるな!!」
久遠に魔力を収束する。
「行くよ久遠、妖炎斬!!」
「うん、それで良いよキジコちゃん。」
桃花様も抜刀し、私の久遠と打ち合う。
「すごいねキジコちゃん、短い刃でそれだけ戦えるなんて!!」
「ぅお!?」
桃花様が大振りで一撃かます、
防いだら衝撃でノックバックするのは間違いない、
ギリギリで幻影回避をし、瞬速撃で突き。
「よく避けれました!」
「あ..ぐぇ!?」
避けられ蹴り技を受けた。痛い。
「今の避けただけでも大きく成長したじゃないの。私も嬉しいわ!!」
その割には容赦をちょっと無くして攻めにかかって来てるのマジ怖いんですけど。
ええいどうにでもなれ、
「不撓不屈、限界突破で行ってやるわ!!」
「来い!!」
凄まじい速さの剣撃がぶつかり合う。
「頑張れ...師匠!!」
「ご主人様...。」
「キジコ...強くなれ。」
「挫けないでくださいよ。」
「成長したな...キジコ。」
「キジちゃん頑張れ...!!」
「君は弱くない、頑張れ!」
「...いや私の心配もしてくれないかなぁ!?!?」
「いや母上は次元が違うから大丈夫だろ。」
「実力だけは世界3位なんだから。」
「ああああひどいよー!!!!」
ばっかヤローッ、桃花様の力が増してるじゃねぇか!!!
「ええい畜生、やけくその一発!!!」
「!?」
桃花様の刀が魔力で輝く。
「ちょっ、親父!母上止めて!!」
「ごめん...流石に今突っ込んだら僕消し飛んじゃうかな...あはは。」
んん...やるしかない!!
「来い...桃花様!!そんな技耐えてやるどころか...反撃してやるわ!!」
「ひっぐ...いいわ、言ったわね!!でも無理は..しないでよね!!」
桃花様は構える。
「光遮り、風は別れ、花は散り、川は割れ、夜は無に帰す!悔しさやけくそ一発、私の必殺...残夢一閃!!」
輝く一撃が迫る。
「久遠、私達の修行成果見せるぞ。」
不撓不屈の出力を上げる。
「今こそ使う時...重力比例攻撃!!!」
「...嘘、手加減してるとはいえ...え..!?」
「あ...ああ...キジコが...。」
「母上の攻撃を...止めた。」
ニヒッ
「魔力スッカラカンの...全力猫キック!!!」
「あいたっ!?」
「そこまで!!」
エレムス教官がそこで止めた。
「...まぁ、こんなもんだな。荒々削りだが仕上げは完了だな。」
「えっぐ..ひっぐ...うんうん。」
「いつまで泣いてんだ繊細女...。」
「ほら桃花ハンカチ、んで立ち上がりなさい。あっちで落ち着こうね。」
「疲れたぁースイー。」
「ほらしっかり歩きなさい大人なんだから。」
翠柳さん、嫁さんの扱い方よ...。
「何がともあれキジコ、あとは休憩に入れ。出来る事は終えた。覚えた事忘れるんじゃないぞ。」
「はい!!」
「...あと朱斗蒼鈴、あの繊細女なんとかしておけよ。」
「「はいはい...。」」
「ご主人様ー!」
「師匠ー!」
そんなこんなで私はスパルタ特訓を終えたのであった。
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その日の夜...
「...よし。」
「肉体の修復も完了、魔力、体力は7割は回復済み。まぁ、あとはゆっくり休め。」
「うん、それじゃおやすみ。」
そんなわけで寝室に戻った。
寝室には未だ目覚めない結晶...核だけのスアがいる。
「...必ず仇は取るからな、ニコも助けるからな。」
コンコンッ...
「ん?」
「ご主人様...。」
「師匠、お邪魔します。」
「どうしたの。私はちゃんと生きてるよ。」
「いえ...その。」
「...一緒に寝たいの?」
「「!!」」
「そりゃそうか、明日最悪死んじゃうかもしれないからね。...わがまま付き合ってあげるさ。」
私達は布団に潜る。
「...ご主人様、私は貴方と共に生きる事が...私が私である理由です。だから...死なないで下さい。」
「私も...師匠とお別れしたくない..。」
「大丈夫だよ、私は死なないし負けるつもりもない。ってか、やたら強く私の腕を握るよねクロマ...。」
「だって...。ルザーナの方ばっかり見ててずるいんですもの。」
「仕方ないだろ私たちは尻尾があって仰向けで寝られないんだから。このベッド尻尾用の穴無いし。」
「私も見てください!」
「あークロマご主人様を!」
「ずるいですよルザーナ!」
「あーうるさい!猫モード!!」
「あーもう!師匠がこんなに可愛くなっちゃったじゃないですか!」
「触りまくってしまいますよ!!」
「しまったヒートアップした!?」
このあと寝るのに30分かかったとさ。
「ごひゅひんはわ...。」
「ひひょー...。」
「...。(尻尾バンバン)」
『(...精霊がゆっくり寝てるのにうるっさいの...。)』