第182話 ギウスティージア
「...我は神獣、ギウスティージア。今より世界を正しく導く者なり。」
その姿はニコ。
恐ろしくどこか不気味な白い髪と尻尾、
その場にいる者達を見下す深紅の眼、
恐ろしい見た目に変化した真成無双剣。
「ニコが...貴様あああああああ!!!!!」
私は激情のままに攻める。
ニコを助けるという思考以外何もない、
「破邪の光・カラミティブレイク。」
「!?、幻影回避!!」
「...愚かな。」
「え...っ!?」
避けたのに技を食らった。
...いや、避けきれなかったのだろう。
私はバリアまでぶっ飛ばされ、バリアには大きくヒビが入った。
「ぁっ....!!?」
「キジコちゃん!!?」
あれ、そういや桃花様や朱斗蒼鈴、ルザーナやクロマ達が動いていない...。ニコを助けれたかもしれないのに...妙だ。
考えてみればこの事態を事前に防げる程のチート戦力組が遅れをとり、今この瞬間何もしていないのが余りにも妙だ。
「...朱斗、あんた達に何の異常が起きている?」
「!、...流石に気づくか。ああ、見ての通り思うように動く事が出来ない。」
私もようやくうっすら見えてきた、変な魔力の流れが朱斗達...会場全体の人間に。
...私以外の人間に。
「邪悪よ、ようやく気づいたか。これは神の意思、神の加護を持つ者達は神の子である。神の命令をよく聞く愛しき子達。今ここは貴様の処刑場であり、我という神獣が世界を導く日を決めた聖なる地である。」
「...概念的...というより魂の根本的な話とかそういうのか!」
この世界で生まれた魂自体に働く神の力とかそういうのか...。
「そうよキジコちゃん...生憎私でも連続しては動けないわ。ごめん...ごめんなさい。」
「桃花様は悪くない、...私が邪悪を滅ぼしてニコを助ける。」
「貴様...我を邪悪呼ばわりとは不敬である。立場をわきまえろ、邪悪めが!!!」
「あがぁっ!?」
「キジコ!!」
強い圧力、衝撃波を食らい、バリアにさらにヒビが入る。バリア越しの後ろにいる観客達が青ざめた顔で悲鳴を上げている。
「ご主人様ぁーーーっ!!!」
「ルザ...ナ...。」
「邪悪の眷属か...煩わしい声だ。」
「っ!?」
「ぁ..!!?」
ギウスが振り払う動作をした瞬間、ルザーナが吹っ飛び特別観覧席の壁に叩きつけられた。
「ルザーナ!!!」
「煩わしいと言っている、邪悪が!!!」
まずい、後ろの観客に被害が!!
「っ(疾風脚、瞬速撃)!!」
「!!」
「(魔身強化、レーダーフル稼働、猫パンチ)!!!」
「!?」
ギウスが放った衝撃波を全力猫パンチで破壊した。
「貴様...神に歯向かうのか!!」
「お前がいう愛しき子達もろとも押し潰そうって奴に神なんて務まるか!!」
自分の肉体が完全に治っていないにも関わらず、私はギウスに攻撃をする。
「ニコを...返しやがれ!!!」
「断る、仮にも神獣の器として手を加えてきた肉体だ。今や私こそが扱うに正しき存在、邪悪に手を貸すような魂などこの世に必要ない。」
「...!!!、うおあああああ!!!」
「!!」
「全力...猫パンチ!!!!」
「うぐぉ!?」
「パンチ、パンチ、パンチ!!!!」
「...鬱陶しいぞ邪悪があああっ!!!」
「っ!!!」
気づけば私は頭や腕、脚などから血が流れている。
痛みは感じない。
...今も治らない怒りが感覚を鈍らせる。
「ぁ...ぁぁ...。」
「キジコ!!!っ...さっきまで動けたのに!!」
「邪悪に手を貸した者も今この場で滅する。消えよ、骸積達よ。」
「くっ...!!」
もうダメかと思った時だった。
「残夢!!!!」
「何ッ!?」
真っ白なオーラと真っ黒のオーラ、
その二つを纏った桃花様。
「馬鹿な...神の力は出せないようにしたはずだ、それどころかもう動けない筈だ!!」
「これ以上は...この子達に手を出させない、位階序列の三...骸積、いざ参る...!!」
「っ!?」
「神之猫拳!!!」
「っ...ぐああああ!!?」
その一撃はギウスをぶっ飛ばし、私と反対側のバリアに叩きつける。
その際桃花様は強力なバリアを張り、叩きつけられたギウスで割れないようにした。
「っ...!!これ一発が限界だわ....。」
「...無理矢理...神の力を解放など...純粋な神である私を超えるなどあり得ない!!やはり貴様達はここで...、」
ドクンッ
「っぐぁ...!?馬鹿な...ニコ!!貴様が出る幕は二度と無い!!!引っ込んでいろ!!!」
「ニコ....!?」
「...魂はまだあった、そして抵抗している。」
「なぜだ、なぜ消えていないのだ!?ぐっ...一度身を引いてやる。だが!今から2日後...神罰を下す!!!」
そう言い、ギウスティージアは転移で何処かへ逃げた。
同時に、動けなかった人々も元に戻るも...残された傷跡は非常に大きなものであった。
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その日の夜...。
予想外の事態だけあって、闘王闘技は一度中断。
体の至る所に包帯を巻いている私は現在、桜華の館にいる。
「...大失態だわ。何度謝っても...償える話じゃないの、ジンさん。」
「桃花様が悪いのではありません!!どうか頭を上げて下さい、何も出来なかった私も...悔しいのですから...。」
責任感に飲み込まれている桃花様とジン、
余りのショックで寝室で寝込んでいるハルさん。
「...それに、何も出来ず悔しいのは何も俺だけじゃありません。ニコはまだ死んだ訳ではありません、絶望するには...早すぎます。」
「...ジン君の言う通りだよ桃花。まだ詰みになった訳じゃない、だから顔を上げておくれ。」
その翠柳さんも相当悔しく、悲しそうな声だった。
顔を上げた桃花様は涙で顔がぐちゃぐちゃになっていた。
そりゃそうだ、桃花様もニコの事を物凄く気に入っていたんだ、大切なものを失う恐怖は誰だって嫌だから...。
...私だって怖い。
友達を、親友を...ニコを失うのが怖い。
魔力もすっからかん、高治療での回復も少ししか効果がなかった。
こんな私でもアイツを倒せるのか。
こんな私でニコを救えるのか。
...先の見えない恐怖に、涙が止まらない。
「...お前はもう寝ていろ。よく頑張った、今は...俺達に任せてくれ。」
「...ありがとう。」
朱斗にそう言われ、私はフラフラと寝室に向かった。