第170話 私だって弱点は沢山ある
「いっちに、さんし...よし。ランニング開始。」
2段戦前日の朝。
朝も冷え始めるこの時期。
秋用の体操服を来て私は町のランニングコースを走る。
こうやって落ち着いたランニングは気持ちが良い。気分転換になるし健康にも良い、何より毎日やれば体力増強にもなる。これもまた私の趣味である。
今着ているこの秋用の体操服は素晴らしい。
着心地が凄く良いし、あまり蒸れない。
長時間走っても気分爽やかになれるのだ。
やはり日常的機能性と見栄えのある服はクルジュさんに頼むのが一番だわ。
とまぁそう言うわけで私はランニング中。
しばらく走ってると...
「おっす、おはよっすキジちゃん!」
「おはよ、ケイ!」
私と同じくランニング中のケイと合流。
「今日もいい天気っすね!」
「しばらくは晴れらしい、明日は天気は気にせず闘える筈だ。」
「それはよかったっす。私は雨天時は頭痛くなる事があるっすからね。」
「あー、頭の横とかその辺?」
「そうっす。」
だとしたら偏頭痛かな。
気圧の変化で血管がなんちゃら...
まぁこんな事考えても仕方ないか。
「とりあえずこのランニングコースをゆったり1周しようか。」
「はいっす!」
私達は舗装された道を走ってゆく。
ーーーーーーーーーー
タッタッタッタ...
「お、人が増えて来たな。」
「ウォーキングする人も結構いるっすからね。皆健康意識あって良いっす。」
しばらく走ってると見えてきた。
やって来たのはコスモス畑付近のコース。
ピンクの花畑の壮大さが目を癒す。
ちょっとベンチに座るか。
「今思えばこの花は自生なのか植えられたものなのか...。」
「確か植え替えだった筈っす。なんでも土地拡大がどうしても必要な地域がちょうど自生エリアだったらしく、当時の住民がそれを一本も枯らす事なくここへ植え替えした結果今もこうやって増えて見事な景色を作り出しているんす。」
「すごいな。そう言う事が出来る人達って。」
「出来る...ね。」
「?、どうしたの。」
「ずっと思ってたんすけど、キジちゃんは色々出来たりする腕を持ってるっすけど...逆に苦手だったり出来ない事ってなんすか?」
...出来ない事ね。
うーむ、チェスや将棋、囲碁の知識は皆無です。
趣味に興じる私もそれのルールは知らないんです。
だがそんなの多分ないこの世界で出来ない事?
「そうだな、結構あるぞ。空は飛べないし、水中にずっとは潜れないし、長時間の全力疾走も体力的に無理。それに加え勉学も優等生って訳でもない。最近覚えた魔法陣構築技術も初級のだ。おまけに相手の魔力や闘気を感じる力だってケイやアリアほどじゃない。まぁ数えてたらキリがない、私だって弱点は沢山あるよ。」
千里眼とか転移とか一定時間無敵とか時間停止とか何かを奪う能力とかタイムリープとか超特化ステータス振りとか超絶的な幸運とか魔性の魅力とか未来予知とか前世最強の何かしら実力者とか超ハーレムキャラとか武具名工とか転生転移直後チートとか名探偵とか現代兵器とか、そういうのは持っていない私。
私の武器はセーフティ付きの無限スキル入手。
それ以外はまぁ成り行きって事で。
神獣なんて私を送り出してくれたあの世のお偉いさんにも想定外だったから私が深く考えても頭痛くなるだけだ。
「まぁそんな訳で私は全くもって無敵でも最強でもない。鍛えられてはいるけどそれでも私より強いのがうじゃうじゃいるんだ。変に飛び出た強さであれこれ無双するストーリーなんてまっぴら、出来る事ならこれ以上嫌な事件に巻き込まれず大人しく暮らしたいもんさ。」
私の家族にも大変ない日々を続けさせるのもあれだしね。
「そうっすよね。このお花畑のような平和がいつまで続くかはわからない。でもどうせなら自分らしく平和に暮らしたいのは全員ではないだろうけど同じだ。私達が安心して海に行ける時までには今抱えてる問題を大方片付けておきたいっすね。」
私達は再び走り始める。
ーーーーー
「...お?」
「何か騒がしいっすね、行ってみるっす。」
町の方から何やら...?
私達は騒ぎの方へ駆けつける。
「どしたのですか!?」
「私の...私の娘が!!」
「!?」
「な...キジちゃん、あれっす!」
私の上に鳥の影。
飛んでいるのは1.5m程の鷲の魔物。
その足には女の子が掴まれてる。
「町に迷い込んだ挙句手頃な獲物を狙ったすか...!」
「的が小さいから変に技を当てると女の子まで危ない、どうする...!」
「おっとキジちゃん、私がいるんすよ。こう言う時こそ。」
「ああ、2人で絶対にあの女の子を助けるよ!」
念のため近隣住民は警兵に守らせ、私達は女の子を助けに鷲魔物を追いかける。
仮にも空を飛ぶ魔物、女の子を掴んだままでも結構早い。このままだと女の子の体に負担がかかってさらにまずい状況になる!
「キジちゃん、私があの魔物の注意を引き寄せるっすから女の子をお願いするっす!」
「了解!」
ケイは空間収納庫から赤色の石を取り出した。
「まだ使えるっすかね...ほらほら鳥さ〜ん、飛び方下手くそっすねー!」
ケイは石に魔力を込めると鷲魔物に挑発。
鷲魔物は旋回し、ケイを睨み。
「おやー、そんなので戦えるんすかー?」
すると鷲魔物は女の子を空中で放す。
「キャアアーーーーー!!」
「せいっ!!」
その女の子を空中でキャッチ&高速救出!
割と漫画で見る助け方じゃー!
「ケイ!」
鷲魔物は爪をたててケイに襲い掛かる。
「あとは...楽勝。」
ケイは鷲魔物を強く睨む。
それを見て鷲魔物は慌てて町とは反対の方角へ飛んでいった。
「救出!」
「完了っす!」
ハイタッチ!
ーーーーーーーーーー
「ふぅ、とんだ朝のランニングになったな。」
「でもいい運動になったっすよ。」
攫われた女の子を助け、無事に親の元に返し鷲魔物トラブルは片付いた。
「そういえばケイ、あの石はなんだったの?」
「ん?ああ、あの石は挑発石って言うのっす。魔力を通すと文字通り魔物をイラつかせるというかこちらに怒りを向けさせる超音波が出るんす。まぁ弱い魔物しか効かないし1個で3回くらいしか使えないんすけどね。実際使い切ったあの後、石は砕け落ちたっす。」
「そんな石があるのか...。」
世の中色々アイテムあるなぁ。
「...お、スタート地点だ。」
「1周完了っす、お疲れ様っす。」
「お疲れ様。さて、ホテルに戻って風呂でも入るかな...。」
「キジちゃん!」
「ん?」
「明日、楽しみにしてるっすよ!」
「...ああ、そっちもね!」
明日は闘王闘技2段戦。
私vsケイ、スアvsニコ!
頑張らなきゃ!




