第161話 レリィvsスア④
...私はレリィという名を与えられた精霊。
いつ生まれたかはわからない。
覚えている記憶で一番古い頃の時点で、私はある者を守る精霊として生きていた。
そいつの事を私は[グレ]と呼んでいた。
グレは魔人族の男で、そいつと私は色んな所を旅していた。
ある日はそよかぜが吹く草原、
ある日は木下で雨宿り、
ある日は戦火に巻き込まれ必死に逃げた。
...忙しい日々が何度かある旅だったが私はとても楽しかった。
そんなある日グレはダークエルフの女と結ばれた。
その女の名は[ミルカーナ]。
私は盛大に祝ってやった。
だって私の相棒だからな。
気づけば相棒と呼んでいたくらいの仲。
家はサジェス帝国領域内にある平和な村に建てた。
そこはのどかで旅の疲れを忘れるほどにいい村だ。
私達は家具を揃え、
薪を割り、
畑を耕し作物育て、
気づけばご近所さんとも仲良くなった。
おまけにこの地域は精霊も多く、
私は毎日のように話しかけられていた。
しつこかったが意外と悪くなかった、なにせ楽しいからな。
数年の時が流れ、ミルカーナは一人の娘を産んだ。
その娘は[ミーシャ]と名付けられた。
ミーシャは二人の特徴を合わせ持ったハーフエルフ、渋い色合いの子だが美しい、それでこその美しさだ。
気づけば私は毎日、ミーシャを守るようになっていた。
怪しい輩は近づけさせんぞ。
この子は私が守ってみせる。
そしてまた時は流れた。
皆と広場に散歩している時、それは起きた。
ミーシャは近頃、言葉をあと少しでいえそうな時で、
ミーシャは何かを言い始めようとしたのだ。
グレか、ミルカーナか、それとも別の何かを言うか、3人揃ってドキドキハラハラしていると...
「...ヒェ...イィ...。」
...グレとミルカーナは驚いていた。
ミーシャが言おうとしたのは...私の名前だ。
いやいや私でいいのかな...あれ?
手がめっちゃ濡れてる、雨降ってきたか?
私は急ぎ皆に木の下に行こうと言ったが動いてくれない。
何を考えている、ミーシャが風邪を引くぞ!?
...グレは空を指差す。
空は...晴れていた。太陽が眩しい程に輝いている。
じゃあなぜ濡れている?
するとミルカーナは手鏡を出す。
そこには大粒の涙を流した奴がいた...
私だ。
私だった。
顔を赤くして、大粒の涙を見事なくらいに流してる私がいた。
...だってさ、嬉しいじゃないか。
この子は今は物心ないとしても...私を認識してくれていたのだから。
それだけで...私は救われた、
なによりも嬉しい...宝物だ。
でも事件は起きた。
ミルカーナは普段使っている帝国行きの馬車を使い買い物に行っていた後の話。
ミルカーナは夜に...姿を消した。
グレからそれを聞いた私は頭が真っ白になった。
相棒の守るべき存在の一人を失う恐怖。
家族を失う恐怖。
ミーシャを悲しませる恐怖。
私は無我夢中にミルカーナを捜索した。
各地の村や町、森、川、池、海、帝国内、
とにかく探した...探した。
でも見つからなかった。
どこにもいなかった。
私は...グレとミーシャに合わせる顔が無い。
私が...もっと早く気づいていれば、
私が...あの時ミルカーナの部屋にいれば、
私が、もっと優秀な精霊であったならば...
ごめんなさい...ごめんなさい...。
ーーーーー
また時は流れた、
ミーシャは精霊の声も姿も見えなくなってしまった。
必死に呼びかけても認識されない。
何をしても気づいてくれない。
それでも...私が守らなきゃいけない。
そんなある日、グレはクマのぬいぐるみを持ってきた。
なんでもグレの故郷では大昔、熊の聖獣様に守られていた事からクマのぬいぐるみはお守りと言われているらしい。
これに憑依してくれと。
そう言われ私はぬいぐるみに憑依。
ミーシャの元へ運ばれた。
グレはミーシャにぬいぐるみを渡した。
これはお前が助けを求めた時に守ってくれるお守りであると。
なら私はミーシャを守る。
必要とされたその時に。
私は私の意志でこれを決めた。
いざという時は空間収納庫からも飛び出せる術式がぬいぐるみに施されている。
私は絶対に君を守る。
絶対にミルカーナを助ける。
相棒、お前の家族を私が...助けてみせる。
私はもう二度と...過ちを犯したくない。
ーーーーーーーーーー
『...あ..。』
『随分早く起きたの。...まだ続けるの?』
...寝ていたのか。
でも結果は自分がよくわかっている。
『...いや、負けたよ。私は過去を抱えすぎていた、前の道が見えないほどにね。』
『はぁ、本当馬鹿なの。』
「試合終了!勝者は、スア選手!!!」
観覧席に戻る途中...
「お疲れ様、レリィ。」
『...ミーシャ!』
ミーシャがいた。
そういえば私の戦いを観に来ると言っていた。
「...頑張った、レリィは頑張ったよ。カッコよかった、凄かった!ずっと昔から..ずっと...、」
『それ以上は...言わないでほしい。ごめん..ミーシャ、ごめんなさい...!!』
...大粒の涙が床に落ちてゆく。
『(...そっとしておくかしら。野暮な邪精霊になった記憶なんてないの。)』