第156話 目覚めると
ああ、
負けた。
悔しいけど、
楽しかった。
...あれ、ここはどこなのだろう。
暗い空間。
とてもフワフワしたような、
さみしいような、
...誰もいない空間。
『君が新しく竜種となった存在だねっ。』
「え...?」
後ろから声が聞こえる。
振り返るとそこには少年...?のような精霊がいた。
「えーと...どちら様?」
『これは失礼、僕はドラーシというっ。この世界でただ一人の[竜精霊]さっ。』
「竜精霊...?」
『竜の力を持った精霊っ。精霊ってのは何かしらの力を持ってるもので、その中で僕は竜の力を持っているっ。さっき言ったけどこれは僕だけっ。』
よくわからないけど、招かれたようです。
「私はどうしてここに?」
『僕は竜となった者がどういう存在であるかを確かめるいわば...試験官ってやつさっ。』
「竜...!?誰がでしょうか...?」
『そりゃ君じゃんっ。君は地竜に覚醒したのさっ。』
「え、私が...竜種に!?」
『そう、だから試験っ。』
「試験...という事は何かするのでしょうか?」
『いや、僕は今君の精神に直接話しかけてる状態でね、失礼ではあるけど既に君のことは覗く形で知ったっ。そして竜種となる存在はあらかじめ監視していたから君のさっきの戦いも見ていたっ。』
「はあ。」
『結論的に言おう、合格だよっ!君は強者に臆しない体と前に進む心の両方を持っているっ。君なら竜という力を乱暴に扱う事も無いだろうし、悪用もしないだろうっ。』
「...竜の力というのはそれだけ強大なのですか?」
『そりゃあそうさ、それも特に始祖ならねっ!』
「始祖...?」
『そりゃサラマンダーから新しい竜になったんだ、種族的に見れば新しい始祖さっ。始祖個体はかなり力が強いから念入りにチェックしているんだっ!』
「それは...お疲れ様です。ところで貴方は私の精神に...この空間で話しているのは何故でしょう?あまり周りに聞かれるとまずいのでしょうか。」
『それは違うっ。僕の精霊としての体は今訳あって修復中でね、だからもしもの時のために精神だけでも動かせるようにしたのさっ。』
「なるほど...。」
「それでその...地竜というのはなんでしょうか?」
『地竜は4種の竜の中で唯一空を飛べない竜種だっ。おまけに遠距離魔法も上手く扱う事が出来ない特徴があるっ。だがしかし、その肉体能力や近距離戦においての戦闘力は竜種随一、それに見た目以上に体も頑丈で簡単にくたばらない、空を飛べない分の種族として得られた凄まじい魅力さっ!そして君の元は大地を駆けるサラマンダーだ、尚更その辺の才能はすごい事になるだろうねっ!』
「そ..そうなのですね。ちなみに私が空を飛ぶ竜になってた可能性は...?」
『それはないねっ。基本的に種族に合わせた形で覚醒するからっ。君の場合は脚力が非常に優れた竜種になるだろうっ!』
そ、そういうものなのか...。
「も、もし不合格なのであれば...?」
『んっ?覚醒させないか、力を打ち消すかだね。悪い事は起きる前に摘み取るのが普通だからね、僕いなきゃこの辺も死の荒野となったりねっ!』
「ひぇっ。」
え、竜の力ってそんな恐ろしいの??!
この妖精さん...普通に英雄の如く所業やってます...。
フラッ...
「あれ...意識が。」
『ああ、もう目覚めるみたいだねっ。急に招かせて悪かった、そろそろ帰そうっ。』
「そうですか、色々お教え下さりありがとうございました。」
『いやいや、これは竜精霊である僕の責務だから礼はいらないさっ。...ああそうだっ!』
「?」
『向こうに戻ったらさ、もし出来れば...竜人族のとある貴族の令嬢である[ヴィオレット]に、[僕は元気だ、きっとすぐに会える。]って伝えておいてくれないかなっ。僕は彼女とは仲が良くてね、長い間心配させてるだろうし今の僕では彼女の元に駆けつける事は出来ないっ。だからお願い、あの子にっ。』
「わかりました、任せてください!」
『....ありがとう、では...っ。』
ーーーーーーーーーー
「ん...んん...?」
「スゥ...スゥ....zzz。」
目が覚めると医務室にいました。
横のベッドにはケイさんが寝ています....静かに寝てる割には寝相が悪いですこの人。
「....んぁ?また布団がない...ってここ医務室っすか。」
「はい、私も今目が覚めたところです。」
「くはぁ〜...5時間寝ていたみたいっすね、すっかり夕方っす。」
「確か1日2試合ですから今日の分の試合は終わりなのでしたっけ?」
「そうっすよ。」
ご主人様ほど長くは寝ていませんが結構寝てましたね、昼寝というには長いですね。
モゾッ
「ヒャオッ!!?」
「お?何かいるっすね。」
布団の中を覗くと、
丸まって寝ている...猫モードのご主人様。
「ずっと心配だったみたいっすね、羨ましいっす。」
「ご主人様...。」
「...ん?ぁ...おはよ、ルザーナ。」
あ、起こしてしまった。
布団の中からズルズル出てきました。
そのままあくびとノビをしてます。
「...仰向けに寝れないのって大変だね、私達尻尾あるから。」
「いきなりそこですか...。」
「その姿の方がキジちゃんはしっくり来るっすね、前見た時よりも大きくなってるっすね。」
「ふふっ、ケイもおはよ。」(グルルル...ッ)
ご主人様、喉鳴ってます鳴ってます。
「元気そうで良かった、すごく強くなったね。」
「お褒めに預かり光栄ですキジコ様。」
「その言い方割とむず痒いからやめて。」
「そう言うと思ったっす。」
ご主人様尻尾バンバン、痛いです私に当たってます。
「さて...高治療!」
「おお、傷が癒えたっす!」
「よいしょ...っておっとと。でも体が重いですね。」
「高治療って怪我は治せるけど疲労や病気は治せないんだよね。だから早い事ホテルに戻ろう、ここじゃゆっくり出来ないだろう。クロマ!」
シュンッ
「クロマ参上です!」
「おお、見事な転移魔法っす!」
「闘技場の外はまだ私達を見ようと集まってる人達でいっぱいなので転移がおすすめです。ケイさんはどこの宿泊先ですか?」
「私は温泉街の西にある、あの大きな旅館っす。」
「わかりました!では先にお送り致しますね!」
シュンッ
「...ケイさん、元気そうで良かったですね。」
「ああ、本当は今すぐにでも抱きつきたかったけど、疲れた状態の二人にはきついかなと思って我慢してました...。」
「私は大丈夫ですよ、ギューッ!」
「わ、クロマ!」
「モフモフです、ご主人様。そろそろ冬毛に生え変わり始めてますから尚更モフモフ感が...。」
「あ、やめ、ちょ、くすぐった...!」
「...私頑張ったのですよ?これぐらいは良いですよね!」
「る、ルザーナ、待って、にゃあああ!?」(ゴロゴロ)
私頑張りましたよ、ご主人様!!