第153話 ルザーナvsケイ③
「...え?」
気づけば私は吹っ飛んでいた。
なんの予告もなく、宙に吹っ飛んでいたのだ。
なぜか時間がゆっくりに感じる。
上半身がだんだん痛くなってきた。
...だんだん思い出してきた。
蹴られたのだ。
私では反応出来ない別次元とも言える速さ、
...化け物だ。
「ルザーナ!!!」
あれ、ご主人様の声...。
ああ、...吹っ飛んでいる場合じゃ..
「ない!!」
私はなんとか意識を取り戻し、バリアに激突する寸前に体勢を立て直した。
「はぁ...はぁ...なんとか...意識を..!」
「...。」
一瞬意識を失ったルザーナ。
脳の処理が追いつけない速度でケイはルザーナを攻撃したのだ。
その姿は輝かしい赤色の髪、燃える闘争のオーラ、底が見えない魔力。
「まだ行くよ。」
「!!」
1秒あるかないか、ケイの拳がルザーナを襲う。ルザーナは後へ飛び防御体勢を取るも、ケイの姿がどこにもない。
「どこ...!?」
「左だよ。」
「え...ぐぁっ!?」
ケイの姿を認識する前にルザーナはパンチをくらい、またさらに追撃が何度も襲った。
ルザーナは飛び蹴りをする、
しかし足を掴まれ投げ飛ばされる。
ミドルキックをする、
だが後ろに回り込まれ殴られる。
尻尾で掴もうとするも、
あっさり避けられる。
明らかにさっきとは強さが違う。
あまりにも差が開いている。
その違和感に、ある者は気づいた。
「...おかしい。あれは闘牙で動けるような動きじゃない。」
「どういう事でしょう...師匠?」
『何か知っているの?』
「...キジコも気付いたか。」
「帝王様?」
「闘牙とはそもそも、自身に眠る魔物の力を呼び覚ますスキルだがこれには当然限界はある。いくらその力を解放しようとも魔物になる訳じゃない、魔物そのものの力を得る訳ではない。」
「それはつまり、人という体では魔物の力は完全に再現は出来ない事。人という形で眠った力を呼び起こす事しか出来ない、あくまで人として戦うんだ。」
「だがルザーナは違う、ルザーナは純粋な魔物から進化した特別な存在。人の肉体も魔物の肉体も操る事が出来る。」
「そして今のルザーナは人と魔物、両方の力を最大限に発揮した姿だ。ケイは力を隠しているとはいえ、人という存在では超えられない力をルザーナは持っていた。魔物だからこそ持てるスキルや身体機能、それらが重なる事で闘牙という力に真正面から対抗出来たんだ。」
「であれば...今のケイさんの力って...?」
一方的にダメージを受けるルザーナ。
先程とは違う、ケイの力の前に何も出来ない。
(この力...ケイさんが言った闘牙とは明らかに違う力...!)
「...強解放だ。一度しか見た事ないから詳しい事はわからないけど、闘牙よりも上の何かであるのは確実だ。あの赤い髪、凄まじい魔力はそれとしか思えない。」
...さっきのルザーナの攻撃で、自身に眠る魔物の力だけでは勝てないと判断したな。
ケイの攻撃は続く。
まるで全てが見えているかのように的確な攻撃を与え、迫る攻撃を全て避ける。
ルザーナは何度も立ち向かうも、歯が立たない。
「どうしたの、倒れてる場合じゃないと思うよ。」
「ガハッ...ハァ...。」
ルザーナは立ち上がり、構えをとる。
諦めないという意志が目を見てわかる。
「そう、戦うの。倒れてる場合じゃない。」
ルザーナはケイに向かって走る。
「圧倒的な強さを前にしても立ち向かいなさい。」
ルザーナはケイに蹴りをする。
だがケイは避けも防御もしない。
その場で全く動じていない。
「どんなに壁があっても、絶望があっても立ち向かいなさい。」
「...!...!!」
ルザーナはとにかくケイに攻撃する。
ケイは多少防御を取り始めるもその場を動かない。
「この力を持ってしてもちゃんと痛い。それは君が無力じゃない何よりの証拠だ。」
「...!!」
ルザーナは膝蹴りをする...だが。
「でも...何で君はそんなに悲しそうな顔をしているの?」
「...!?」
膝蹴りは受け止められていた。
ルザーナは距離をとる、途端目から...涙が出ている事に気がついた。
「!?...!?」
ルザーナは理解出来なかった。
自分が涙を流している理由に。
「なん...で...!?」
「...君の意志は燃えていても、肉体が臆し始めた。君の本能がそう判断したんだ。」
「そんな...私は...まだ戦える!!!」
ルザーナはケイに攻撃しようと迫るも...動けない。
「...なんで...なんで!?」
「ただでさえ君はダメージを受けている。正直言って、とても頑張った方だよ。」
「ダメ...私には...まだ!」
ルザーナは魔力を収束させる。
「...ウロボ..!」
「それはダメ。」
「...!?」
ケイの威圧がルザーナの動きを止める。
「...その力、最悪命を削るんじゃないの。」
「...。」
「詳しくはわからない。でも私にはわかるの。君の目が、命を削り捨て去る覚悟を表しているから。」
その力を今のルザーナが使えば彼女自身が無事では済まないと、ケイは理解した。
「...私は...。」
「...。」
「...貴方に...勝てないのですか?」