第151話 闘う者の決意
キジちゃん...君は本当に強い。
驚いたよ、この地にこっそりやって来てみれば君は人の姿を得て...いや戻ったって言うべきかな。私が離れた地で修行している間にも君はすごい活躍をしていた。
いつもそうだったよね。
あっという間に強くなって、色んな力を見せて私達を驚かせた。
そんな君を見て私は燃えたよ。
すっごくワクワクしたよ。
だからね...私決めた。
この大会...やっぱり自分を隠さず、
自分という存在で戦うべきだと。
ーーーーーーーーーー
闘王闘技3段、第二回戦開始前...廊下にて
「いよいよですね。」
「...。」
「どうしたのですか?」
「...少し考え事をしていただけさ。さっきのキジちゃんの戦い...本当に凄かった。すごくワクワクした。」
「はい!私もご主人様の家族として心が燃えます!」
次は私の番。
相手はエキーさん、抑えていても練り込まれた闘気の重厚度がそこらと段違いです。正直に言えば私以上です、勝てますかね...?
いいえ勝ちます勝って見せます、私だって努力したんです。ここで見せなきゃ恥です恥。
エキーさんの戦闘スタイルは超が付くほどの物理格闘、一方で私はこの脚を中心とした戦い方。お互い派手な遠距離魔法を使う事のない、純粋な格闘技術の激しいぶつかり合いとなるでしょう。まぁ、肉体強化魔法くらいは使いますが。
...そういえばご主人様、そろそろ観覧席に戻っているでしょうか。第一回戦の後、手が砕けたリーデンさんを慌てて運んで医務室に行きましたが...。ご主人様はやりすぎたーって焦り顔で破片集めてました辺り本当にお優しい方です。
「...あ、そろそろ闘技場だよ。準備はいい?」
「...!はい!!」
おとと...そろそろ始まる。
見ていてくださいご主人様、私がすごくすごーく頑張る姿を!!
「さぁ続きまして3段第二回戦を行います!」
魔法で綺麗に整地された闘技場。
キジコとリーデンの戦いでそれなり荒れたのだが綺麗さっぱり元通り、なんということでしょう。
ルザーナとエキーは闘技場に現れる。
「金眼之四王が一人、蒼脚の女王ルザーナ!!そして第二予選を秒で勝利、正体不明の格闘家エキー!!」
私達は闘技場に背中合わせに立つ。
「ついに来ましたね、あなたと戦った事は一度もありませんでした。」
「...あの時は仲間と戦う余裕なかったからね。」
「楽しみです、ずっと見たかったあなたの力が。」
「...ごめん、それは少し待って。」
「え?」
エキーさんは私から離れる。
「エキーさん...?」
「ルザーナちゃん、私決めた。コソコソ戦うのはやめようって。」
「!」
するとエキーさんはなんらかの術式が刻まれた小さな水晶玉を取り出した。
ーーーーー
「やばい、間に合え!」
『本当に悪い、マジで起きるのが遅かったわ。...いや、お前らが先に行けば良かったんじゃねぇのか!?』
「焦ってたんだよ!!」
「あの観覧席は魔法の使用禁止ですから転移出来ないのが痛いですね!!特に今は国家重要人物揃ってますから尚更です!!」
特別観覧席に向かって疾走する私達。
第一回戦後、最も近かった医務室を頼ったけど、あそこは特別観覧席からは割と距離があったのだ。
やばいやばい走れ、間に合ってぇー!!
ザザッ...ザザッ...
「...?なんの音だ?」
「発声術式の掠れた音...ですかね?」
『あん...?司会の回線とは違うぜこれ、誰のだ?』
微かに聞こえる呼吸音。
「皆さん、お伝えする事があります。」
「!?...誰の声?」
「...この声...どこかで。」
『奇遇だな、俺もだ。』
エキーが使用しているのは拡声術式の刻まれた水晶。
司会者の使用する拡声術式が流れる回線に乗り、会場の発声術式を通じてエキーの声が流れている。
「私のエキーという名前は...偽名です。」
「!?」
「私はこの大会で戦いたい...ずっと会いたかったある人の成長をこの手で確かめるために正体を隠し出場をしました。なにせ大切な仲間なので変に情が入ってしまえば強さに支障が出てしまうと思ってしまったからです。でも...本大会に出て、その子の戦いを見てその考えが変わりました。この本大会...ちゃんと自分のありのままで戦うべきだと。自分の勝手な理由で闘王闘技に情けない歴史を塗り込むべきではない、強く確信しました。」
「エキーさん...。」
「...まさか...。」
「この本大会は正体を隠しません。私は私の全てを持って戦う事を...ここに誓います!」
エキーはローブを勢いよく外した。
「やっと...ついた...。」
『...おい、マジか!』
「...あ..!?」
狐の耳、
狐の尻尾、
「だから待っていなよ、キジちゃん。」
「...!!?」
キジコに指をさす。
「私が勝って、キジちゃんと全力で戦うっすよ!」
仮面を投げ捨てた。
「あ...ああ..。」
私は膝から崩れ落ち....なかった。
自然と笑顔になっていた。
だってまた会おうって約束をしていたんだ。
いつか絶対会えると信じていたから。
「...おかえり!」
「私はユイット=ケイル・イーク・ストルヤーナ!」
戦闘体勢に入る。
「またの名を...ケイっす!」