第149話 闘う士の心
『お前...相当強いな..?面白ぇ、殺しがいがありそうだ。』
ああ、この感覚だ。
ただまともな意識も一定の強さも命も感じないゴミ掃除だけでは感じない、とにかく俺の本能が叫ぶ、コイツを殺せ、殴れと。
手が震えるぜ...今にも動きそうなこの手を抑えるのに必死だからよぉ!
「ふん、生憎簡単に殺される様な生き方はしていない。貴様こそ骨のあるヤツだといいんだがな!」
『へ、なら安心しろ。俺は強えからなあっ!!』
俺は持つ手を惜しみなく出すようにレーザーを放ち横に薙ぐ。
そうだ、そうだよ。
これが本物の戦い、命を賭けたバトルって奴だよなぁ。俺にとって生まれて初めて、最悪最初で最後の決戦、あああ...俺は運がいい。あんな奴の研究所では絶対に味わえなかったこの満たされてゆく何か、これが...ああこれが俺の心の叫び、俺の欲...!!
俺は持ってるこだわりを捨て、帝王に全力で戦いを挑む。
「セレネスラッシュ!!」
『ぬお!?危ねぇな!!』
光の斬撃が俺の手を掠めた。
...痛ぇな...ああこれが痛み。
『...手が掠ったか。』
「惜しいな、腹部を狙ったつもりだったがな。」
『次はそうはいかねえぞ!!』
すると帝王は力を増させやがった。
『なんだ?それ。』
「纏・光陰龍、古き時代より代々帝王に伝承されし力だ。国の民を守るためいざ参る!!」
『面白え!!魔身強化ァ!!』
燃えるに決まってるだろ。
こんなすげぇ力を持っていたのだぞ!?
よくわからねぇけど、ふと思いついた言葉を俺は叫んだ。すると力が溢れ始める。
前にもあったなぁ、知らねぇ知識が頭に思い浮かぶの。
いやそんな事はどうでもいい、
まだ...殴りたりねぇぞ!!
ーーーーー
「帝王様!!」
「!、ゼオ達か!!今は取り込み中だ!!」
戦ってたら何か来やがった。
誰だアイツら?...ああ、帝王の部下か。
戦いを止めやがって...まぁいいか。
『焦るな、あいつらを人質も不意打ちもしねぇよ。俺様は今この戦いが楽しいんだからな。』
「ほう..邪精霊がその様な事を言うとは意外だな。」
『よくわからねぇんだけどよ、この体になってから誰かと戦うのが楽しくてよぉ...。今も疼くんだわ...。』
...そういやなんでだ?
それになぜさっき俺はまぁいいかって思ったんだ、戦いを止められたのだぞ?
誰だって大好きな事に夢中でしてたのに妨げられたら怒るだろうに...いや違う。
そうだ...さっきも思ったじゃねぇか。
俺は満たされ始めているんだ。
ずっと空っぽだった、溜まることのない欲が満たされ始めているんだ。
『あは..はは.は..!お前...本当面白い!いつも俺が戦わされてきたのはすぐに壊れる人形ばかりだった!!でもお前は違う、全く壊れる気がしねぇ。そうだよ...こう言うやつと俺は戦いたかったんだ!!!』
俺の内側からさらなる力が溢れ、抑えるのが大変なくらいに衝動が湧く。
「ならば我もその闘志に応えて見せようぞ!!」
闘志...ああ、これが...闘志というやつか!!!
俺の...俺という存在の...心!!!
俺は今、この時を楽しんでいる、心から!!!
俺は魔力を収束させる。
『テメェとの闘い...今までで一番楽しかった!礼にしては雑だが全てを込めた一撃を食らわせてやる!!』
「来い!!」
俺は俺の意志で、闘志で戦えた事をずっと...誇りに思っているぞ、帝王。
『アーダテルク・フィストオオオ!!!』
「スパークル・ルナ・ブラストオオオ!!!」
ーーーーー
...帝王は生きている。
...俺も生きている。
どうやら技が互角過ぎたが故に相殺で終わったようだった。
...あーあ、予想外だ。
消化不良ってやつか、残念だ。
また戦いてぇ。
『あーあ、あれだけ魔力ぶち込んだのにこれじゃ消化不良だわ。わりーけど今日の所は終わり、また今度にしようや。』
「ああ...あの化け物をなんとかすれば明日以降の世界はあるだろうがな。」
ああそうだ、ディストルがいる事自体相当ヤベェ自体じゃねぇか。
俺は耐性が持ってるからアイツと戦えるだろうが、普通はそんな簡単に威圧の耐性は得られない。
威圧と恐怖心がずば抜けて高いあの怪物が帝国の外へ行けばマジに世界の危機じゃねぇか。
...俺の求める明日を望むなら、奴をぶっ飛ばすしかないな。
「お前ら、これを。」
「...!?これはアルティマポーション!?」
「これをそこの[闘士]に飲ませろ。」
「闘士...!?まさか、邪精霊に!?」
「!?」
帝王が部下になんか薬品持たせやがった。
どうやら俺に飲ませるらしい。
『...なんのつもりだ?』
「詫びだ、お前はそのポーションですぐ回復出来るだろうが我は時間がかかる。それに消化不良でムカムカしているならあの化け物をサンドバックにすりゃあ良い。」
『...ま、いいか。もらうぜ。』
俺は精霊としての体を実体化させそれを飲んだ。
...体力と魔力が一気に回復した。
なるほど、これでディストルと戦えって事ね。
いいだろう、ぶっ飛ばしてくるよ。
ーーーーーーーーーー
...こうして今の俺という存在は生まれた。
感謝しねぇといけない奴がいるってのにそんな状況はそうすぐに来るものではなかった。
戦いが終わるもロティアートにより国の幹部や住人が何人も死んだらしい。
国は王だけでなりたつものではないので、事実上帝国は崩壊となった。
それで帝王は国を立て直すためにしばらく忙しくなる。
共にディストルと戦ったあの猫...キジコは人の姿になったと思えば眠り始め、未だ目覚めた報告は聞いていない。
その間俺はゼオという奴から、[リーデン]という名前をもらった。
まぁあった方がわかりやすいよな。
俺は俺の心が生まれた恩を返すためにこの帝国で帝王らのために動く事を決めた。
大体1ヶ月経った頃だ。
『お前...なぜ効いていない!?』
『あ?』
現れたのはぬいぐるみ...依代を抱えたレリィという精霊。
『外が暗いから精霊魔力由来の光を灯していたのに、その光を浴びてなぜお前...無傷なんだ!?邪精霊なんだろ!?』
『...は?』
この時の俺は知らなかった。
俺自身はすでに邪精霊でなかった事に。
次回でリーデンの過去話は最後です。