第143話 開幕前のお話
闘王闘技会場、大広間。
「まともに話す事は久しいな、キジコよ。」
「お元気そうで何よりです、サジェス王。」
私達8人は開幕までの時間の暇を潰そうと歩いていると大広間にたどり着く。だがなんとそこにいたのはサジェス王を含めた各国のトップ。
「キジコ様あああああよ゛がっだぁあああ起゛ぎでる゛うう!!」
「ヴェア、キジコ様困ってるよ。」
「落ち着いてヴェアートさん、シルトさんもお久しぶりです。」
この二人は聖勇者シルトと魔勇者ヴェアート。私が異世界に来て1週間あるかないかの時に出会った人である。だがその日ですぐゼオ達と合流して別れたから、事実上こうやって話すのは1年と数ヶ月ぶりなのだ。ちなみに彼らはこの世界に来て初めて出会った人間である。
(※裏切りジジイは敵なので除外)
そんなわけで少ししか会っていなかったものの懐かしさに浸っていると...
「...貴殿がキジコ様か。」
会議で見た威厳のある姿、何者にも怯まない姿勢をするのはムート王国の女王、そのまんまムート女王だ。
「私はレンシア・ムート。ムート王国で女王を務める者だ。」
「キジコです、お初にお目にかかります。」
すると...
ムート女王はサジェス帝王と共に、私へ頭を下げたのだ。
「...!!」
「我々の勝手な都合をきっかけに貴殿を数多の危機に晒した事を国の代表者として深く謝罪します。」
「この謝罪でそなたの全てに償いは出来ない。今の我々はそなたからどんな罰が来ようとも絶対に受け入れなければならない。」
「え...ちょ...!」
「覚悟は出来ています、慈悲など要りませぬ!!」
「「「待ったーーーー!!!」」」
「「!!」」
「待ってください何考えてるんですか!?」
「キジコ様は御二方の命は取らなくとも慈悲を乞わない姿勢はまずいです!!次期王候補がまだいないのに何を!!」
「...そうだな、すまない。大変我儘な話ではあるが命は残してもらいたい。」
「また迷惑をかけてしまった、申し訳ない。」
「ああ...いえ..。」
「その上でどうか、罰を決めてくださらないか。」
「待って待って、命は今後も取るつもりとかないからさ...。」
だからといって2人の罪悪感を放っておくわけにもいかない。何か案は....お?
「決めた。」
「...!」
「まずは教えてほしい。この大会に出場した選手はさ、各国でも選りすぐりの戦士だったりするのかな。」
「はい、当然彼らよりも強い者はおりますが出場した者達は国でも上の実力となります。」
「闘王闘技終了後、その人達をもとに各国の平均戦力をそれぞれの国の王と話し合って割り出してほしい。後々重要な案件でもあり放っておけば[奴ら]への対抗が思うように出来ない可能性がある。」
「...例の正体不明の研究所ですか。」
「うん、少なくとも今回出場したムート王国の人達では以前インヴァシオン領域に潜り込んでいた研究員...改造人間には負ける。もしあれが量産されたらと思うと弱い国は真っ先に襲撃される可能性が高い、奴らは実験材料もデータも欲しがるからね。」
「...!」
「何より...当時私とニコでも全く歯が立たなかったプロト10が出張ってくると相当上の次元の強さの存在を呼ばなくてはいけない、今の私達でも勝てるか怪しいし、さらなる強化改造を施されていたら絶望的だ。」
「...なるほど。」
「だからこそ今回の一部分としか言えない情報でも各国と共有する必要がある。奴らの目的は詳しくはわからないけど脅威なのは変わりない。...どうかご協力をお願いします、ムート女王様、サジェス帝王様。」
「...そう言われると罰なのか怪しいな。勿論引き受けよう。」
「我々は今出来る事を早急に致しましょう。シルト、ヴェアートさん、我々は大会終了後の重要会議のために情報を集めますので各国の王にこの事を伝えてください。」
「はっ!」
「私も参加する権利があるのですよね、一国の代表としてその件は重要だ。」
「勿論です、ニコ様にもご負担を重ねてしまう事になりますが我々からはどうかご出席を願いたい程です。」
「ならもう一つ、キジコも参加するの?」
「うん、奴らにロティアートや支部破壊の件で目の敵にされた身だしね。」
「であれば決まりだ。詳しい日時は改めて言おう。」
そういう感じでこの件は一旦おしまい。
ーーーーー
話を終え雑談含め時間を潰していると...。
「無事に本大会へ出場をしたな、キジコ。」
「!」
後ろから知ってる声、
「やっほーキジコちゃん!」
「本大会進出おめでとう!」
ヴァルケオ、マウリ、テューニの姿があったのだ。
「皆来たの!」
「そりゃそうさ、家族の晴れ舞台を見にこない訳がないさ。」
「ワシもいるぞクロマー!」
「へ?...あ、椿姫様!」
「あれ!?随分久しぶりじゃないのツバキ!」
以前リーツの近くの山の中にあった神社にいた守護獣、椿姫もやってきた。彼女はクロマのお祖母さんと昔からの知り合いで、彼女曰くクロマはそのお祖母さんの若い頃と似ているらしい。
「アイツの孫だから応援に来てみれば...お主らもおるんか。」
「そりゃそうよ、この子は私達の大っ事な家族なんだから!」
黒狐と狐の衝突。
「エレムスさんとイグニールさんは来ないのかな?」
「彼らはドゥーカルンの映像水晶(この世界のテレビ)で見るってさ。」
「うぐ、やっぱりか。」
ぷれっしゃーがかかります。
「なーんじゃ、あの2人にも好かれておるのか。大昔と比べワシらの仲間は大きく減ったのというのにまだまだしぶとく生きとるもんじゃの。」
「まぁな。」
そういえば聞いたことある、ヴァルケオ達のような存在こと聖獣は昔はもっといたらしいのだが、今はほとんどいないらしい。
その話を当時していたヴァルケオ達はどこか寂しそうな顔をしていた。
「なんだかんだ今になって、我が子のように可愛らしく期待してしまう子が出来てしまったんだ、死ぬ気は一切ない。」
「...。(照)」
「ほぉー、お主相当期待されているじゃないか!」
またぷれっしゃーかけないで。
ざわ..ざわ...
「...!」
「どうやらそろそろ始まるらしいな。」
「それでは選手の皆様、こちらへ。」
早いな、ついに開幕だ。
この日のために皆努力したんだ、雑な結果なんか残すつもりもないし誰かに残させる気も無い。
「行こうか!」
皆、やる気に満ちた顔になる。(仮面とヘルメ《リーデン》は分からん)
「開幕式の後は私とリーデンの戦いだ。リーデン、容赦なく行くからお前もその気で来いよ!」
『当たり前だ、言わせるな当然の事を。』
思う存分戦う時は来た。