第130話 泣いた狼
ニコとキジコが退出した桃花の部屋。
「ニコさん...。」
「キジコちゃんに任せましょ。今出来る事は尽くしたんや、あとはあの子の王子様がなんとかしてくれるよ。」
「王子様...?」
桜華の館、屋上
夕日に染まる空、ちょっと冷たい風が吹く。
壁にもたれるニコ、
町を眺めるキジコ。
「明日はいい天気らしい、私の故郷では夕日の次の日は晴れと言われている。」
「...そうか。」
ニコに連れ出され屋上へやって来た私。
「...話したい事があるからここに連れて来たんだろ?顔がまた暗くなってるぞ。」
「...うん。」
「秘めたる思いってのは隠すままよりぶちまけた方が案外スッキリするもんだ、私はちゃんと聞いてやるしどんと来い。」
「...そうだね、うん。いっぱい話すから立ちくらみ覚悟してよね。」
「そうこなくては。」
ーーーーー
「私は神獣になりつつある自分自身がとても怖いです。ジンやハルお姉ちゃん、町の皆、キジコ達を傷つけてしまうのが怖いです。この力は前の後ろも何もかもが見えなくなるから、目を覚ますと血が流れているから。今までは依頼書に書かれるような魔物の死体だったけど、ついに今日親友を傷つけました。今こうやって立ってるけど本当は今すぐにでも蹲りたい、大声で泣きたいです。
急だけど親友...あなたに私は憧れています。自由を愛し進む心、興味ある事をとにかくやってみたい強欲さ、そして己の生き方に素直な精神にすごく憧れています。さらに言えば...かっこいい、私にとってヒーローなのです。私なんかのために走り戦い救ってくれたその姿がかっこいい。
私と大違いです、皆を守るために戦っているのに気づけば救われ守られる側。自分よりも誰かのために生き、勝手に両親の意思を引き継ぎ、自分の事を後回しにしていた自分が凄く情けない。この場に布団があったら今すぐ潜ってずっと丸まっていたいくらい。
そんな私は貴方の事が好きです。親友として、ライバルとして、仲間として、個人として、憧れとして。私にとって初めて真っ直ぐ向き合える人、私に初めて真正面から向き合ってくれる人。
ジンもお姉ちゃんも親しく接してくれるけど...心音でわかる、ほんの少しだけど抵抗感がある。これでいいのか、悪く思われてないかっていう感情じゃないかって思うの。
...けどキジコはね、真っ直ぐなの。
私の立場や血筋を何も気にせず、純粋に友達として見てくれるその目と心が、私は好きなの。
今歩いている道は私の選んだ道であるかわかりません。同時に、私が選び歩きたい道がわかりません。ずっと両親と皆のために生きる事が私の選んだ道だと言い聞かせていたけどやっぱり違った。そして気づけばもう、後戻りも先の道もない人生になっていた。
[今の私]にいつまでいられるかわかりません。
わかるのはもう長くない事、ただそれだけ。
だからキジコ、
もし決勝戦で会えたらさ、
私の純粋な姿を、努力を、全てを見て。
私という存在をずっと見てて。」
...ニコは深いため息を吐いた。言うこと言いましたってやつかな。
...私の番、言うこと言ってやります。
「すぅ...。」
「?」
「馬っ鹿野郎!!!!!!」
「!!?」
「何が泣きたいだ何が大きく違うだ何がわからないだ何がずっと見てろだ!!!黙って聞いてりゃ自分の事ばかり考えやがって、そこだけ純粋になってどうすんだよ!!!言ってやるよ、私は隠すままより色々ぶちまけろって言ったのになんだ!大泣きしたいだの布団に蹲りたいだの言ってるくせに素振りが何もないじゃねぇか!!!友達を傷つけたくない?誰だって普通はそうだ!!んで知らん間に人は誰か傷つけるもんだ!!傷つけたくないならまずは傷つける覚悟を持てよ!!!お前は守られる側じゃねぇ、ちゃんと守る側だ!!!自分自身の強さに自信持て!!そしてなんだよ道がわからないって!!!私もだよ!!生きてりゃ人生迷子になるもんだ普通!!!わからんならまわりにいる聞け!!!お前の周りは道標だらけだろうがもっと周り見ろ!!!」
「!!!」
「それに加えてなんだよ私を見てだのなんだの!!!当たり前だお前は危なっかしいしそもそも対戦相手、加えて私は家族に応援されてるからお前だけ見てるとは限らねぇよ!!!それどころか決勝戦で戦うだと!?考えてもみりゃ予選かどっかでグループ被るかもしれないってのに今決めんじゃねぇよ!!気づかなかった鈍い私も私だけどよ!!!」
「...。」
「さらにどういうこった!!!!私が好きだと!!?嬉しいよ大切にしてやるよ抱いて撫でてやるよでも今は違うよなぁ!!!?今のあんたの事は嫌いだよ私は!!!!全然素直じゃねぇじゃん!!!そして私やジン達の存在について勝手に決めつけるな!!!私もジン達全く真っ直ぐじゃねぇよ!!!なんでかってか!?あんたが大切だからだよ!!色んな気持ちで心配してるんだから心純粋なわけねぇよ!!というかあんた狼だろ、そういうの感じ取るんだったらハルさんの方がずっと上手いんだから無理した感想言うんじゃねぇ!!!」
「...私が...こんな、私が!?」
「そうだよ!!実際あんた大好きな肉いっぱい食えただろ、匂いでわかるぞ羨ましい!!!!それはつまりあんたの事をとにかくとにかく大切で愛してる証拠じゃねぇか!!!自分一人の推測で完結するな!!!」
ニコはへたり込むと同時に涙が溢れていた。
「...ニコは自分で重く考えてばかりだ。何かあるんだったらちゃんと頼ってくれよ。ちゃんとのってやるし聞いてやるし動いてやる。んでちゃんと助けてやる。」
「抱かせて。」
「いいよ。」
「...泣いてもいい?」
「思う存分。」
それからニコはずっと泣いた。
私の体も強く抱きしめる、今までずっと悩みを溜め込んでいた分を吐き出すように、強く抱き大声で泣いた。
...思えばニコ、二人称が貴方とかになってたな。初めの頃は君だったのに...本当隠してばっかりだな、お前は。
お前のヒーローとして助けてやるよ、全力で。
ーーーーーーーーーー
「ご主人様...あ。」
「しー。」
ホテルの部屋、ベッドに座る私と泣き疲れて静かに眠るニコ。
「(後で元の部屋に送るからさ、今は...ね?)」
「(了解です!)」
それにしても、ずっと大丈夫がってたボス狼の中身はただの女の子だったな。私と出会ってなかったらきっと壊れていただろう。
私も言うこと言ってスッキリした、だから全力でぶつかってこい。
今の私とお前なら神獣の力にだって勝てるからな、見せてやれお前が神獣パワーなんかの言いなりにならないってな!