第129話 対応/暴走
家族とサンドイッチいただいていた時にその念話はかかる。
「(お前ら逃げろ!!!)」
実はニコ達と同じホテルに泊まっていた事が判明。
ニコは近頃神獣の力で暴走を繰り返し、誰かを傷つけてしまわないか精神が不安定になっており、頼りたいけど一番頼ってはいけないであろう私が今ホテルにいる事がバレたらダメだった。
けどバレた。
私達は慌てて完食、急いで転移で逃げようとした....時だった。
「キジコ...!」
「...まずった。」
見つかっちまった。
「あ...ニコ...。」
「キジコ...いたの...!?」
やばい、ニコから急速に魔力が溢れ始めてるのを感じる。なんて膨大さだよ、すでにルザーナ超えてる。おまけにこれ...もう肉体の制御が出来なくなり始めてる。
念のため聞いておこう。
「ニコ...指動かせる?」
「んん...んん...。」
だがニコは横に首を振る、そしてすぐ首の動きも鈍くなり始める。
「ダメ...逃げて、逃げて!!」
「クロマ!!!」
「はい!!」
飛びかかるニコ、急ぎクロマに転移を頼む。
そして飛んだ先は、ニコと初めて会ったあの何もない平野。
急ぎだったので着地失敗する私。
「イデッ...なんとか間に合ったな。」
「気をしっかり、ニコさん!!」
ニコの髪はプラチナ色に染まり始めている。
「いや...嫌ぁ...!!」
「今助けてやる...ニコ!!」
「支援します、師匠!」
統合スキル関連全起動、強化スキル関連出力上昇、レーダー機能フル稼働、クロマの支援スキル数種、空間収納庫から強化アイテム使用!
出来ればこれで多少埋め合わせているといいな。
「来いニコ。」
「ごめん...キジコ。」
秒もない超速度で目の前に現れるニコ。
これは早速まずい!
「がぁ!!」
「師匠!!」
後ろへノックバック、追い討ちに拳が迫る。
「疾風脚、瞬速撃!」
高速移動スキルと高速攻撃スキルの併用でニコの攻撃をいなす事が出来た、あれだけバフ重ねてもこれか...いや、今はまだ幸運だ。
「...!!」
次は蹴り、レーダー機能で避ける...が。
「...!?気配と動きが...!」
「師匠!その気配はダミーです!!」
勘違いだ、蹴りが来ると感じていたが...その気配はただの威圧感そのもの。かなり濃い気配と威圧、攻撃意思が混ざり込む事によってあたかも本物の攻撃が来ると察知してしまったのだ。本命の攻撃は避けた瞬間の隙...
「しゃがんで!!」
「うわ!?」
ニコが振り絞ったような声で叫ぶ。
それに応じてなんとか避ける。
「ニコ、今どこまで聞こえる、どこまで喋れる?」
「….。」
「チッ、今の声は相当な気力を振り絞ったものらしい...。」
まずい、ニコの暴走が予想以上の速さで進んでいる。はっきり言って私じゃ止められない。
でも念話をする暇もない、
「クロマ!!誰でもいい、この事態の連絡を!!」
「はい!!」
「...。」
「あ゛ぁッ!?」
ある程度埋め合わせたのにもう離され始めている。重力比例攻撃を使って今この場で助けるか?
...他にまともに止められる手段は無い。やるしかない!
「来い!」
「...。」
ニコは真っ直ぐ襲い掛かる、顔面目掛けてその拳が迫る。
「はああ!!」
「...!!?」
へへ、驚いただろ!
こっちも驚いてる、まさか本当に止められると思ってもいなかったし魔力もめっちゃ持ってかれた。
「どっっっせええええええい!!!!」
あとはこっちのもん、腕を掴み投げ技で思いっきり地面に叩きつけた。
「...ァッ!?」
「...どうだ!!!」
するとプラチナ色の髪は元の朱色に戻り、溢れ出す魔力も鎮まったのだ。
ーーーーー
「...キジコ?」
「はぁ...はぁ...目覚めた?」
「...うん。」
良かった、見た感じの意識は正常らしい。
「待ってろ、います治療魔法かけるよ。」
「うん。」
高治療...よし、見る限りの傷は消えた。
「この指、何本に見える?」
「3本。」
「よし、念のため確認したけど意識は特に問題ないみたいだな。体動かせるか?」
「うん、よいしょ....!?」
それは一瞬だった。
ニコは気づいた、右腕が動かなかった事を。
仰向けの体を起こしかけた瞬間、悪あがきという奴なのかその右腕の拳は私の顔頭を狙い襲う。
パシッ
「間に合った...と言えるかな?」
「...間に合ってるよ。お陰でげんこつくらわず済んだのだから、朱斗。」
「すげぇな、半覚醒状態の神獣相手に勝つとはな。」
「それは勝ちかどうか言えないね蒼鈴。ニコとは決勝戦で決着つけたいし、今回起きた事は想定外トラブルだ。勝負じゃない。」
「でも抑え込めたのは事実だ。」
クロマの念話に応じて駆けつけた朱斗と蒼鈴。
「失礼、待ってろ。」
朱斗は指をニコのおでこにさす。
するとニコの体内魔力の不安定さが治り始め、暴風が微風になるようななんというか...より平穏となった。
「あくまで応急処置だがしばらくは大丈夫なはずだ。」
「...ごめんなさい。」
「貴方が気にする事じゃない、今起きている事は過去例にない現象である上に貴方の意思と関係なく発生した。」
「そもそも神獣候補同士が仲良くする事態例にないですからね、一度母上の所に行きましょう。お前らも来てくれ。」
「うん。」
ーーーーーーーーーー
「...ふむ。やはり神獣の力がえらく荒れてるね。朱斗と蒼鈴が治めたからしばらくは大丈夫やろうけど、時間が経てばまた暴れるやろうね。」
転移で桜華の館へ訪れた私達。
急ぎ桃花様の所へ案内させてもらった。
「...。」
「母上、ニコ様は一体。」
「わからん、神獣の力が原因の一旦ってのはわかるけどその深いところ、真なる理由、原因が見えない。ふーむ、今回暴れた理由の引き金はキジコちゃんやけど...それ以外で覚醒した時ってどんなんやった?何かしら共通点あればなぁ。」
「...それまではいつも目覚めたら辺り一面、魔物の死体と血溜まりの一帯でした。」
「おおう...なんとホラーな。」
「ふむ...。」
「その際はジン曰く依頼書に載っていた狩猟対象の魔物だと聞いていました。」
「なるほど...神獣の力とそれが何か関係は...。」
「母上、それに一つ心辺りが。」
「?」
「神獣の力は正義の力。昔からそう言われてたりするが、そもそも正義とは己が正しいと思って進む道の事を指す。もしかすればニコ様がある時見た依頼書の内容から、被害が拡大してはならないという気持ちに反応した可能性がございます。」
「...待ってよ、それじゃあ私はキジコを倒すべき存在だって認識になっちゃうじゃない!私はキジコが好きなの!殺したくない!!」
「辛い気持ちはわかります、しかし今は闘王闘技の最中。勝つべき存在としての深層意識が反応した可能性がございます。」
「...!!」
ニコの首は下を向く。
「あくまで推測です、気にするかは貴方次第だ。」
「蒼鈴。」
「...失礼しました。」
ニコはグッと私の袖を掴む。
その力は強く、悲しそうで、辛そうな意思があった。
「...来て。」
「...うん。」
ニコと私は部屋を出た。