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猫に転生しても私は多趣味!  作者: 亜土しゅうや
波乱のマイライフ編
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第119話 遠ざかる者

波乱のマイライフ編はここで終わりとなります。

 狼は迷っていた、今の自分というあり方を。

 長年の目的を果たし進むべき道がわからなくなってしまった。


 かつてその身を静かに焦がした怒りは消え、両親から引き継いだ意思は少しずつ形を変えていた。


 幼き頃から皆のために動き、長い時間をかけ両親の意思を実現しようと決めていた。

 しかし時が経ち、狼は友を経た。

 友は狼を認めた。

 でも友は着いて来なかった。

 なぜなら友には己の意思があったから。

 その時から、狼の心のどこかに迷いが生まれた。


 自分の生き方はこれでいいのか。

 本当に私の意思なのか。

 今の運命を辿っていなければどんな生き方をしていたか。

 狼は両親の意思を引き継ぎ、叶えてあげる事こそが自分の意思だと考えていた。

 でもそれは本当に私自身の意思なのだろうか。

 だからといってこの意思を捨てたくない。

 両親を忘れたくない。


 あの子はいいな。

 運命を振り回されても自分のやりたい事をしている。

 自分の思うがままの人生を歩んでいる。

 真に心を分かり合える仲間を持っている。


 あの子のようになれば私も何か見つけられるかな。

 あの子のような生き方もしてみたいな。

 あの子に近づきたいな。

 あの子と友達になりたい。

 あの子と一緒にいたい。


 でも私はあの子じゃない。


 今の私があの子を目指してもこの意思を捨てられるわけじゃない。

 それでも私はあの子が羨ましい。

 あの子といる時間が楽しい。

 でも手が届かない。

 どれだけ手を伸ばしても。


 あの子の心は広い町だった。

 あの子の心は広い世界だった。


 あの子は私と違った。


 私は力に選ばれた。

 あの子は力に選ばれなかった。


 選ばれた私は立っていた。

 選ばれなかったあの子は座っていた。


 私はもっと遠ざかった。

 あの子は自由になった。


 私は怖くなった。

 

 私に過ぎた力。

 大切な誰かを傷つけてしまう力。

 大切な何かを失う力。

 

 本当にこれは私なの?

 本当にこれが私の選んだ道なの?

 私が歩んだ未来なの...?


 私はあの子のように生きる事は出来ない。

 目指しても届かない。

 もうあの子は遠い。

 

 あの子は私に手を伸ばしている。

 でもその手はもう掴めない。

 もうダメなんだ。

 あの子が刻んでくれた言葉はもう届かない。


 お願い。

 私はきっと近いうちに私じゃなくなる。

 もう今の私とは会えない。


 だから最後に私はあなたと戦いたい。

 純粋に全てをぶつけたい。

 今までの全てを。

 私の努力を見てほしい。

 私の姿を見てほしい。

 私の全てを受け止めて。

 私だけを見て。

 私が私じゃなくなるその時まで。


 


 ありのままの私を見て。



ーーーーーーーーーー


 会議は終わり、リーツに戻ったその日の夜、私は館の屋根の上でただずっと星を見ていた。


 あの後からニコが喋ることも、顔を上げる事も無かった。


 猫の体だからだろうか、ニコの何かを感じとった。それは今にも壊れそうな何か、まるで近いうちに消えてしまうような。


 考えているうちに数時間、私はずっとここにいた。

 

 ...やっぱり何か引っかかる何かがあったのだろう。ひどい友達だな...私って。もっと気づくべき事があっただろうに。

 ...本当、前世からどこか鈍い所は変わらないよな、私って。


 今日の星は一段と胸に響かない。

 

 

 「何してるんだ?」

 「んぁ...?」


 現れたのはヴァルケオだった。


 「朱斗から聞いたぞ。1年以上ぶりに会う奴らと対して話すこともなく帰ってきたそうじゃないか。」

 「まぁね、色々あってさ。」

 「...そうか。」


 ヴァルケオも仰向けに寝転がる。


 「...こうやって星空を一緒に眺めたのは久しぶりだな。」

 「うん、猫の頃も見ていたけどこの世界も夜空は綺麗だよ。」

 「あの時はマウリがお前が冷えるといけないからってあのでかい尻尾でお前を包んでいたな。」 

 「夜風は冷たいけど今は暑い時期だからあれは困るな、はは。」

 「だな!」


 ...リーツに帰ってきてから初めて笑った気がする。


 「失礼ね、私のこの尻尾はいつだってキジコちゃんを癒せるのよ!」

 「マウリ、この時間には近所迷惑だよ...。」

 「お前らも来たのか。」

 「家族を放っておくわけには行かないでしょ?」

 「そうだな、...にしても今日は特に綺麗に星が見えるな。」

 「森と違ってここならゆったり見ることも出来るからね。」


 マウリ姉とテュー兄も寝始めた。


 「...マウリ姉とテュー兄もこの夜空は好きなの?」

 「勿論、今も昔も僕らはこの星空が好きだよ。」

 「懐かしいわね。たまにイグニールが近くで食べ物食べる音が鬱陶しいのも覚えてるわ。」


 ヴァルケオ達はニコの事は触れず、ただ思い出話をしてくれた。

 気づけば私は笑っていた、星空がより綺麗に見えたよ。


 ...そうだよね。私まで落ち込んでちゃ今度は皆んなに迷惑かけるだけだ。

 ニコだって私にしか出来ない事があってあの事を言ったんだ、ちゃんと答えて上げなくちゃな。


 「...あ?」

 「...。」

 「寝ちゃったね、キジコ。」

 「ふふっ。」


 マウリは眠ったキジコを尻尾で優しく包む。


 「私達は大丈夫だけど風邪を引いちゃうわよ、キジコちゃん。」

 「寝顔が可愛いのは変わらないね。」

 「...そうだな。」

 「...おやすみ、キジコちゃん。」



ーーーーーーーーーー


 特に悲しい夢も見る事はなく、


 なんなら楽しい夢も見なかった。

 

 ただぐっすり眠れた。


 薄明るい空。


 東の方角から見える朝日。


 フワッフワの尻尾に包まれた私。


 「...暖かい。」


 ついギュッとしてしまう。


 「ふふっ、おはようキジコちゃん。」

 「...おはよう、マウリ姉。」

 「起きたかい?今日はいい天気になりそうだよ。」

 「よく眠れたか?」

 「うん。テュー兄もヴァルケオもおはよ。」


 冷たい朝風が来ない。

 どうやら透明な結界が張ってあるようだ、ずっと一緒に居てくれたようだ。


 「キジコ、レギスの森に行かないか?」

 「へ?...そういえばずっと行ってないというか、帰っていないもんね。」


 とんだ家出だわこれ。


 「家族として教えたい事もある、今行こう。」

 「え、今!?」

 「朱斗やルザーナ達には言ってある、久しぶりに楽しんで来いってさ。」


 いつの間に...。


 「...わかった。私も行きたい。」

 「決まりだな、マウリ。」

 「任せて!」

 「場所は神域だよ、座標間違えないでね。」


 

 待ってろよニコ。

 お前の求めに全力で応えてやるから。

次話から新章に入ります。

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