第115話 人の心vs獣の意志(12)
「私と...感じ合って!!!」
...は?
「...えーと...どういう事でしょうか?」
え、なに?
こんなディープな方向に走るような子だったっけ!?いやいやそんな訳がない、ただの聞き手の勘違いだこれは。
ちなみにバノスは調子に乗って笑ってはこちらに見向きもせず建物の上に座っている。
作戦打つなら今しかない。
「神獣候補同士の魔力共有。」
「ま..魔力の...共有?」
「魔力ってのは個人で形が違うものなの。その魔力が他人の中に入り込むと本来はその人の魔力の形へ変換される。しかしその魔力をお互いに流し込み続けるとね、混ざり合った特殊な魔力に変換されるの。その状態になるとお互いの魔力が融合反応で上昇、同時にお互いのスキルや一部の力も共有される、古き時代人間が編み出した秘術。一時的ではあるけど。」
「そ...そんなやつがあったのか...。で、どうすればいいんだ?」
早くも打つ手がない状況だ、ここは頼ろう。
こういう展開はあれだ、明らかに早いけど逆転するやつかもしれない!
「手を握って。」
「ほい、ギュッと。」
顔を近づけるニコ。...え?
コテッ
おでこをくっつけてきたニコ。
鼻息が生暖かい。
「...。」
「はわわ..あ...!これがニコの魔力..!」
顔が真っ赤になってしまった。
だが私の内側に何か入ってくる。
何というか、違う色の何か、絵の具で言うなら黄色に朱色が混じってきたような。
けどヤバい、鼓動が...ドキドキが止まらない。
「...キジコも。」
「あ、ああ...こうか。」
「...うん。」
自分の魔力がニコと混じり合う感覚...というのはよくわからない。ただ混ざっているという感覚がある。
しかし、バノスは違和感に気づく。
「...?なんだ、もうバテたと思ったが急に妙な魔力を発するじゃねぇか。」
バノスは魔法弾をキジコとニコに向けて撃つ。
「させません!!」
そこにクロマが入り込み、魔法弾を雷魔法でかき消す。
「グルルル..!!」
「お前ってもしかしてそんなに強くないのかしら?」
「ああん?」
クロマはバノスに指差す。
「お前自分が一番強いとか言ってるくせに師匠達の魔力が増えた途端なんで攻撃する!?自分に自信ある癖になんだ今のは!!」
「フン、そんな事オレの勝手だ。世の中強い奴は何しても良いんだよ!!」
「はは〜ん、さては怖いんですねぇ〜?」
「...あ?」
「正真正銘の強者はそうやってただに口でずっと強いと言って笑う事はそうありません。ましてや戦いの終わっていないこの戦場で堂々と敵を放っておいて自分にようなんぞ片腹痛し!そんな事が出来るというならよーーっぽど強いのですねえ貴方は!!」
「...そうだ、ああそうだ!!オレは強い!!貴様らよりもずーっとな!!いいだろう、どんな手も使うがいい、どんな作戦も立てるがいい!!オレが負ける事はない、決してな!!」
クロマの安い挑発に乗ったバノス。
お陰で時間が出来た。
サンキュークロマ!!
...
「あれ...!?」
「なん...だ..?」
...なんだこれ..眠気が...?...ダメだ、意識が...。
ーーーーー
...あれ、ここどこ?
...ニコの部屋か?
...ああ、そういやパースで少しニコの部屋見たことあった気がする。一瞬だったけど。
...あれ、なんでそこにいるんだっけ私。
確か...そうだ、ニコと魔力共有してたら眠くなったんだっけ。
そういやニコ、思いを乗せるだとかなんとか言っていたな。
それと関係あるのかな?
それにしても結構広くて綺麗な部屋だな。
勉強机にベッド、日差しの良い窓とカーテン、資料と図鑑の入って本棚。
意外と普通だな。
...あれ、机の上に何か置いてある?
これは...なんだ?
日記というか...作文?
•私は神獣になるか迷っている。なぜなら不安だからだ。私は両親達の思いを引き継ぐためにこの立場にいる、そんな私はある時神獣候補の称号を得た。
神獣の力を持てば私は皆を守れる、多くの民を救える、両親が目指したものを作れる。
だが、私は神獣の力無しに多くを実現し始め、叶い始めた。
思い違いをしていた。
神獣の力に頼らなくても自分の願いは実現できる事。
そしていつか手にするであろう神獣の力は私の想像を絶するほどの力である事。
朱斗と蒼鈴、そして桃花様の力を目の当たりにし、この身で感じたからこそわかる。
私には過ぎた力だ。
その力はきっと民を傷つける。
私が持つべきではない力なんだ。
でもその内結果は訪れる。
選ばれるのは私かキジコ。
その日がやってくるのが怖い。
ベッドで時々疼くまり、涙が出るほど。
それに、
友達を傷つけてしまうかもしれないから。
制御出来る自信もないからだ。
怖いよ。
私はいつかやってくるその日が...
とても怖い。
...この作文はニコの心情そのものなのかな。
そっか...怖かったんだな。
私は以前ニコの方が民を導く者としてふさわしく思ったから、ニコの方が神獣にふさわしいと思った事があった。
でもそれは違った、ニコは神獣になる事を恐れていた。
己には過ぎた力、誰かを傷つけてしまいかねない力。
...押し付けようとした自分が情けない。
...でもねニコ、私も神獣になるの怖いんだ。
覚醒したら今まで通りの日常をわからないからね。
けどね、いざ神獣になったと思うとさ、意外とそうでもない気がするんだ。
神獣には明確な使命があるかもしれないしやばい力だってあるかもしれない...でも私達ならさ、意外とその辺なんとか出来ると思うんだよね。
ニコは神獣の力無しで多くの事を努力し実現したんだ、それに力が不安だっていうなら私がいる。同じく不安な私がね!
どうすればいいか悩むなら、
いつものように構えりゃいいんだよ!
...私はペンを持って空白部分に書く。
“いつものように、どーんと構えりゃ良いんだよ!ニコはいつだってニコなんだから!”
ーーーーー
「...!!」
「これは...!」
一瞬意識を失った二人。
目が覚めると、それは起きた。
混ざり合う魔力の色が統一されてゆく。
攪拌され、ダマ一つない魔力。
すごい、どんどん力が湧き上がってくる!
「な、なんだこの力は!?」
動じるバノス。
「今の私達なら負けない、バノスをぶっ飛ばしてやろう。」
「キジコ...それ私が言いたかった。」
「ごめんごめん。」
煌めくオーラが二人を包み、
激しい闘気が皆の心を震わせる。
その猫は笑っている。
その狼は覚悟を決めた様子だ。
「...すごいな、力が溢れるぞ。それになんというか...ワクワクする。」
「私もだよキジコ。」
これを見て、バノスは後に少し下がる。
「バノス、これが最後だ。」
「私達より強いんだろ?かかってこいよ。」
タイムリミット、10分
本来魔力共有の力が切れるまでの時間だ。
魔力共有による融合反応は結構負担がかかるらしく、時間が切れるとかなりの疲労を伴う。
一説によれば形の違う魔力ほどリスクが大きいそうだ。
「ガルルルァァ...!!!」
バノスの毛が逆立っている。
今のバノスは獣そのものに近く、その反応は近くに危機がある事を示す何よりの証拠。
「さぁ準備は整った、バノス!さっきは弱くて大変申し訳なかったな!10分ちょっとはまともに戦えそうだよ!」
「ようやく仇がとれる、覚悟しやがれっての!」
さぁ、反撃開始だ!!