第113話 人の心vs獣の意志(10)
「おい、どういう事だ!先程の爆発に続き指揮官が次々やられた!」
「現在調査中です!兵によれば突然町各所で爆発が起きた際の混乱に紛れ次々と突然指揮官が血飛沫を上げたと...。」
「な...!?隠密が忍びこんでいるのか...!?」
「おそらくです...。」
「ウガアアアァァァーーーーーー!!!」
「!?」
城中に響く猛獣の雄叫び。
気づけば手、足...それどころか全身が震える。静かに冷や汗が流れて落ちる。
雄叫びの出所は王室。
「グルル...グルルルァァ....!」
「(ガタガタ...。)」
バノス兵の獣人達は震えている。
本能が死の危険を知らせている。
今目の前にいるのは、もはや変わり果て黒いオーラに包まれた「何か」。
「グルル...ア゛ア゛ア゛...!!」
「(ガタガタ...。)」
「...こっちもどうなっているんだ?バノス王の[あの姿]は?」
「あの研究員が最後に来た後からだったな...一体何が...?」
ーーーーーーーーーー
バノス城:1階、大広間
「敵襲だ!!」
「どきやがれえええ!!!」
バノスの城にカチ込んだ私達。城の中は武装した獣人だらけ。厳重体勢とはこの事か。
「はあ!!」
「な、ウダス貴様!!」
「悪いな、もう隠す必要が無くなったからな!」
「があっ!?」
ウダスはもはや気配も決してないし戦い方が暗殺者ではなく騎士のような剣術で戦っている。もしや彼らは元騎士だったりなのかな、部下達もそんな戦い方してるが?
いや今は気にしている場合じゃないな、目指すはバノスの部屋。
「バノスの部屋はどこなの、先生!」
「3階の一番奥だ!」
でもこれではキリがない。
一体どこから湧いて出ているんだ?どこかにスポーンエリアあったりとかじゃないよね?
「ニコ様、キジコ様!ここは我々にお任せを!」
「え!?」
パース兵の皆がバノス兵を抑えた。
待て待て、この数を!?
確かにお前らも複数だけどこれじゃ...
「我々も加勢します。我らの本来の主人のために出来る全力を尽くします!!」
ウダスの部下達がパース兵の加勢に入った。
...長引かせるのは良くない。
「わかった!!だが命は無駄にするな!」
「絶対に生き残れ!!」
バノス軍が騒ぐ中、私達は大広間から階段につながる廊下に向かって走る。
「まずいな...バノス軍を止められたのはいいが仲間が減ったのは痛いな。」
「ああ、だから彼が命を落とす前に事を終わらせよう。」
私達は2階へ突入。
「いたぞ!」
「やっちまえ!!」
うげ、こっちもいっぱい!
剣とか釜とか棍棒、荒くれな奴らがこれでもかと...。
『根槍!!』
「青之脚撃!!」
「スア、ルザーナ!」
2人がいきなり飛び出して敵をぶっ飛ばす。
「雷撃砲!!」
「クロマも!?」
「私達はここに残ります!一刻を争いかねません、早く!!」
うえぇ...しかたない!
「...わかった、でも残るからにはきっちり頼むぞ!!」
「お任せあれ、」
「師匠!!」
「ご主人様!!」
『主人!!』
2階へ突入して早速、私達は協力な味方を3人失った。頼むぞ...!
3階への階段に向かって突っ走る。
バノス兵はルザーナ達が抑えてくれているので敵の数が減った。
残っているのは私、ニコ、ウダスだ。
次残るのであれば私だ。2人にはこの因縁に決着をつけてもらいたいからな。
なら今のうちに魔身強化の出力を上げておこう、すぐに蹴散らして助太刀入れるように...
「キジコ。」
「んあ?どうしたニコ。」
「...キジコは絶対、一緒に来て。」
「え?」
「...匂いでなんとなく感じた、自分も犠牲覚悟で残ろうとしていない?」
「...ほぼ当たりだよ。」
「ダメ、そんなのダメ。キジコだって大切な仲間...。先生以外のみんな残っちゃったけどこれ以上はダメ。一番の友達を危険に晒すのだけは自分の中で最も許せない、だから一緒に来て。」
流石に止められたか。
まぁ戦力を減らすわけにはいかないからね。
考えてみればあの手この手でぶっ飛ばせばいいだけなんだ。
私、多分強いし!
「あそこだ!やれー!!」
「うおおおお!!」
へへっ!!
「猫パンチ!!」
「ニコキック!!」
「はああ!!」
ぶっ飛び壁天井にめり込むバノス兵。
「なら、私も1番の友達を悲しませない全力で協力しよう!」
「...ヒヒッ!!」
「笑顔な所すまないが、階段登るぞ!」
ーーーーーーーーーー
流石にゲームのような迷宮作りにはなっていなかったのですぐ3階にたどり着いた私達。
しかしいざたどりついてみれば驚いた、
「兵が...いない?」
「どういう事だ?」
さっきと変わって、兵が1人もいないのだ。
「...何?この肌がピリつく嫌な気配..?」
「やはり何かが起きているかもね。」
「ニコ、キジコ。...かなりまずい事態になってるかもしれない、行くぞ。」
「ああ。」
「わかりました。」
そうして私達は王室へ入ろうと...したその時だった。
「それ以上は進んではなりません。」
「!?」
「風針!!」
柱の隠れた何者かから風の針が飛んでくる。
「妖炎壁!!」
「...防がれましたか。」
柱の後から現れたのは三つ編みヘアーの男。
その手にはレイピアよりは太い、細めの剣。
その周りには風の魔力が渦巻いている。
「...レダンか。」
「やっぱり裏切りましたね、ウダス。」
「俺はクラル様の部下だ、バノスに忠誠を誓ったことはない。」
「そうですか...まぁ、私ももうバノスに仕える身ではございませんけどね。」
「あん?」
相手が気になる事を言った途端だ。
「ウオオオオ゛オ゛オ゛オ゛ォォォ...!」
「!?」
扉の奥から聞こえる重厚で恐ろしい声。
「...何が起きている、レダン!」
「それは自分の目でたしかめるんですねぇ。...ですが!!」
キィン...!
「レダン!?」
「アレに挑むのであれば先に私を倒してください。でなければあなた方の強さを信用することが出来ません。通りたければ私を倒しなさい。」
細い剣を持ったレダンという男。
そして今の言葉を聞く限り、止める仲間を探しているようだ、多分。
「俺に戦わせてくれ。」
「ほぅ?」
「このキジコとは相討ちで終わった。だから強さは心配ねぇし魔力は温存させておきたい。」
「...まぁいいでしょう。3人一気じゃ正確な計りが出来ませんしね。ではウダス、かかってこい。」
ウダスの姿が消える。
「早速気配を消して来ましたか...そこです。」
ガキィンッ
「チィ!でりゃあ!!」
「うお!?」
ウダスの蹴りが入った。
「...荒々しいですね。」
「実戦に荒々しいも美しさも関係ない!」
ウダスは再び気配を消す。
「...。」
レダンは静かになる。
「フッ...あっさり終わりましたね。そこです。」
ザクッ...
「...あ!?」
なんとレダンが刺したのは...リンゴ。
「これで俺の勝ち。お前結局俺に勝った事無かったな。」
首元にナイフがスレスレにある。
「...本当貴方には敵いません。」
「...先生...今更だけど誰?」
「こいつはレダン、バノス軍にいた頃俺に次ぐ強さだった男だ。結構差はあるけどな!」
「痛い事は言わないでください。」
見た感じ仲が良さそう。
「ウガォォォオオオオ!!!」
「...時間食わせてしまいましたね。これを使ってください。」
レダンは私達にポーションをくれた!
「ついでだ、お前もこい。戦力が足りない。」
「言うと思いましたよ。アレは絶対に止めないといけませんしね。」
「...いいのですか?貴方はインヴァシオンなのでは?」
「私は強くなるのが好きなのであって、バノスには興味もなければ忠誠もペラペラだ。獣の意志で動くのがバノス達なら、私は人の心で強くなりたいだけだ。元々頃合い見て軍を離れる予定だったからこの機会に辞表を提出するとしましょう。」
レダンはこの世界の言葉で辞表と書かれた紙を取り出した。
「...行こう。」
「うん、私...私達の因縁を今ここで...止める!!」
私達は大きな扉を開けた。