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猫に転生しても私は多趣味!  作者: 亜土しゅうや
波乱のマイライフ編
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第109話 人の心vs獣の意志(6)

 森を抜け、待ち伏せしていた暗殺部隊に奇襲を受けるキジコ達。

 暗殺者達はキジコ達の行動を見極めようとしながら襲い掛かるも返り討ちに遭う。

 ...ただ1人除いて。


 そいつはバノス軍暗殺部隊の隊長。

 その強さはレーダーをフル稼働させ、魔身強化の出力を上げたキジコでも苦戦する実力者。

 内秘める魔力はカラミアと並び実戦経験はキジコ達よりもずっと上、生半可な作戦は通じない。


 だがキジコは仮にも覚醒個体の魔物であり、過酷な戦闘訓練を伊達に積んではいない。

 実戦経験は劣っていても学んだ事が役に立っているのか両者未だ決着がついていない。


 果たして勝利を掴むのはどちらなのか?


ーーーーーーーーーー


 ガキィンッ カーン ドカァッ!!


 「でやああ!!」

 「ふんっ、はああ!!」


 激しい戦闘が続く両者。

 キジコは有している技術を出すしかない。

 暗殺隊長はそれに対応しなければならない。


 キジコはスキルの多さが有利な点。

 暗殺隊長は実戦で極めた技術が強み。


 キジコは称号のバッドステータスにより、一定値からスキルが強化できない。

 暗殺隊長はキジコほど多くスキルを持っていない。


 友のために負けられないキジコ。

 ただ任務を遂行する暗殺隊長。


 これらの違いが勝負の行方をどう変えるのか。


 「ペネトレーザ!!」

 「チィッ、影槍かげやり!」


 勝負はまだ続いている。

 私は持てる技術をとにかく出しているが相手は戦闘のプロ、すぐ対応しては反撃してくる。

 生憎私は実戦経験がこの暗殺隊長と比べればペラペラなので隠す技術すらありません。


 「妖炎壁!!」

 「うお!?」


 でも手が通じない訳ではない。

 仮にも私は守護獣達(特にヴァルケオとエレムス教官)に鍛えられた身である以上、簡単にはくたばらない。


 その上、異世界来てからしばらくの期間超ハードな事多かったんだから...


 「遅いぞ!!」

 「そうくると思ったよ!!」

 「何!?ぐあ!!」


 こうやって反撃も出来る。

 知識経験は超重要。うんうん。


 「...若さの割には戦闘知識があるな。どんな生き方してたんだ?」

 「自分の命を狙った悪徳宗教を返り討ちにしたり時折化け物に挑んだり格上のスパルタ修行受けたり。」

 「...伊達に生きてはいないようだな。」

 「まぁね。」


 暗殺隊長は構え方を変える。


 「どうやら少しナメていたかもしれんな。このままだと俺が危ねぇ。」

 「...!」


 暗殺隊長の魔力が増した。

 どうやらこれからが本気なのかも知れない。

 私も下手に魔力ケチってる場合じゃないなこれは。


 「はああ...!」

 「...面白ぇ!!」


 再び私と暗殺隊長はぶつかる。

 魔力を纏った刃がぶつかる度に金属音を響かせ火花を散らす。

 

 「師匠...すごい。」

 「なんて速さ...!」


 その迫力に驚くルザーナ達。


 「二連斬ダブルブレード!!」

 「妖炎斬り!!」


 必殺技がぶつかるとさらに激しい、いつしか花火みたいになるんじゃないか。

 

 「...しぶといな。」

 「仕方ないでしょ、あんたメッチャ強いもん。」

 「ケッ。」


ーーーーー


 役所、廊下。


 「戦況はどう?」

 「は、現在キジコ様がバノス軍暗殺部隊の隊長と戦闘中でございます。」

 「な!?...そうか、奴が..。」

 「お嬢?」

 「ああ、なんでもない。」


 お嬢は少し複雑な顔をしている。

 どうやらその暗殺隊長と何かしら面識があるらしいが、詳しい事は知らない。


 「まずいな、奴は私が知ってる中でも一番ではないがトップクラスに強い。」

 「マジか...お嬢の口からそんな言葉が出るって事は相当なんだな。」


 お嬢の顔に焦りが見える。

 

 「...何者なんだ、そいつは?」

 「....バノス軍暗殺部隊隊長、ウダス。その実力はバノス軍トップで、奴は隠していたが本気のバノスよりも強い。今よりも幼い頃...私の戦闘訓練の指導官だった。」

 「マジか...。」

 

 お嬢が焦っていたのはそういうことか。

 確かにそんな強い奴とキジコ様が戦っているとなるとキジコ様が無事で済むはずがないというか、無傷で終わるはずがないだろうから。


 「なかなかスパルタ野郎だったよ奴は。ギリギリだったとはいえ私がパース辺りまで辿り着けたのは、奴に鍛えられて体力がついたからだろうな。」

 「お嬢が言うとその腕がなんとなくわかるわ、インヴァシオン領域...元王国からパースまで結構距離があるからな。その上途中は森もある。」

 「森で生きる訓練は比較的早く覚えれたからな。」

 

 ...どう言うわけかお嬢の顔は笑っていた。 


 「...どうしてそんな顔なんだ?」

 「え?...ああ。」

 「?」

 「...戦闘訓練中は嫌いな叔父上...バノスと会う事は無かったからな。両親ほどじゃないけど心の拠り所だった、ヤツは厳しいが指導はどれも的確だったし。」

 「...そうか。」


 ...今お嬢の心の中は複雑な感情で渦巻いているのだろう。どう表現すればいいかわからない。


 ガチャ...


 「そやったらさ、ニコちゃんも出撃したらいいじゃない?」

 「...え?」

 「ええ!?」


 会議室から顔を出す桃花様。

 

 「待ってください、ニコは代表者としてここに...!」

 「討ち取られんようここにいた方が良いって?...この子はそう言うのとは違う気がするなぁ。」

 「違う..?」

 「...バノスと直接決着つけたいのやろ?」

 「...!!」

 「お嬢..!?」


 「...これは私から始まった争いなんだ、やっぱり自分で解決しないとさ...自分自身が納得出来ないんだ。何より奴は父上と母上の仇、この手で解決したいんだ。」

 「...。」

 「だったら尚更行くべきやね。大丈夫、パースは私が全力で守ったる。」

 「な!?桃花様が直接...。」

 「だーい丈夫、私強いんやで。」


 「...ねぇジン、私...行ってきていいかな?」

 「お嬢...。」

 「パースの代表として、民を守る者として、平和を目指し散っていた人達のために、私は...出陣する。この手で決着をつけたいんだ!」


 お嬢の目は静かに燃えていた。

 それは覚悟を決めた者のする目である。

 ...幼き頃に幸せを奪った相手にジッとしている場合じゃないよな。


 「...わかった。この件一番悩んでるのはお嬢自身だからな...。よし、俺が止める理由も筋も無い、準備整えて行ってこい!バノスの野郎をぶっ飛ばしてやれ!」

 「...うん!!」


 お嬢の目がさらに輝いた。

 もう大丈夫だ、この子は俺達が知っている以上に成長している。今は子供でも...その姿はとても立派だと思うよ。

 

 それからお嬢は準備をし、パースの入り口に立つ。

 

 「ニコ様ー!!」

 「頑張れー!!」

 「バノスを倒してくれー!!」


 町の者達がニコを見送りに来た。


 「...。」


 ...?

 お嬢が浮かない顔をしている。


 「...一つ聞いていかな?」

 「どしたお嬢?」

 「...桃花様。」

 「どうしたん?」



 「桃花様って...朱斗と蒼鈴よりもずっと強いよね?」


 「...!」

 「え!?」


 え、ちょっと待った、え?

 ちょっと前に聞いた話だが、お嬢はリーツの領主である朱斗と蒼鈴...神獣の血を引いた2人の真の姿を見たと言っていた。その強さはキジコ様と共闘しても果てしない、追いつけない強さだったと聞いていた。


 その2人の母親...桃花様がさらに強いだって!?

 そんなに強いのだったら護衛の必要...。



 「残夢。」



 ...白い。黒い。

 俺はそれを見て...ただそれが最初に思えた。


 いや違う、多分...それより前に考えが吹っ飛んでいる気がする。


 だって...あんな恐ろしい姿を見たら誰だって...。


 その姿は白と黒。

 果てのない白、そこが見えない黒。

 

 ...これが...桃花様の...!!


 「大当たり、私はあの子達よりも強い。序列の三...初代神獣に二代目神獣に次ぐ実力、要するにこの世で3番目に強い...それが私や。」

 「..!!」

 「本当はこんな力振るうのはまずいんやで?特定の何かにこんな力ぶつけるのは。でも大丈夫。」


 桃花様は姿を元に戻す。


 「このままでもメッチャ強いから安心して!ニコちゃんはただ親の仇取ってくりゃいいのやから、何も心配しなくてええ。こっちはどーんと大人に任せ!」

 「はい!!」

 「桃花様に比べりゃ紙きれ程度だろうけど俺達も町を守れる強さくらいあるんだ。お前はただやりたいこと頑張ってこい!」

 「ああ!!」


 「じゃあ、行ってきます!」


 皆ニコを応援し、その姿を見送った。


 ...そういやハルの奴、どこだ?


ーーーーーーーーーー


 タッタッタッタ...


 「待っててね、キジコ、皆んな、そして...。」

 「ニコ。」

 「え!?」


 前の道から声が聞こえた。

 木陰から現れたのは...

 

 「...すっかり不安の無い心の音、いつもちょっと目を離した隙に成長するわね。」

 「ハル姉!?」


 町で見なかったハル姉の姿があった。


 「ニコ。」

 「は、はい。」


 ギュッ


 「!?」


 突然私を抱いてきた。


 「...頑張って。」

 「..!うん、私...頑張るよ。」


 ハル姉はただぎゅっと私を抱きしめた。

 ...本当、母上みたい。

 

 私はハル姉に手を振って、キジコ達の元へ急いだ。


 「頑張れニコ。応援しているからね。」


 私はただ、貴方の家族として無事で帰ってくる事を祈っているわ。

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