第107話 人の心vs獣の意志(4)
バノスの城、王の間
「...戦況は?」
「は、はい。神獣候補のキジコらの加勢により我が軍は完全に劣勢でございます!」
「...おのれガキどもが!!」
荒れ狂う心が止まらないバノス。
もはやその姿は獣、暴走した己の欲望と歪んだ野心が渦巻いている。
彼の配下は何かの拍子で気に障り、殺されるのではないかと震える。自分達が従うべき存在は何なのか....今に思えば彼ではないだろうと今は誰もが思っている。
「絶対...絶対...絶対殺してやる..ニコ!!俺が最強....最強なんだあああああ!!!」
「....。」
もはやその姿は哀れ。
だが刻み付けられた恐怖、獣の本能が叫ぶ。
逃げた方が先に殺される....と。
「うおおああああああああああああ!!!」
ーーーーーーーーーー
「妖炎玉!!」
水色の混じった妖しい色の炎が兵を迎え撃つ。妖炎はある程度の防御貫通効果を持っており、下手に防御をしてもダメージを負う。
おまけに今のキジコは魔法具《鳳凰》の効果で魔法ダメージを中心に強化されており、まだ細かい火力調整が出来ない。
ならできる事は何か?
そんなの決まっている、
「逃げろおおおおおおおおおおおお!!!」
「うわあああああああああああああ!!!」
逃走。
ただそれが一番生存率が高い。
一番無事でいられる方法だ。
「...どこまで攻めたらいいか考えていなかった。ねぇ、降伏してくれない?」
「も...もちろんで...!」
(それは許さん...絶対に殺せ...逃げた者が先に死ぬのだ...。)
「ひぃ....!出来ない...出来ない!!」
(...?何だ、今一瞬何かがあって様子が変わった。今こいつは確かに降伏をした、しかしその直後何かがあって、降伏出来ないと答えている。それもかなり震えながら。)
「...面倒だな。」
私は空間収納庫から縄を取り出し縛っておいた。威圧も試したが気絶はしなかった、どうやらバノスは威圧を持ってるようだし部下達はその圧力で威圧耐性を得てしまっているようだ。
「さて、とりあえずこの辺は制圧かな?」
私は念話で皆を呼ぶ。
早い事陣取ってしまおう。
タッタッタッタ...
「師匠...すごかったです!」
「皆んなも兵士さん達を守っていてくれてありがとうね。」
「えっへへ!」
駆けてやってきたルザーナ達。
私の戦いを見ていたようで、少し興奮気味である。
「ご主人様!青と赤の炎がぶわーっとズバッと、ぼかーんって!!」
『擬音ばっかじゃないのルザーナ!でも本当にすごかったの!』
「ありがと。再び森に入るけど準備はいいね?」
「はい!」
「うん!」
『大丈夫なの。』
「気をつけてください、この森を越えた先はさらに敵の数が多いと思われます。」
「わかった、気をつけるよ。」
そうして私達は森の中へ進んで行った。
ーーーーー
ザッザッザッ...
深い森の中に響く足音。
「...。」
「...。」
『...。』
ずっと静かなキジコ、ルザーナ、スア。
森に入ってからずっとこの様子。
「あ、あの...やたら静かですけど何か....?」
「しっ、皆さん探知機能に集中していますので。」
「え!?ああ、すみません...。」
師匠達は現在周囲の気配や地形などを探っている。なにせ3人とも探知系の力に優れているからだ。
師匠は周囲感知とヴァルケオ様の加護で、周囲の生体反応や気配の察知。
ルザーナは周囲感知で周囲の地形把握、それに加え熱源感知も併用して気配を消している相手を見通せる。
スアはそもそも大地の精霊。自然の中で探知や地形把握は一番心強い。師匠とルザーナの力の精度が増すだろう。
こんなふうに3人はレーダーとして今ずっと集中している。
...本当にすごいな。
私はそういった技術は持っていない。
私は得意なのは雷魔法と空間魔法の転移。
3人のような技は使えない。
狼獣人だけど嗅覚は人よりある程度優れている程度。
「....マ。」
まぁ人は得手不得手あるものなのでしょうかな。
「...ロマ?」
でも何か1つか2つ似たようなの覚えたいな...。
「クロマ?」
「へ!?」
しまった、師匠が話しかけてきていた事に気づかなかった。
「どうした?ずっと考え込んでいて。」
「へ、あ、いや。方角今大丈夫かなぁ...て。」
「方角?」
「...あ!北北東からずれています!」
「え!?そりゃまずい。」
なんかたまたま当たった。
「一旦休憩しよう。」
「そうですね。」
そういうわけで一度休憩する事になった。
「...。」
「...師匠、怪しい気配はありました?」
「いや、今のところはないよ。」
「そうですか。」
師匠はまだレーダーを張っている。
少しでも私達を安全に休息を取らせるためなんだろう。
私はその辺にあった石に磁力を持たせて遊ぶ。
「...?今の何だ、電波?」
「へ?あ、私のコレです...。」
「ああ磁石か!」
「ただの石ですから磁力は弱いんですけどね...。たまに包囲磁石として使ったりもします。」
まぁ転移の方が迷子の際に役立つのですけどね...。
「ところで師匠。」
「ん?」
「さっきの電波ってなんなのでしょうか?」
「ああ、電波ってのは....簡単に言うと電気エネルギーの波だね。音や水の波と似たようなのと言うか、空気中に伝わる電気による振動とかなんとかだったような...。」
そう言うのがあったのか。私の波雷撃とどこか似た波長を感じる。
「...電波か。」
「...?」
「クロマ、電波をそのまま出せたりできる?」
「へ?」
「もしそれが出来るならさ、レーダー機能として使えると思ってさ。」
「そうなのですか?」
「電波レーダーはね、飛ばした電波が物体にぶつかる事で反射した電波を捉えるものなんだ。その技と反射波を感じ取れれば、物理的に相手を見つけることが出来るって感じだ。」
「なるほど...。」
おそらく師匠の前世であった技術なのだろう。向こうの世界の人々って技術力すごいなぁ。
「...聞いた以上ものは試しです!」
私は手に磁石を作った時と似たエネルギーを集める。
師匠曰く微弱な電気でも大丈夫らしい。
とりあえず波雷撃の感覚で辺りに広げてみる。
...。
...。
何も感じません。
あれー...意外と出来ると思ったのですがね?
先に狼としての感覚とか取り戻した方がいいのかな?
いや、森暮らし満喫していた私なら読み取れるはず...。
「クロマ...多分だけど今のは電波とはまた違うのかもしれない。」
「へ?」
「今クロマは超微力な電気エネルギーを一定範囲に広げただけっていうか、反射すらしていないんだ。」
あ、だから読み取れなかったの...。恥ずかし。
「でも、いざその電波を飛ばすと考えてもイメージが...。」
「(ふーむ...暮らしてた世界が違うとイメージも違うからな...。物理的な発想よりも機械的というか...前世の技術を応用してみてはどうだろうか?)」
「クロマ、今度は杖を使ってみよう。」
「杖...ですか。」
「杖に雷エネルギーある程度溜めてみて。」
「はい。」
私は杖を立てて雷エネルギーを溜める。
「そこから...周囲を調べるというか、見るイメージを意識できるかな?杖に思念を乗せるというか..?」
「わかりました、やってみます。」
私は目を閉じて杖に意識する。
私は知りたい、周囲の姿を。
目を閉じて外が見えない、ならば感じ取ればいい。
杖に溜めてあるエネルギーを広げて見えないものを模る...。
音のように、湖面の波紋のように、空気を震わしただ広がってゆけ。
...。
...ピクッ。
あれ、今一瞬...頭に何かが浮かんだ?
木?
...なにこれ、どんどん広がっていく。
そしてだんだん、形がわかる。
目を閉じているのにわかる。
「...!今のは!」
「成功だね。」
「あは!!やった!」
「あとは応用だね。」
「応用?」
「電波は色々使い道があるんだ。例えば特定の物質を探す事に特化したものや、情報を電波に乗せて遠くの相手に伝える、敵の通信を妨害したり...てね。」
「な!?電波に情報を!?」
「まぁこの世界は受け取り相手がないから意味ないけどね。でも何かしら妨害には使えるかも。」
「でしたら師匠!私達だけの秘密の暗号とか作っちゃいましょうよ!」
「え、秘密の...!?」
「はい、師匠も多少電波を感じ取れるなら作っちゃいましょうよ!ルザーナやスアにもナイショの..ね!」
「...そうだね。よし、これは私のいた世界の昔の技術なんだけどね...。」
ーーーーー
「ご主人様ー!そろそろ出発しましょー!」
しーん...
「あれー?おかしいですね..。熱源は...あ!」
少し先に2人反応がある。
「ご主人さ...ま!?」
そこにはキラッキラと目を輝かせたクロマ、
疲れて座り込むご主人様の姿。
「ええ!?ちょっとご主人様!?」
「すごい...こんな知識と秘密があったなんて...!」
「クロマ!?一体何したの!?クロマ!?」
この後ご主人様は疲労回復ポーション飲んで復活しましたとさ。
クロマ「とーんとん、つーつーつー♪」
ルザーナ「...?」