第103話 爪を失った獣
中央広場が見えるカフェ。
そこに座っているのは、エルフ美女と凛々しい精霊。
「元気そうで良かったですわ、キジコ様。」
「そっちも元気そうで良かったよ、ミーシャ。」
私は一年〈とちょっと〉ぶりに旅仲間のミーシャと再会した。
再会した彼女はどこか大人びており、色々目標達成したためか心の余裕も感じる。
「ちなみに今は何をしているの?」
「今は軍を離れ、精霊について学ぼうと各地を渡り歩いておりまして。」
『人が純粋な精霊術を扱えるのは極めて稀だからな、実際に動いた方が研鑽を積める。』
「...ちなみにあんたレリィだよね?」
『そうだが?』キラッキラ...
レリィこんな凛々しい女性騎士というか精霊さんだったのか...。身長も小学生中〜高学年くらいあるぞ。スアより背高い...。
ちなみにレリィさんはハーブティをすごい堪能してる。
『変わった精霊ね、魔力が明らかに大精霊級じゃないの。』
『ワタシはミーシャ達と生きていく事を決めた身だ。彼女とその家族を守るのが私の役目だ。』
『そう。』
少なくともレリィはスアよりも強い。
私自身はケイやアリアほど魔力をはっきり見たり感じたりは出来ないが、少なくとも二人を見るとそうだとわかる。
一年前はこんな強い印象じゃなかったけど...元々強かったのかな、それともミーシャやレリィ自身が成長した証なのか。
そう言ってるうちにレリィとスアは、
『『おかわり。』』
と、言った。
精霊って割とよく食べるタイプ...?
そう考えているとミーシャが、
「返すようですが、キジコ様は今何をしているのでしょう?」
「私は色々だね。今家持ったのだけど改修しないといけない物件だったから自分でお金貯めてる。」
「なんと、家を!」
「目標金額まであと少しなんだけど...これがトラブル続きでさ。」
「トラブル...?」
「これも色々あってさ...
...って感じ。」
「....。」
「...?どうしたの?」
ミーシャとレリィが考え込む。
何か今の話に引っかかる所があったのかな。
「...不味いですね。」
『不味いな。』
店員が青ざめた表情でこっち見てる。
「あ、いえ!お茶の味ではありません!」
ほっと胸を撫で下ろす店員。
「コホン...実はムート王国やサジェス帝国、オレス竜国各地で謎の獣人が現れていまして。」
「...オレス?」
「竜人族国家です」
あの国そんな名前だったのか。
(※ムート王国...聖人族の国)
「もしかしてインヴァシオン派が...。マギアシリーズ...金属の体の魔物とかの情報は?」
「いえ、出ていません。」
「そうか...。」
『だが、何を考えているかはわかる。これで話が繋がった。』
「え?」
『奴らに関する情報なのだがな、
•各国に現れては金属に関する略奪が多い。
•珍しい技術を聞き回っている。
•[白衣の男]という言葉を出していた。
•近頃金属の魔物がいなかったか。
...という情報が回っていた。』
「え、そんな情報どこで。」
「各地の精霊からです。」
「なるほど!」
『マギアシリーズと手を組んでいたインヴァシオン派は別に武力援助を受けているのだから下手に知らない分野に手を出すとは考えにくい。ただでさえ血の気の多い連中がそんな急にインテリな事するなんて妙だと思わないか?』
「確かに...。」
「さらに、その国で優秀であろう技術者を見つけ次第攫おうとする事件もありました。人員不足であるならば研究所側がコソコソするはず。」
「...待て、じゃあ...!」
『あくまでおそらくだが...
ーーーーーーーーーー
「まだ見つからないのか!?」
「も、申し訳ありません!!」
インヴァシオン派獣人国....
「なぜ、急に手を引きやがった!!あの研究員ども!!」
インヴァシオン派はマギアシリーズによる武力援助を受けていた。理由は便利であるからだ。武力として申し分ないのもあるが、1番の理由は[責任を取らなくてもいい]からだ。
自分達が研究所と手を組んでる事を隠し、攻める予定の場所にマギアシリーズ[だけ]を送り込めば攻めたのはマギアシリーズ、研究所側であって自分達は何も関係ないと言い張れる。
うまく使えば敵に回したくない国に攻撃することが出来る。そんな事を考え試験としてエデルとパースの同盟式当日にパースへ向かう桃花一向に部下とマギアシリーズを送り込んだ。
マギアシリーズには、関係ない一般人を襲うよう命令されていたのはただ、
【部下を送り込んだらその先に変な魔物がいた】という言い張りを試すため。
結果的にキジコ達派証拠不十分でそれ以上は踏み込まなかった。
それに辺り、更なる計画を企てている時だった。
数日前...
「何!?マギアシリーズと研究員どもがいないだと!?」
なんとマギアシリーズと研究員達が突如姿を消したのだ。
まるで神隠しにあったの如く、なんのデータも残さず。
(このままでは計画が全て台無しになってしまう...!)
「探せぇ!!!今すぐ奴らを探せぇ!!!」
それからも各国を探し回るもバノス達は彼らを見つける事は出来なかった。それどころか焦ったバノスは少しでも計画を再現させるための悪あがきか、各地でマギアシリーズに関する情報を集めたり、それを再現しようと刺激を集めたり技術者を攫おうとさせていた。
だが結局どれもうまくいかず数日..現在。
「なぜだ...なぜ見つからん!!」
少しでも合法的に攻めようという下らない考えをしていた以上、インヴァシオン派はもはや動けない状況になりつつあった。
武力は血の気が多い獣人、
しかし他国には何人もの圧倒的な強さを持った存在がいる。
彼らはすでにまともな攻め手を失った。
「実に滑稽ですね。」
「!!?」
「まともな知識もないスッカラカンな奴らの考える事はいつもバカバカしい。」
突然だった。
なんとバノスの王室に研究員服の女性が現れた。
「そうまでして私達に罪をなすりつけた上で他国を攻めたいのですか?...本っ当脳みそ残念な奴ら、素体にもならない。」
「うぐぐぐ...貴様ぁ...!!」
「我々の契約をお忘れで?[この国でする実験のための資金代わりに兵力を提供する]、つまり目的の実験が終えれば撤退する事も意味します。そんな事もわからないなってあっきれるわぁ。」
バノスは激怒を隠さない。
「貴様ああああああああ!!!」
ガキィンッ
「なあ!?」
「バリアくらい普通張るでしょ?獣って単純ね...。」
すると女研究員は地面に紫色の結晶を置く。
「まぁ最後の資金代わりよ。どう使うかは貴方達次第...ですがね。」
そう言って女研究員は姿を消した。
「....。」
「ば...バノス王?」
「...りゃく...よ...。」
「はい?」
「パースを侵略せよ!!!」
「な!?何を言います、今あの国は..!!」
「関係ない!!これは王の命令だ!!!逆らうものは今ここで皆殺しだあああ!!!」
もはや獣。
バノスの暴走は始まった。
ーーーーーーーーーー
「...つまり推測では言い訳できる武力を失い焦ったインヴァシオン派は何かしら暴走を起こすかもしれない...って事?」
『大まかにはな。そんな血の気の多い連中が中途半端な知恵を身につけて崩れれば、醜い暴走くらいするだろう。』
しばらくレリィと話合ったが結構あり得そうな推理になってきた。賢い子だなぁ。
『今私達ができる事はただ一つ。』
『待つ事...ただそれだけなの。』
二人とも謎の一体感を出す。
すると...
「お待たせしました!当店一番メニューのデラックスイチゴパフェ、リーツ限定スペシャルバージョンでございまーす!!」
『『時は来た!!』』
さっきの推理なんてどうでもいいと言わんばかりの気迫で目を輝かせる精霊二人。精霊ってやっぱ食べる事が好きなのね。
出てきたのは、少し大きめのパフェ。
大小の上等なイチゴをふんだんに使われ、
クリームは色的にブルベリー味だと思われる、
グラスから見えるクリームの下はおそらく桃のジュレ、よく見ると桃の果肉も入っている。
そして見た目は赤ベリー薄ピンク!
クリームとイチゴの山に桃ジュレの埋蔵金!
じゅるり...食べ応えあるぞ...!!
(※別の席に座ってるクロマ達にも各自好きなの頼んでも良いと言ってあります。)
「ではいただきます。」
はむ...これは!
イチゴのストレートな甘さとジューシーさ、
酸味強めのブルベリーを厳選したであろう濃厚クリームの味が程よさを出している!
『んんん〜〜...!!』
『むぅ〜...!!!』
「とっても美味しい...!」
これはすごい、イチゴとクリームの山を削って口に入れるたびにどんどん幸せな気持ちがぁ〜!
それからずっと堪能している内に、
おお、とうとう桃ジュレに辿りついてしまった...。
あむ...んん!!
桃の可愛らしい甘さがさっきとは違う優しい味で口に広がる〜!!つぶつぶの果肉がまたジューシー、もうとにかく幸せです!
『...ふぅ。』
『ぷはっ。』
『『ごちそうさま。』』
「美味しかったです。」
皆完食したようだ、結構な量だったのに。
パフェ美味しかったし、また立ち寄ってみるとしよう。
私はサンジュースをグイッと飲み干した。
[新たな行き先が追加されました!]
[•中央広場のカフェ ]
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「いい店でしたね、レリィ。」
『私が転移を覚えたらまた立ち寄ってみよう。』
「よければ私が教えますよ。こう見えて転移は得意なのです。」
『そうか!使える者が少ないゆえに学ぶ機会が少なかった。』
そうやってワイワイしていると...
フォンッ...
「(キジコ、聞こえる!?)」
「ニコ!?そんな慌てて...
「(インヴァシオン派がついにパースに向けて進行を始めたんだ!!)」
「なんだって!?」
『もう動き出したのか!?』
「急いで館に向かいましょう、皆さん私の近くに!!」
突然ニコから伝えられた緊急事態。
私達は急ぎ館に向かうのだった。
波乱のマイライフ編、クライマックス