第102話 精霊使い
ザワ...ザワ...
あるリーツの朝。(前回の翌日)
何やら騒がしい。
「ふん、ふ〜ん♪」
中央広場にいくつもの光球が漂っている。
そこにはツヤのある綺麗な灰色の髪の女性。
微風吹くたび髪はたなびき、
光球に小声で話しかける姿はどこか美しい。
「あのお姉さん...。」
「ああ、エルフだ。」
その耳は長い。
そして...
「...そう、いないのね。」
黒い白目、
エメラルド色の瞳、
『今の彼女達にもワタシ...というよりリーデンと似た気配がいるね。』
「わかったわ、行きましょ。」
彼女の名前はミーシャ。
ダークエルフと魔人族の間に生まれた黒きエルフ、
シャドーエルフと呼ばれる種族。
一年前、キジコと共に旅をした精霊使いだ。
ーーーーー
私はミーシャ。
生活魔法と精霊術に長けたシャドーエルフです。
私は今から一年前、
神獣候補であるキジコ様を帝国まで護衛する任務を遂行していました。
短い間でしたけれども本当に楽しい旅でした。
手芸技術に誰もが憧れるヴァリールさんと出会えた事や、長い間見る事も出来なかったレリィや皆んな...精霊さんとまた会えた事、そして旅の中で行方不明だった母を救う事ができた。
...思い出すだけでもやっぱり涙が出てしまいます。
『どうした、ミーシャ?』
「ううん。なんでもないわ、レリィ。」
この子はレリィ。
元々はお父さんと共に暮らしてた精霊さん。
私が生まれた事を機に私とお母さんを守るようお父さんに言われ今もこうやって私と一緒にいる。
私が精霊さんを見る事が出来なかった間もずっと、大切なぬいぐるみの中で私を見守ってくれていた。
そのぬいぐるみが気に入ったのか、今もこのぬいぐるみを体に動いている。
「大通りに行ってみましょ。」
『ああ。』
リーツ中央大通り。
名前のまま、この町の中央にある大通り。
町自体は木造建築が多いけど内装は結構おしゃれ。
「いらっしゃいませ〜!」
やってきたのは手芸屋さん。
ちょうど切らしている糸があったので訪れました。
いざ店に入ってみれば綺麗な服がいっぱい。
こういうの見ると欲しくなっちゃう。
「綺麗でしょ?その服。」
「へ!?あ、はい!」
「実はその服作ったのウチじゃないの。」
「え?」
「その服を作ったのはクルジュって子で近頃少しずつだけど流行ってきているの。なんでもとある話題性のある方が機能性や着やすさに気に入ったらしいの。」
...後で寄ってみよう。
そうして私は糸を買い店を出た。
次はどこに行こうかな〜?
『む?』
「ん?....え!?」
店を出た途端、宙に浮いた子供...いや、緑の着物を来た妖精さんがいた。けど見たことがない、それにこの気配....。
『邪精霊!』
『わ!?ぬいぐるみが喋ったの!?』
「わー!?待って、待って!」
レリィそんな警戒しなくてもぉ〜...。
『面白い雰囲気なの。貴方の周りには珠精霊や自然精霊がいっぱい...何者かしら?』
『...お前は何者だ。』
『私はスアよ。買い物に行こうとしたら変わった気配があったから来てみただけよ。』
『スアだと!?』
レリィがすごくビックリしている!?
これは只事ではないご様子!
「ねぇレリィ。その子知っているの?」
『直接関係があるわけではない。だが知っているの名前なんだ。土と植物、そして[水]、大地の上級精霊...上級自然精霊のスア!』
『それは元ね。今は色々あって邪精霊なったけど。』
以前精霊さんから聞いた話なのですが、精霊にも階級というものがある。
・強化まだ何も属性を持っていない珠精霊
・属性、役を持つ自然精霊
・複数の属性を持ち凄まじい力を持つ上級自然精霊。
・ある区域内全ての精霊を管理する大精霊
・精霊の頂点、精霊王。
...というかんじだ。
レリィはなんなのかわからないけど。
『それで貴方達、何しに来たの?』
「ああはい、...キジコ様に会いに来ました。」
私はスアに目的を話した。
『なるほど...でも残念。今町の外に出かけているから帰りは夕方なの。』
「...そうですか。」
『じゃ、またねなの。』
そう言ってスアはどこかへ飛んでいった。
...仕方ない、どこか適当な場所で時間を潰していましょう。
ーーーーー
それから私達は精霊さんに導かれ町の外にあるお花畑にやってきた。
近くには大きな川があるらしいので後で向かってみるとしよう。
『あれー!?あなた精霊がいっぱいいるねー!』
「ふふ、初めまして!私はミーシャ。」
『ウチは花の精霊ラウア!よろしく!』
花畑からとっても元気な精霊さんが現れた。それに続き色んな精霊さんも現れ始める。
『凄いな、これだけ精霊がいるなんて。』
「そうねレリィ。あの町がとってもいい人達がいっぱいいるって事だと思うわ。」
精霊は結構繊細で少しでもマイナスな事があると弱ってしまったり、元が弱い個体はその地に寄り付かなかったりする。
『ねぇ!!何して遊ぶ?』
『いや、ワタシ達は...。』
「いいじゃない、昔話でもしませんか?」
「ブルァアアアアッ!!!!」
「!?」
『なんだ!?』
『きゃあああ!!』
振り返ると、花畑の外に多数の鹿の魔物...
アイアンディアーの群れがいた。
『嘘でしょ!?この前すっごい強い人達が追い払ったっていうのに懲りてないの!?アイツら毎年やってきて各地の花を食い散らかすの!この花畑だけでも...!!』
(98話で逃げ延びた個体の1体が新たなボス個体へとなり群れがまさかの復活しました。)
『ミーシャ!』
「わかった。みんな、手を貸して!」
『アッチ達の出番よー!!』
『おー!!』
ミーシャは鹿の群れへと向かう。
ミーシャは新たに称号を得ている。
その名も[精霊と歩む者]
精霊と長い時を過ごし理解し、絆を培った者が持つ称号。
そして、精霊術を自由自在に操ることもできる。
「アクアエナジー!!」
『水の力を味わえ!!』
近くの川の水が槍状となり魔物鹿を襲う。
「はああ!!」
「グォーー!!」
「レリィ!!花畑に3匹向かった!」
『任せろ、精霊之雷!!』
レリィから大きな蜂のような形の雷エネルギーが放たれる。その一撃は向かってきた魔物鹿を全て脳天を的確に貫いた。
『ウチも手伝うわ!精霊の怒り、花弁之刃!!』
精霊力で構成された花弁が次々と魔物鹿を斬りつける。結構怖い。
「ブルルォォオオオ!!!」
「...!!」
ようやくボス個体が動き始めた。
「ブルルルァ...!!」
どうやら部下を使って相手の強さを見ていたようだ。でも生憎私達は本気を出していない。
「ブルァアアアア!!」
『ミーシャさん!』
ボス鹿はミーシャを狙い一直線に突撃してきた。
「...去年の私なら、逃げていたでしょう。でもイグニール師匠との修行を終え、この手で家族を取り戻した私に...。」
「ブルァ!?ルルァ!?」
なんと魔物鹿の動きが止まる。
「貴方じゃ敵わないわ、さようなら。」
ミーシャは右手を空へ上げる。
「精霊之憤怒。」
その瞬間、ボス鹿に青白い落雷が放たれた。
ボス鹿は即死、部下の通常個体はそれを見て一目散に逃げていった。
「ふぅ、初めて成功した...この技。」
『ありがとうミーシャさん!!花畑が守られたわ!!』
ものっすごく感謝の気持ちを表しているラウア。
「皆んな無事で良かったわ。」
『また一つ成長したな、ミーシャ。』
「ありがとう、レリィ。」
お父さん、お母さん、イグニール師匠。
私は今日も楽しく成長できました。
ーーーーーーーーーー
夕暮れ時...
「すっかり夕方になっちゃったね。」
『ああ。...団子うまいか?』
「とっても美味しい。レリィだってもうおかわりしてるじゃない。」
『...。』
私達はせっかくなのでたまたま見つけたお茶屋に寄っている。
レリィも食事のためかぬいぐるみから出てきて本来の姿になっている。
レリィの見た目は120cmくらいでツンとして綺麗な白髪のお姉さん。
『どうした、ワタシに何かついてるか?』
「んーん。なんでも。」
『?』
カタッ...
「ん?...あ...!」
物音がしたのでそちらを向いてみると、
以前見た時と変わらぬ服装、
ちょっと伸びて黒が混じった髪の毛、
輝く金の目。
「....また会えましたね、キジコ様。」
「ミーシャ!!」
「ミーシャさぁぁぁん!!!」←ルザーナ
...あら、また涙が出てしまいました。
でもこれは拭かなくてもいいですよね?