第9話 渦巻く闇
キジコが魔砲覚えた日の夜...
レギスの森近辺 魔族領フィエド平野
「隊長、本当によろしいのでしょうか..。」
「構わん、獣如きに恐るな。」
彼らは魔人族。
この世界で人間と呼ばれる種族の一種。
彼らと対になる聖人族とは長年争う中であり、今も戦争をたびたび続けている。
意外にも聖人族と魔人族は見た目はあまり変わらない。
住む環境と地域が違う、そして目の色が黒白逆である程度。
そして彼らも戦争に向けレギスの森へ歩んでいるのだが...。
「でも、レギスの森は守護獣様との戦争の不可侵盟約が...。」
「うるさい!野獣の盟約なんぞしるか!」
横暴な態度の声が広い平野に響く。
その男は魔族軍第6隊長。
「...今我々は、隊長と第6隊の内たった200人を数日早く進軍しているのはなぜです..。」
「ふん、先遣隊だ。森の入口から少し入った所に広場がある。そこで勇者や後続隊達の追加準備を行う。」
「わ、わかりました..。」
(な..なぁ、先遣隊の予定あるなんて言われたか?)
(いや、聞いてない。何考えてるんだ隊長は..。)
(だよな、しかもこの人数、おかしすぎる。)
(だが、疑うも逆らうわけにもいかない。俺らは家族や生活がかかっている。職を失うわけにはいかない..。)
(ああ...。)
兵達がざわめく間にもレギスの森へ一歩一歩近づいているのだった。
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???視点
現在進行中の魔人族の軍
「総隊長、報告です!現在独断で行方をくらましている第6隊隊長と部下の一般兵200人はやはり数日前よりレギスの森へ進行しているとの事です!」
「報告ありがとう。」
兵の歩みと共に先頭を動く馬車の客車内にて通信魔法で連絡をとる。
彼女は魔人族の軍、通称魔族軍の総隊長にして現在の魔勇者、ヴェアート・ルーナ。
魔人族の帝国・サジェス最強の戦士である。
...あの老害は適当な理由でもつけて解雇させておくべきだったか。わざわざ部下を少数引き連れ何を考えている..?
レギスの森はそもそも守護獣様との盟約で戦争に対し不可侵がある。
なのに上もジジイも何を考えていやがる。
王国も一緒だ。どうしてわざわざあの地で戦うことに同意した?
実力を見誤るほどのバカだったか?
守護獣様の強さは1個2個の軍団でも勝てるもんじゃない。
かつて、幼い頃「ヤツ」と共に出会ったあの威圧の持ち主、白銀の獅子。
戦ってはいないがアタイにはわかる。
今の強さでも勝てない。
そしてヤツ..幼馴染のアイツでも勝てない。2人がかりで挑んでも少し怪しい。
...考えを戻そう。
どうして仲の悪い帝国と王国がこうもあっさり戦地を決めたのか。
何か共通の狙いがあるのは間違いない。
何が目的か..?
邪魔な何かがあるから?
いや、レギスの森は良質資源の塊。
破壊して得なんか一つもない。
精霊水の確保?いやそんなの秘密裏に動く方が自然だ。
そもそも帝国と王国両方の領域内にも精霊水の川は流れている。
そんな危険を犯して取り合いするもんじゃない。
だとしたら....
邪魔な何かが「いる」....何か?
何かってなんだ?
戦争...大量の兵を集めてでも消したい奴がいるってこと...?
そして相手はそれだけ強い。
我ら5000人の兵と聖王国の4900人を使ってでもなんて...ちょっと待って、まさか!?
守護獣様を...殺すことが目的だって言うの!?
なぜ守護獣様を?
なんのために....。
邪魔だから?手出ししない限り向こうは何もしてこないのに..?
そもそもあの方々がいないと周辺の中立の小国や村が....周辺..中立!!
そうか!!
王国と帝国はレギスを中心とした中立の国々の吸収、そのために守護獣様達を!?
まずい、独断でもいい、この戦争を止めないと...!
...だが待て、ならあのジジイは尚更何を...?
ああもう!!今あのジジイの事じゃない、今わかった以上兵を止めるか?
ダメだ、私の独断とはいえど彼らには守るべき者もいる。下手に失職にするわけには..。
どうすればいいの....?
そうだ、アイツがいる。
もしかすれば..どうにか..。
でもずっと会っていないのに私に協力してくれるのか?
しかもアイツは聖人族。私は魔人族。
私なんかに協力なんてするかも怪しい...。
...でも、間に合うかわからないけど賭けるしかない。
私は弱い召喚魔法を使い伝書鳩を用意した。
強い召喚魔法をここで使えば怪しまれる。
だから伝書鳩に手紙を持たせアイツの元へ手紙を送った。
頼む、届いてくれ。
「総隊長、今の伝書鳩は?隠密魔法もかけて..。」
ギクゥ!!
「な..なに、軍に関する重要情報だ。念話は稀に盗聴できるスキルを持つヤツがいるからな。アナログなこの方法はかなり有効なんだ。」
「なるほど!流石です!」
ふぅ、なんとか誤魔化せた。
渦巻く闇と続く謎は未だに深く...。
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次の日〜キジコ視点〜
ふぁ〜あ...ってまだ暗いな。
いつも通り私はマウリ姉に守られながら寝ていたようだ。
流石に今は獣姿だった。
「おや、早いね。キジコ。」
「テュー兄おはよ。...なんか嫌な感じがして。」
「...予定では明後日だからね。人族の戦争。」
「それに...皆、悲しい事でもあったの?」
「え。」
「あ、いや、なんかしんみりしてるというか。」
起きてるテュー兄もそうだったが妙に皆、少し暗い雰囲気があった。
「...気のせいだろう。キジコ起きたばかりだしまだ少し暗い時間帯だ。」
まぁ言われてみりゃそうかも。多分前世で言う朝4時くらいだもん。
「そうかも。せっかくだし散歩でもしてくる。」
「ああ、気をつけて。」
(...テュー兄の念話にやはり少し悲しみが混じってた。何かは聞かないけど私が寝てる間にヴァルケオ達と何か話していたんだろう。)
そんなわけで精霊水の川を飲んでいた。
超早朝だから冷っってぇ。舌キーン。
と呑気にしていた時だった。
...!!
冷たい水飲んで一気に目覚めた影響かすぐに気づいた。
森に誰かがいる。
ヴァルケオの加護頼りなレーダーだがかなりの人数がいる。
ただ、いるのはまだ遠く。
おそらく森の入り口の方だろう。森出た事ないけど。
念のためテュー兄に伝えよう。
そう思った時だった...
ドスッ
私の右横に矢が飛んできた。
...って、え?
「驚いた。まさかこんな所に神獣の資格を持つ獣がいるとはな...。」
え!?なんだ!?
誰だアイツ!?!?
つーかあのジジイ、私に神獣の資格持ってるって言ったよな!?
まさか..個体鑑定!?
「「何者かしらねぇが」ラッキーだ。こんなゴミみてぇな野獣が神獣の資格が持ってるんだ。計画に利用してみるか?いや売っちまった方が儲かるか!」
真っ黒で欲深いゲスな瞳がこちらを睨む。
うわあああよりにもよって嫌なヤツ来たああああああああああ!!!!