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君と僕の距離

掲載日:2021/09/19

「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」というラジオ番組の企画「ゆいこのトライアングルレッスン THE MOVIE」に応募した作品を、小説に改稿したものです。※タイトルを変更しました。

「うわあ……博(ひろし)、これ、乗らなきゃダメかなあ」

「まあ、ちょうどラッシュの時間帯だもんな」


 私と博は、生まれた時からお互いを知っている、いわゆる”幼馴染”だ。

 高校からの帰り道。混雑する電車を前に、私たちはげんなりとして佇んでしまった。


「由以子(ゆいこ)、乗るよ」


 そう言うと博は、私をドアの脇にある手すりのそばへと誘導してくれた。


「……で、巧(たくみ)とはどうなんだよ」


 博の問いかけに、私はうっ、と言葉に詰まる。話したいけど触れられたくない、微妙な話題だった。


「どう、も何も……巧とはクラスも違うし、なんて言ったって陸上部のエースだからね。もう、全然会わないよ」


 巧は、私たち二人の幼馴染だ。けれど、いつも三人一緒に過ごせたのは、中学までの話。

 せっかく三人共同じ高校へ進学したのに、もう長いこと、巧の姿を見ていない気がする。


 そして、私はそうなって初めて気が付いたのだ。

 巧のことが、好きかもしれない……ということに。


「あいつ、ホント忙しいもんな……メールとか、電話とかしてみたら?」

「えー!」


 博の提案を、私はぶんぶんと手を振って却下した。


「今更、そんなの恥ずかしくてできないよ!」


 その時。

 駅に停車した電車の扉が開き、大勢の人が雪崩れ込んできた。

 人波に押される形で、博が私に覆い被さってくる。


「きゃっ!?」

「……っ!ごめん……しばらく我慢できるか?」


 博は両腕を突っ張り棒のようにして、私の身体に触れないように、踏ん張ってくれていた。


「わ、私は大丈夫だけど……博、その体勢、辛いんじゃ」

「これくらい平気だよ」


 嘘だ、と思った。私よりよっぽど華奢なその両腕が、ふるふると震えている。


「……いくら幼馴染でも、好きでもない男に近づかれたら嫌だろ」


 言葉の端々から、博の誠実さが滲み出ていた。私は、制服の胸のあたりをギュッと掴む。


 お願いします。

 どうか、早く最寄り駅に着きますように。

 この胸の高鳴りを、博に聞かれてしまうことがありませんようにーー


*


「今日は特別混んでたな」

「う、うん……」


 電車を降りた後、恐る恐る博の顔を見ると、まるで何事もなかったかのように涼しい顔をしている。

 まだとてもじゃないけれどドキドキがおさまらない私とは、対照的だった。


「じゃあ、俺こっちだから」

「うん……あ、あの!」

「ん?」


 引き留めるように響いた私の声に、博が振り返る。


「さっきは、ありがとう……かっこよくて、びっくりした」


 ちゃんとお礼を伝えたかったのに、言葉を紡ぐほどに声が小さくなってしまう。

 その声を聴いて、博は切なそうに微笑んだ。


「俺にしとけば?」

「……え?」

「俺なら、由以子に寂しい思いはさせない。それに……ああいう時に、堂々と守ってやれる大義名分が欲しいんだよ」

「……博」

「ゆっくり考えて。急がないから」


 微笑みを湛えながらそう言うと、博は再び踵を返して静かにその場を去った。 

 最後に残ったのは、私の心臓がうるさく鳴り続ける音ーーそれだけだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 巧を好きかもしれないと意識しながら、博の行動にドキドキしてしまう由衣子の揺れ動く気持ちが伝わってきました。 博の優しさと気遣いがとてもカッコよくて、好きです。
[良い点] わー 優男! 台詞がイケメン! 言ってみたいわぁ〜 [一言] 満員電車で触れない様にってアレ 分かるぅぅぅう
[良い点] 距離が急激に縮まっている…! 博が切なく微笑むところが好きです。表情と声を想像して胸にきました。 きっとゆいこのことが大好きだろうに「大義名分が欲しい」と言う博。その前の「それに……」の間…
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