君と僕の距離
「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」というラジオ番組の企画「ゆいこのトライアングルレッスン THE MOVIE」に応募した作品を、小説に改稿したものです。※タイトルを変更しました。
「うわあ……博、これ、乗らなきゃダメかなあ」
「まあ、ちょうどラッシュの時間帯だもんな」
私と博は、生まれた時からお互いを知っている、いわゆる”幼馴染”だ。
高校からの帰り道。混雑する電車を前に、私たちはげんなりとして佇んでしまった。
「由以子、乗るよ」
そう言うと博は、私をドアの脇にある手すりのそばへと誘導してくれた。
「……で、巧とはどうなんだよ」
博の問いかけに、私はうっ、と言葉に詰まる。話したいけど触れられたくない、微妙な話題だった。
「どう、も何も……巧とはクラスも違うし、なんて言ったって陸上部のエースだからね。もう、全然会わないよ」
巧は、私たち二人の幼馴染だ。けれど、いつも三人一緒に過ごせたのは、中学までの話。
せっかく三人共同じ高校へ進学したのに、もう長いこと、巧の姿を見ていない気がする。
そして、私はそうなって初めて気が付いたのだ。
巧のことが、好きかもしれない……ということに。
「あいつ、ホント忙しいもんな……メールとか、電話とかしてみたら?」
「えー!」
博の提案を、私はぶんぶんと手を振って却下した。
「今更、そんなの恥ずかしくてできないよ!」
その時。
駅に停車した電車の扉が開き、大勢の人が雪崩れ込んできた。
人波に押される形で、博が私に覆い被さってくる。
「きゃっ!?」
「……っ!ごめん……しばらく我慢できるか?」
博は両腕を突っ張り棒のようにして、私の身体に触れないように、踏ん張ってくれていた。
「わ、私は大丈夫だけど……博、その体勢、辛いんじゃ」
「これくらい平気だよ」
嘘だ、と思った。私よりよっぽど華奢なその両腕が、ふるふると震えている。
「……いくら幼馴染でも、好きでもない男に近づかれたら嫌だろ」
言葉の端々から、博の誠実さが滲み出ていた。私は、制服の胸のあたりをギュッと掴む。
お願いします。
どうか、早く最寄り駅に着きますように。
この胸の高鳴りを、博に聞かれてしまうことがありませんようにーー
*
「今日は特別混んでたな」
「う、うん……」
電車を降りた後、恐る恐る博の顔を見ると、まるで何事もなかったかのように涼しい顔をしている。
まだとてもじゃないけれどドキドキがおさまらない私とは、対照的だった。
「じゃあ、俺こっちだから」
「うん……あ、あの!」
「ん?」
引き留めるように響いた私の声に、博が振り返る。
「さっきは、ありがとう……かっこよくて、びっくりした」
ちゃんとお礼を伝えたかったのに、言葉を紡ぐほどに声が小さくなってしまう。
その声を聴いて、博は切なそうに微笑んだ。
「俺にしとけば?」
「……え?」
「俺なら、由以子に寂しい思いはさせない。それに……ああいう時に、堂々と守ってやれる大義名分が欲しいんだよ」
「……博」
「ゆっくり考えて。急がないから」
微笑みを湛えながらそう言うと、博は再び踵を返して静かにその場を去った。
最後に残ったのは、私の心臓がうるさく鳴り続ける音ーーそれだけだった。




