2-2:少女の日常。そして変化
木漏れ日がカーテンの隙間から差し込んでくる。日差しを浴びた青髪少女はゆっくりとまぶたを開けていく。
目を開く先に見えるのは、鮮やかな金髪をツーテールに結っている美少女、クラリス・クラリスの勇士だった。もちろん、本人ではない。これは、クラリスがかつてアイドルとして活躍していたときに作れれたポスターである。
「おはよう、クラクラちゃん」
青髪の少女は起き上がり身支度を調えていく。
部屋に飾られているクラリスのポスターは一つだけではない。
壁全面にヘキサスターズのメンバーとして活躍していたクラリスのポスターやトレカが飾られている。
化粧台の前に座る。
もちろん、化粧台の前にもクラリスのポスターがある。大好きなアイドスの勇士はいつまでも見ていたいが、残念なことに時間がない。
鏡の映る自分の髪を、クラリスのようなツーテールにまとめながら、青髪の少女、モナコ・モナの一日が始まっていく。
始まりはちょっとした好奇心からだった。
ずっとヘキサスターズが好きで、一ファンとして追いかけ続けていたけど、メンバーであるクラリス・クラリスとナオ・ドウセルの突然の脱退を機に、ヘキサスターズは無期限の活動休止状態になっている。
二人の脱退理由は多くは語られていない。
突然の脱退発表があり、卒業ライブも何もなく突然と二人は表舞台から消えていったのだった。
クラリスを一心不乱に追いかけ続けていたモナコからすれば、ある日突然に生きがいをなくしたような物だった。
クラリスではない、他のアイドルを追いかけようと、ヘキサスターズの活動休止以降、様々なライブにも通ったが、クラリス・クラリス以上に、モナコの心を燃え上がらせるアイドルとは出会えなかった。
そんな時に見つけたのは、ヘキサスターズのメンバーである、エリーゼ・ミレイのソロライブ バックダンサーの応募だった。
ただのファンであるはずの自分が、バックダンサーに応募するなんて、それこそちょっとした好奇心からだった。
クラリス・クラリスを超えるアイドルには、どうやっても出会えない。
出会えないのなら、自分からクラリス・クラリスに会いに行くしかないかもしれない。
その一歩として、エリーゼのバックダンサーになれば、クラリスに会える道に繋がるかもしれない。
結果、一次選考はかろうじて通過。
ここから長い道のりが始まると思っていたら、現実は実にあっさりと、クラリス・クラリスへとたどり着いてしまった。
子犬のように純粋な瞳を持つ少女が渡してくれた地図に記された約束の場所までたどり着いた。
この先にクラリスがいる。
大好きだった、アイドルがいる。
胸に宿ったわずかな期待を胸に扉を開くと、すでに練習着に着替えストレッチを始めている衣瑠夏がいた。
「あ、おはよう。モナコちゃん。今日から二週間、いっしょにがんばろうね」
前面の壁に張られた鏡に練習着姿の衣瑠夏とモナコが写し出されている。
ここはクラリスが予約してくれたダンスレンス場だ。
クラリスはカレンプロに所属しているだけあって、この手の練習設備に関しての情報量が誰よりも長けている。
「エリーゼのバックダンサー オーディションをこのタイミングで受けさせるなんて、スキュワーレもちょっと質が悪いわよね」
キサラギ・ステーションで行われた衣瑠夏の初ステージ。
ステージを成功させるため、クラリスはダンスパフォーマンスを捨て、衣瑠夏のソング値を鍛えることに特化した練習メニューを組み立てた。
結果、初ステージは大成功を収めたのだが、衣瑠夏の弱点としてダンス値が低い事が浮き彫りとなる形となってしまった。
かつてともにステージに立った仲間から見ればクラリスの思惑などお見通しだったのだろう。
「それに、モナコちゃん。初めまして、クラリス・クラリスです。一次選考の時にあなたのステージを見たけど、正直今のレベルだと本選考の合格は不可能なレベルです」
青髪ツーテールの少女は何も言わずに、ただただクラリスを見ているだけだった。
「え~と、モナコちゃん? 聞こえている?」
「…………」
「えっとえっと、モナコちゃんモナコちゃん、聞こえていますか?聞こえていますか?」
「…………はぁ……幸せ………」
推しのアイドルから何度も名前を連呼され、モナコは返事をするのも忘れて、ただただ推しアイドルの声に陶酔していた。
「あはは。聞こえているのかな? 良いこと、二人が二週間後に開催される本選考で勝つためには生半可な練習じゃだめだから、ここからびしばしと鍛えていくわよ。覚悟してね、二人とも」