2-1:モナコ・モナ
澄んだ青髪をツインテールに編んだ少女が、モニターに映し出された名前をおそるおそる見つめていく。
今日は、カレン・プロが主催したエリーゼ・ミレイ ソロイベントのバックダンサーオーディションの一次選考結果発表だった。
上から順に名前を追っていく。
順位順に表示された一次選考合格者もついに一番下までやってきた。
最下位から二つ目に、やっと彼女、モナコ・モナの名前があった。
一次選考はなんとか合格できたようだった。
「ふうう」
結果発表表示を見ていた時から自然と止まっていた息をやっとはき出せた。
あの日憧れたステージ立てるかもしれない。
その第一歩をなんとか踏み出すことが出来た。でも、結果はブービー賞。上には10数人の合格者が連なっている。
ここで受かったとしても、憧れのステージに立つにはだかる壁は大きい。
喜びよりも先に不安がモナコの心を締め付けていく
「あったよ、クラリス。わたしの名前。一番下だけど、ちゃんとあったよ!」
「おめでとう、衣瑠夏。でも、最下位ってことは、本試験までには色々と対策必要ね」
「はいっ。ご指導ご鞭撻よろしくお願いしますね、クラリス教官」
子犬のように愛らしく瞳を輝かせた少女は、天真爛漫な笑顔を振りまきながら、鮮やかな金髪をツインテールに結っている女性に敬礼をしてみせた。
バックダンサーオーディションの一次選考結果、その最下位に表示されている名前は、新藤衣瑠夏だった。
「衣瑠夏は最下位だというのに、元気ね。少しは落ち込むかと思っていたけど?」
「最下位でも合格は合格だもん。合格って事は次がある。だから、頑張らないとだもん」
盗み聞きをするつもりはなかったが、最下位にも関わらず屈託無い笑顔を振りまける彼女は自然と周りの注目を集めてしまう。そしてモナコは気づいてしまった、その隣に立つ鮮やかな金髪をツインテールに結っている女性の存在を。
「嘘でしょう、どうして。クラクラちゃんがこんな所にいるのよ?」
幻覚かと思い、思わず目をこすってみるが、金髪ツインテールの彼女はやっぱり、そこに立っている。
「あの、すみません。あなたも一次選考の合格者ですか?」
声を掛けられ振り返ると、子犬のような屈託無い笑顔がモナコに向けられていた。
「わたし、新藤衣瑠夏って言います。ほらそこ、一番下だけどあそこに表示されているあの名前ですよ」
ずっと見ていたから、モナコの視線に気づいたのだろうか。
まさか向こうの方から話掛けてくるとは予想外だった。
状況に思考回路がついて行かず、つい上の空で答えてしまう。
「……あたしは、モナコ・モナ。あんたの一つ上にある名前だよ」
「わああ。すごい。じゃあわたし達でワンツーフィニッシュだね」
「ビリからだけどな」
「上からでも、下からでも、二人で並んでいることが嬉しいことだよ…………あっ。そうだ」
何か思いついたのか胸の前で両手をぽんと叩き、衣瑠夏は連れである金髪ツインテールの少女の元へ戻っていく。
何か相談してるのだろうか、金髪ツインテール少女は衣瑠夏の話を相づちを打ちながら聞き、最後には胸ポケットから何かを取り出して衣瑠夏に手渡した。
「お待たせしました。あの、もしよろしければ、本試験に向けて二人で一緒にダンスの練習しませんか?」
そう言いながら衣瑠夏は一枚の名刺を差し出した。
そこには、芸能事務所カレンプロの連絡先と、クラリス・クラリスの名前が記されている。
やっぱり、あそこに立つ女性は、かつてヘキサスターズのメンバーであったクラリス・クラリスで間違えない。
「ビリのトップツー。一緒にやった方がお互いに駄目なところいっぱい見えてくると思うし、なによりあなたと組むときっと素敵なことなるってわたしの直感がグッと告げてます」
そんな汚れない瞳で見られては断る事なんて出来るわけがない。
それに、この名刺が差し出されたって事はつまり、
「これはつまり、クラリス・クラリスと一緒に、練習できるって事なのよね?」
「うん。クラリスはちょっと鬼コーチだけど、教えてくれることは的確だから、アイドルになるためにはものすごくためになるんだよ」
そんな条件、迷うことなんてあるはずもない。
モナコは衣瑠夏が差し出した名刺をギュッと握りしめて、深々と頭を下げた。
「はい。クラクラちゃんのご指導、ご鞭撻いただけるのなら、あたしなんでもやりますっ!」