1-4:宴の後、その先へ。
キサラギ・ステーションの2Fに設置された特別イベントスペース。
収容人数200人強のスペースは満員御礼だった。
それもそのはず、今はイベントのクライマックスであり、カレン・プロが誇る人気アイドルが一人、エリーゼ・ミレイのステージである。
緑を基調としたドレスを纏い、金髪の三つ編みをなびかせる彼女はまるで森の妖精であるかのようであった。
バラードをしっとりと歌い上げるその姿と声色に、観客達はただただ酔いしれている。
「ねえ、スキュワーレ。やっぱり、やっぱりエリーゼはすごいね」
舞台袖で観客を引き込むエリーゼの圧倒的なステージを見守っていたクラリス。
そんな彼女の元に盟友であるスキュワーレが歩み寄ってきた。
スキュワーレは腕を組み、静かに歌を聞き入る。
「それより、聞いたわよ。新藤衣瑠夏の初ステージ。まさか、ステージを飛び降りて歌いながらファンと触れ合うとわね」
「衣瑠夏ちゃんもすごいよね。袖から見守っていたけど、まさかあんなことするなんてね。なんだか、歌っている最中にステージにファンを招き入れたユカナを思い出しちゃったよ」
スキュワーレの方には振り返らず、眩いスポットライトを一身に浴びるエリーゼを見守り続けているクラリス。
「そんな面白い逸材をカレン・プロへ招き入れたのはクラリスのスカウト眼のなせる技よ。まだまだトップになるには、ほど遠いけど、彼女は磨く価値のある原石である事はよく分かったわ」
エリーゼが紡いでいた歌が終わった。
観客からの惜しみない拍手が響き渡る。
観客達に感謝の一礼をして、エリーゼはステージ上でトークを行っていく。
「あなたと一緒に、ユカナとリカが向こうの世界に行ってもう一ヶ月。あと二ヶ月もすればあの二人もカレン・プロへ帰ってくるわ」
「そうだね。二人とも異世界でのアイドル生活、苦労してないと良いけどね」
「あの二人なら大丈夫よ。それに、苦難もアイドルとして成長するための糧として、一回りも、二回りも大きくなって帰ってきてくれるはずよ」
組んでいた腕をほどき、スキュワーレはクラリスの小さな肩にそっと手を添えた。
「ねえ、クラリス。あなた、ステージに未練は無いの?」
「………未練はあるよ。今日も、エリーゼや衣瑠夏ちゃんのステージ見ていたら、やっぱりアイドルって良いなって思っちゃうよ。でもでも、スキュワーレも知っての通り、私の今の声はもうステージに立つには、汚れすぎてしまったよ」
自分の肩に乗るスキュワーレの暖かな手に、悔しさで震えだしそうな自分の手を重ねるクラリス。
「スキュワーレはさ、ユカナとリカの二人があっちから帰ってきたらヘキサスターズを再始動させるつもりでしょう?」
「ええ、そのつもりよ。あの二人も、そしてエリーゼにしても、もっと大きなステージで輝くチャンスがあるはずよ」
「………私もそう思うよ。みんなにはもっともっと輝いて欲しいよ。だから………」
しっかりと前を見据えるクラリス。
そこはもうアイドルとして、自分が立つことが出来ないステージ。
でも、逃げたくない。
ステージでファンのみんなと触れ合っていたあの時間はクラリスにとって、かけがえのない日々だった。
「私の分までみんなが前に進んで欲しいな………」
仲間と一緒に作り上げた時間を次に繋ぐためにも、歩き出さないといけない。