9-6:エール
これで一勝一敗。
新生ヘキサスターズの最終先行オーディションは最終戦にまでもつれ込んだ。
二回戦を終え、今は演者達にとってわずかな休息時間である。
ステージの上では、エリーゼがほんわかとしたトークで観客達を楽しませている。ステージ裏にそろった四人は汗をぬぐい、喉を潤してく。
「よし、準備万全、次も頑張ろうね、ユカナ」
「もちろんだよ。こんなに楽しいライブ、出来ればもっともっと続けていきたいぐらいだよ」
次のステージに心躍らせるユカナ。そんな彼女が見つめる先では、後輩アイドルの二人の最終ステージで歌う曲について必死に語り合っていた。
二戦目でユカナとリカがエトランゼを歌った事でステージの流れが大きく変わった。
用意していた曲ではなく、流れにそった曲目に変えるべきが必死に議論している。
「それで、リカ達は次に歌う曲、何するの? ドルフィンちゃん達しっとり系は用意していないみたいだし、このままバラード系で攻めている?」
「いやいや、最後に歌うのは事前に相談した通り、あの曲だよ。ボク達の思いが届くように熱く歌い上げるよ、リカ」
「合点だよ、ユカナ。ねえ、そこの後輩二人」
ステージに上がる支度を整えた二人のアイドルは、次のステージをより良くしようと施策している後輩に声を掛ける。
きょんとした二人の顔がなんとも可愛らしいが、真っ直ぐに自分たちを見つめる視線の力強さがなんとも心強いことか。
「リカとユカナがこれから、最高のステージを見せてあげるから、全力で答えてきなさい!」
エリーゼがステージ上からユカナとリカを呼んでいる。
観客達に拍手で迎え入れながら二人がステージに上がり出る。最後の歌唱とあって、ステージでエリーゼ主導で感嘆なトークが行われている。
ステージ裏にいた衣瑠夏とモナコも先輩アイドルのステージを見届けようとステージサイドに移動していく。
「それでは、ボクとリカの最後の歌唱曲です。これは、これから先にきっと一緒に歩むことになる仲間達に向かって捧げたいと思います。聞いてください、エール」
伴奏が始まり、ステージ上のユカナとリカが息のあったダンスを披露していく。
「迷いそうで、立ち止まった時、閉ざされたドアを ボク達が開けてあげるよ」
デュエット曲であるエールは、応援ソングとしてヘキサスターズ楽曲の中でも人気が高い。
未来への希望に溢れたこの曲は確かに、ライブ構成の最後に持ってくるにはぴったりの楽曲だろう。
でも、きっと今、このタイミングでユカナとリカがこの曲を歌う意味はそれだけではない。
ステージサイドからヘキサスターズの先輩アイドルのステージを見守る衣瑠夏とモナコ。
二人はいつか、互いの手をギュッと握りしめながら、先輩アイドルからの歌のエールを受け取っていた。
「共に歩こう 共に歌おう キミとならボクもまだ見ぬ世界へいけるよ」
キレがあるだけではなく、ダンスの挙動の一つ一つに力強さがあり見ているだけでもエールを受けているかのようである。
デュエットで紡がれる歌は、ユカナの芯のある真っ直ぐな歌声に、リカの声からもあふれ出しそうな元気さが重なり、この先の世界は明るいものだと導いてくれるかのようである。
スポットライトもないただのステージだと言うのに、ユカナとリカが歌い、踊る、それだけではそこは最高のステージとなる。
観客の心をとらえ、目に訴え、音で魅了させる。
「さあ、行こうよ。ボクらと一緒に、最高のその先へ」
観客席に向かってユカナとリカが手を差し出し、曲が終わりを告げた。
初めて聴く歌であっても、観客に思いを届けることは出来る。ましてやそれが最高のステージであればなおのことである。
観客席からステージに立つユカナとリカに向かって、またしても惜しげの無い拍手が送られる。
「全く、ひどい先輩ね。このステージに勝たないと、あたし達ヘキサスターズの新規メンバーになれないなんて冗談もいいところでしょう」
「ユカナさんとリカさん、凄かったね。わたし、二人の想い、しっかりと受け取れたよ」
「ちょっと、衣瑠夏。感動する気持ちは分かるけど、次はあたし達のステージなんだからね、しっかりしなさいよ」
「うん、大丈夫だよ。ちゃんとステージに立てるから、それよりもこの次に歌う楽曲だけど」
「ああ、そうね。こんなステージを見せられたら、あれしかないでしょうね。最後までこっちの世界のカバー曲じゃ、ちょっと異世界人のあたしとしては情けないし、最後はうちらの世界の曲で行くわよ、衣瑠夏」
「うん、モナコ」
最後の歌唱を終えた、ユカナとリカがステージを降りてくる。先輩アイドルから確かに受け取ったエールを胸に、衣瑠夏とモナコは入れ替わるようにステージへと上がっていく。




