9-1:最終オーディション
ついに運命の日がやってきた。
ヘキサスターズの新規加入メンバーオーディションの最終選考の日だ。ホテルのカーテンを勢いよく開けると目を覆いたくなるようなまぶしい光が差し込んでくる。
「う~~ん」
「ほら、モナコ。朝だよ。起きて、起きて」
ベットの上で丸くなっているモナコを揺さぶる衣瑠夏。
クラリスが手配してくれた渋谷のビジネスホテル暮らしも今日で一週間目だ。
相部屋生活もかなり慣れてきたが、この一週間一緒に暮らしてわかったのは、モナコは意外と寝ることが好きな事だ。
無理矢理起こされると、あからさまに不機嫌そうな顔を浮かべてくるが、衣瑠夏はいつものように笑顔でやり過ごす。
身支度を終え食堂へ降りると、この一週間同じく生活を共にしたユカナとリカが先に食事を取っていた。
「お。ドルフィンちゃんにモナモナ、おはよ~~、こっちだよ~~」
朝一から元気一杯のリカが小柄な身体を精一杯大きく動かしながら二人を呼んでいる。
衣瑠夏とモナコはそれぞれの朝食をトレーに乗せ、リカ達の待つテーブルに腰を降ろす。
「おはようございます。リカさんは今日も朝から元気ですね」
「もちろん。だって、今日はいよいよと、あなた達とアイドルバトルが出来る日だからね。もう、わくわくが止まらないで、全然寝付けなかったよ」
異世界に来ているリカにしてみたら、遠足に来ている気分なのだろう。
こっちにきてからの一週間、ずっとこの調子である。目を離すとどこかへ逃走して遊びに行った事なんてもはや片手では数えられない。
「そっちの二人はよく寝れたみたいだね、良かった。今日はボク達も本気で行くから、そっちもベストコンディションで挑んできてよね」
リカの隣に座るユカナは、食後のコーヒーを楽しみながら、しかしながら今にもどこかへ飛び出して行きそうなリカの服の裾をしっかりと握っている。
「もちろんよ、前回、リカさんにつれられてアイドルバトルした時は、コテンパに負けたけど。あのときのあたしとはもう違うのだから、覚悟してくださいね」
「わたしもです。今日こそはモナコと一緒のステージでユカナ先輩とリカさんを倒して見せますから、よろしくお願いします」
モナコは勝ちを確信した不遜な顔で、衣瑠夏は迷いなんてないといった太陽のような笑顔でそれぞれ、先輩アイドルに向かって宣戦布告をする。
なんとも頼もしい後輩達なのだろうか。
こんな後輩達と同じステージに立ち、アイドルバトルを行い、見に来てくれた観客のみんなに熱狂をプレゼントする事が出来る。
そう考えると、ユカナ自身もうずうずがとまなくなっていく。
今すぐリカと一緒にステージへ飛び込みたい位に気持ちが高ぶっていく。
「うん。ボク達も凄く楽しみだよ。がんばって、見に来てくれた人達が忘れられないステージを一緒に作っていこうね」
ユカナとリカから衣瑠夏とモナコへ差し出された手。
それは、先輩アイドルが後輩アイドルを導くために差し出した手ではない。
同じアイドルとして、ステージでの健闘をたたえ合うための握手であった。




