8-2:4人のアイドル
「一週間後、わたし達のステージがあります。是非に遊びに来てください」
渋谷ハチ公前で三人のアイドル達がビラ配りをしている。
本来なら四人で行うはずだったが、渋谷にやってくるなり逃走したリカはもっか、クラリス・クラリスが捜索中だ。
ここは衣瑠夏が生まれた世界で、モナコが生まれ育った世界とは違う。
車と呼ばれる哲の物体は高速で走っているし、建物に据え付けられたテレビと呼ばれる物体からはモナコが知らないアイドル達の歌が大音量で流れてきている。
そして、何よりここに住む人達はモナコ達を全く知らない。
ユカナが町でビラ配りなどしようもなら、彼女のファン達によってすぐさま群衆の群れだかりが出来て、ビラ配りではなくなるはずなのに、ユカナが差し出したビラは大勢の人達に無視されている。
そんなこと、モナコが生まれ育った世界では絶対になかったはずなのに。
「ふうう、やっぱりここは未開の地だから、ボク達の営業活動は難しいね」
スキュワーレから与えられたビラの一割も配ることが出来ることなく、お昼時になってしまった。
ここまでは埒があかないと一端休憩タイムに入ることになった。
衣瑠夏の紹介で入ってきたお店は店員と対面式で注文を頼むシステムだった。
以前、こちらの世界にアイドル留学したことのあるユカナはなんなく注文を頼めていたが、初異世界であるモナコは正直、右も左も分からない。
衣瑠夏に助けらながらなんとか注文を終えた。
注文した商品がトレーに乗せられ、二階にあがりユカナと衣瑠夏と三人でテーブルに腰を降ろす。
「いただきます」
肉厚のハンバーガーを頬張ればしゃきっとしたレタスの甘さと合わさってモナコの頬が自然と緩んでいく。
「あ、モナコ。このハンバーガー気に言ってくれたみたいだね。このお店、本店アメリカだから、日本への進出店舗少ないのが難点だけど、ハンバーガー本来のおいしさはお墨付きだからね」
対面に座る衣瑠夏もこのハンバーガーはお気に入りなのだろう。いつも以上に笑顔が咲かせながらハンバーガーを頬張っている。
「でも、これからどうしましょうね。このチラシ。全然配れないですよ。やっぱり、渋谷で見知らぬ人がこんな事していると、怪しい新興宗教団体とかと思われちゃうのかな?」
「確かにね、ちょっとこっちの人達は警戒心が高すぎるよ。ボクの声も届いていないみたいだし。このままただ配っているだけじゃ、誰もボク達のステージ見に来てくれないんじゃないかな?」
ハンバーガーを頬張りながら知恵を出し合うが三人とも打開策を見いだせないでいる。オーディションの会場となるステージはユカナとリカを迎えに来た時にクラリス・クラリスが抑えてくれているみたいだが、無観客ステージだけは御免被りたい所だ。
「きゃあ」
テーブルの上に置いていた衣瑠夏のスマートフォンが急に振動を始めた。
突然の事にモナコは思わず可愛らしい声を上げてしまったが、衣瑠夏は慣れた手つきでスマートフォンを耳に当てる。
「もしもし、新藤衣瑠夏ですがどちら様………あ、クラリス。どこから電話……、あ、公衆電話からなんだ。それで、用件って………」
その四角い箱の先からクラリス・クラリスの声が聞こえて彼女と会話が出来るらしい。そんな説明は受けていたが、モナコにとってはオーバーテクノロジー過ぎて、にわかには信じられない。
やがて、通話が終わり、衣瑠夏は再びスマートフォンを置き、悪戯好きな猫のような笑顔で教えてくれた。
「クラリスから伝言だよ。リカさんがスカウトされて急にテレビの視聴者参加型企画に出演することになったから、今すぐ三人とも助けに来てだって」




