7-5:スキュワーレの反省会
「衣瑠夏ちゃんと、モナコちゃん、無事に最終選考へ進んだようですね」
二次選考が終わり、喫茶キサラギステーションに戻ってきたスキュワーレに、一日店長代理を務めていたエリーゼが紅茶と一度のカップケーキを差し出した。
「ああ、逆を言えば最終選考に進んだのは彼女たちだけだったよ」
紅茶とカップケーキを受け取りソファーに腰を降ろす。
アイドルバトル自体はエリーゼが一次選考でこなした数よりも少なかったが、悪役に徹した一日であったので気苦労が勝る一日でもあった。
カップケーキの甘みが疲れた身体だけではなく、疲弊した心までもいやしてくれるようであった。
「ちなみに、ご報告までですが、本日の二次選考が終わっていこう、今回の選考方法に対する抗議が五件ほどありましので。あくまで、ご報告までですけどね、スキュワーレ」
中にはスキュワーレが不在にもかかわらず、店長室に乗り込んでくるアイドルまでいた。
なんとか苦情はやり過ごす事は出来たが、エリーゼとしても店長代理として気苦労が絶えない一日でもあったのだ。
「その点は申し訳ないと思っている。今度のオフは自分のおごりで食事に行こう」
「………最低五軒は梯子しますから、金は沢山要しておいてくださいましね」
「あははは、エリーゼは大食漢だからな、ほどほどに頼むぞ」
頬を膨らましながら、スキュワーレとは対面側に腰を降ろすエリーゼ。
「それで、二次選考が終わったことですので、お聞かせください。どうして今回、このようなアイドルの皆さんを悲しませるような選考方法に変えたのですか?」
「………ヘキサスターズから、ナオがいなくなった。クラリスの件があったとはいえ、ナオとしては、この先のヘキサスターズ、ひいてはリーダーである自分がもう信用できなかったのだろうな」
自虐的に微笑んだスキュワーレは、そんな自分の弱さを流し込むかのように紅茶を口にした。
「自分は、二次選考のルールでこう言った。特別ルールとしてこの部屋の中にいる者で新規にパートナーを組むことを許可すると。今回の選考は二人組アイドルをデビューさせる事ではない。新規ヘキサスターズのメンバー選考オーディションだ。今は選考を勝ち上がるための敵かもしれないが、その先で自分達は仲間となる」
そっと目を閉じ、今日の選考を思い返す。
アイドルの卵である彼女たちは、アイドルになるその先を見えていなかった。
「だから、自分としてはあの場で、その先の未来で同じグループでアイドルとなる自分にパートナーを申し込む者が現れることを望んでいたのだよ」
「で、そんな偏屈なお気持ちは誰にも伝わることなく、結果、衣瑠夏ちゃんとモナコちゃんのペアにこてんぱんにアイドルバトルで負けてしまいましたというわけですか」
「こてんぱんではない、僅差で負けたにすぎない」
「負けは負けですよ、スキュワーレ。もう、あなたの考え方は回りくどいのですよ。こんなやり方、皆さん勘違いしますよ。それこそ、ユカナとリカだって、今日のスキュワーレは悪魔の化身だったって言っていた位なんですからね。だいたい、チームのメンバーにさえ伝わらない真摯を、まだ若い子達に分からせようというのが………」
「エリーゼ、すまない。確かに、わかりづかったと反省している」
「いいえ、今日は言わせてもらいますわよ。そもそも、今日は衣瑠夏ちゃんとモナコちゃんが勝ったから良かったですが、新生ヘキサスターズの選考会ですのに、あなたは二次選考で全員を不合格にするおつもりでしたの?」
幼なじみの小言スイッチが入ってしまった。
こうなってしまっては小一時間は終わらない。
なんとか話を切ろうとするスキュワーレであるが今回の件については自分にも非があるため、言い返す言葉も弱く、ソファーの上で肩身狭く過ごすのであった。




