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異世界アイドル活動記  作者: 三宅交流
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7-4:二人の想い

「勝者、新藤衣瑠夏」


 アイドルバトル審査員から告げられた結果に、クリア・ポップは何も言えずにステージ上で膝をついた。

 アイドルとして完敗であった、それはまさしく自分の新藤衣瑠夏への見立ては間違っていなかった事の証明でもあった。

 しかし、見立てが間違っていたとすれば、このアイドルは最初から自分の事など何一つ見ていなかった事だろう。


「あなた何を考えているの……わたしを倒したら、残るのはあなた一人なのよ。一人でどうやって、あのスキュワーレに勝つというのよ?」

「う~ん、どうもあなたとは話が噛み合わないんだよね。ねえ、あなたのパートナーって、コミカ・メッセだよね。どんな人?」

「あいつは、自分がアイドルになるために、私を蹴落とすような最低の女よ。新藤衣瑠夏、あなたに負けたのは悔しいけど、アイドルになるためにわたしを蹴落としたあいつを道連れに出来ることだけは、唯一の救いね」


 スタッフに連れられてクリアがステージから降ろされる。

 真の敗北者となったクリアと入れ替わるようにステージに上がってくるのは、スキュワーレ。


「これで気が済んだかしら、新藤衣瑠夏。でも、自分も是非に聞かせてもらいたいものだ、どうして、こんな己に対して何の利もないアイドルバトルをしたのか?」


 吸い込まれそうなほどに澄んだ翡翠色の瞳と対する彼女は、やはり今も笑っていた。

 一対一の戦いでは、スキュワーレに勝ち目がないというのに、衣瑠夏は勝つことを信じて疑っていない。


「ねえ、その前に確認させてください、スキュワーレさん。このステージでパートナーを組むのは、この部屋にいる者であれば問題ないんですよね」

「ええ、最初にそう言ったはずだ。だが、あなたと一緒に最後まで残っていたクリアをあなた自身が倒した今、どうしてそんな事を聞くの?」

「だって、クリアちゃんには申し訳ないけど、みんながいる状態でこれをするのはちょっと危ないと思ったから、最後の一人になるのずっと待っていたのですよ」


 満開の桜のような笑顔でにっこりと笑うと衣瑠夏はステージを降りた。

 スタッフに連れられて今まさに部屋を追い出されようといるクリアとステージの上に残ったスキュワーレは自然と衣瑠夏を目で追ってしまう。

 彼女は何をしようとしているのだろうか。

 敗北者たちが集められていた部屋に、大気用に設置されていた椅子を無造作に掴み上げた。

 そして、彼女が向き合っているのは、壁に貼り付けられ笑顔を浮かべている自分を映し出す鏡だった。


「せ~~の!」


 その鏡に向かって勢いよく椅子をたたきつけ、鏡が雪の降るような音を立てながら崩れ去っていく。

 ヘキサスターズのリーダーとしても、喫茶キサラギステーションの店長としても数々の経験を積んできたスキュワーレをもってしても、衣瑠夏の奇想天外な行動に思わず、翡翠色の瞳を見開いてしまう。


「衣瑠夏………あなた、なんてことをしてくれたの?」

「だって、こうしないと、向こうとこっちをつなげられないと思いましたから。そうだよね、モナコ」


 そう、衣瑠夏は砕いたのだ、勝者と敗者の部屋を隔てていたマジックミラーを。

 砕かれた鏡の先、青髪ツインテールのアイドルが腕を組みながら仏頂面で立っていた。


「ふん遅いわよ、衣瑠夏。あたしはね、早く帰って、衣瑠夏にアイドルバイトル勝ったこと早くクラクラちゃんに報告したくてしかたがないのよ。分かった? 分かったら、早くステージに行くわよ」


 いつものようにパートナーに悪態をつきながら青髪ツインテールのアイドルはステージに向かって歩を進めていく。

 大事なパートナーとこれからも何度も一緒に立つスポットライトに照らされたステージに。


「あなた、どうして? こんなばかげた状況にも冷静なのよ」


 スタッフに連れられステージを降ろされたクリアが、亡霊でも見るかのようにモナコに問いかけていた。

 モナコは、振りかえる事も無く、軽く手を振りながら答える。


「パートナーの考えていることなんて分かって当然でしょう。この子はね、アイドル馬鹿なのよ。アイドルになることに一生懸命で突拍子のないことなんて今更始まったことじゃないわ。だから、これぐらい分からないと、衣瑠夏のパートナーなんてつとまらないわよ、泥棒猫さん」


 扉が閉り、敗北者であるクリアが閉め出された。

 これでこの部屋に残されたのは新藤衣瑠夏、スキュワーレ・ササマ、そして、モナコ・モナの三人となった。


「スキュワーレさん。最終確認です、ステージに立つパートナーは、この部屋にいる者であれば問題ないのですよね?」


 モナコ・モナと並び立つ衣瑠夏の問いかけにスキュワーレは自然と笑みがこぼれてしまった。

 新藤衣瑠夏、モナコ・モナのパートナーは新生ヘキサスターズにとって最高の原動力になる、そう確信するとスキュワーレの心は躍り、しゃがれた声が紡ぐ歌声も弾んでいたのだった。


「ああ、アイドルに二言はない。あなたとモナコ・モナのパートナーを認めよう。掛かってきなさい、自分も手加減なしで相手してみせよう」


 そして、新藤衣瑠夏、モナコ・モナとスキュワーレのアイドルバトルが始まった。

 


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