7-3:信じるはパートナー
二次選考の敗北者達が集められた部屋から、一人また一人とアイドル達がスキュワーレに敗れ、部屋を去って行く。
ヘキサスターズのリーダーであるスキュワーレの壁は厚く、敗北者の中から誰一人としてスキュワーレへの勝者は出ることなく、気がつけば敗北者達の部屋に残されたのは二人のみとなっていた。
一人は新藤衣瑠夏、そしてもう一人は先のアイドルバトルで信じていたパートナーから手痛い裏切りを受けたクリア・ポップである。
「ねえ、新藤衣瑠夏。ついにわたし達二人だけが残されてしまったわ。いい加減、わたしとパートナー組んでくれないかしら?」
「う~ん、残念ですけど、それは無理ですね~~」
子供のいたずらを見守る母親のような笑顔で、クリアからの提案を拒否する衣瑠夏。
このアイドルは最初からこうだった。二次選考のステージでパートナーと戦っているにも関わらず、このアイドルは最後まで笑っていた。
クリアは、モニター越しに見ていたその笑顔に引かれていた。
だから、スキュワーレから新規のパートナーを組んで良いと言われたとき、自然と衣瑠夏の笑顔が浮かんで、この人とパートナーを組みたいと思ってしまった。
しかし、何度アタックしても、衣瑠夏は笑顔でクリアの申し出に首を振るだけだった。誰か他にパートナーを組みたいアイドルがいるのだろうかと彼女の横で待ち続けたが、彼女から他のアイドルにアタックすることはなく、ついに残されたのは衣瑠夏とクリアの二人のみ。
それでも、衣瑠夏はクリアの申し出を断った。
「どうしてよ! もうこの部屋に残っているのはわたしと、あなたしかいないのよ。あなたアイドルになりたくないの!」
「ううん。もちろん、アイドルにはなりたいよ。でも、わたしに勝ったモナコにもアイドルになって欲しいんだよね。だから、ごめんなさい、わたしはクリアちゃんとはパートナーになれないよ」
「はあぁ? 何甘ったれた事言っているの? 赤の他人のために自分の夢を捨てるっているの? あんた、さっきのアイドルバトルで何も感じなかったの? あいつらは自分の夢を叶えるために、わたしらをこけにした。一度わたし達の夢はあいつらに潰されたのよ。それなら、今度はわたしたちがあいつらの夢を潰してもあいつらから何かを言われる筋合いはないわよ!」
この期に及んでもパートナーの事を思っている甘ちゃんアイドルに現実を見せつけるようにクリアはスキュワーレの立つステージを指さした。
「良いこと、あなた分かっているの。わたし達が次に進めためには、あのステージでスキュワーレに勝たなくてはならないのよ。これまでのステージ見てきたでしょう、あの人に単体で挑んで勝てるなんて思っているの?」
衣瑠夏はゆっくりと首を横に振った。
「なら、わたしとパートナーになって、スキュワーレを倒しましょうよ。わたし達の利害は一致しているのよ。それにあたなの笑顔はステージで引き込まれるぐらいに魅力的に映えるのですもの。それはアイドルバトルにおいて魅力的な武器になるわ」
クリアの熱い申し出にも衣瑠夏の直感がグッと告げることはなかった。
ずっとそうだった、この部屋に集まったアイドルの卵達を見ても誰一人として、モナコと出会った時のように直感がグッと告げる事は無かった。
モナコとの出会いは、衣瑠夏にとってかけがえのない奇跡だったのだろう。
あれほど共に切磋琢磨し、全力でぶつかりあり、そして信頼できるパートナーはモナコ以外に考えられない。
だから、信じるんだ、自分のパートナーを。
彼女ならきっとこうするって、確かな確信が衣瑠夏を突き動かしていく。
「ねえ、スキュワーレさん? 少しだけステージお借りしても良いですか?」
クリアではなく、ステージにから翡翠色の瞳で衣瑠夏とクリアを静かに見つめていたスキュワーレに話掛ける。
「自分とアイドルバトルをするって感じではないが、何をする気だ?」
「すみません。クリアちゃんとアイドルバトルをします。で、クリアちゃんがわたしに負けたら、彼女は失格で。もちろん、わたしが負けたらわたしが失格で良いですので」
突然の申し出に、異界の者を前にしたかのようにクリアが後ずさった。
一方、スキュワーレは衣瑠夏の真意を探るかのようにただただ翡翠色の瞳で彼女を見ている。
「なぜ、自分にアイドルバトルを挑まず、そんなことをする?」
「わたしのパートナーはもう決まっているんですけど、クリアちゃんなかなか分かってくれないので。わたし達はアイドルだから、言葉よりもステージの上で分かってくることがあるかなと思ったんですよ」
そう口にする衣瑠夏は、やっぱり今も天使のように迷いなど一切感じさせないように笑っていた。




