7-1:敗者の部屋
スタッフによって衣瑠夏が連れてこられた部屋、そこは第二選考でパートナーとのアイドルバトルに負けた敗北者達が集められていた。
ある者は泣き崩れ、ある者はこれまで共に戦ってきたパートーナーへの悪態を隠すことなく吐いている。
スタッフに次の指示があるまでここで待つように言われ、しばらく経つと二次選考最後の敗北者が部屋に連れ込まれた。
部屋全体を見渡しならが衣瑠夏は小首をかしげる。
選考は終わったはずなのに、こうしてパートナーに敗れた者達だけが集められている。最後に参加賞が配れるわけでもないだろうに、どうしてこんなことをするのか?
それはきっと衣瑠夏たち未来がのまだ終わっていないからだろう。
そう思うといつものように笑みが浮かんでくる。
この部屋は向かって正面にアイドルバトル可能なステージが設置されており、左右は鏡が張られ敗北達の惨めな姿を映し出している。
衣瑠夏はゆっくりと鏡に近寄り、写し出された自分自身とそっと手を重ね合わせる。
「みなさん、お待たせして申し訳ない」
ステージ上から聞き間違えることのない低音でしゃがれた声が聞こえてきた。
ヘキサスターズのリーダーにして、今回の第二選考において対戦相手となるはずであったスキュワーレ・ササマである。
ステージの上から吸い込まれそうな程に澄んだ翡翠色の瞳で、集められた敗北者達をゆっくりと見渡していく。
「前半の選考は無事に全て終わったようだな。では、これから、本来の第二選考について説明をさせてもらおう」
突然の宣言に集められた敗北者達がどよめくが、スキュワーレはかまわず語り続ける。
「君たちは一度パートーナーに敗れた。だが、夢をここで諦めるのか? いや、君たちにはまだチャンスがある。今ここでパートナーと共に戦い、自分に勝利すれば、二次選考通過となり、ヘキサスターズの新規加入メンバーとなる道が続くことになる」
「パートナーと共に戦うなんて、あいつはここにはいないわよ! あんたが決めたルールだから分かっているんでしょう。ここにいるのはパートナーと戦って敗れた者達だけだって事! それなのにどうしろというのよ!」
敗北者達の中からもっともな声が上がる。もちろん、そんな事はスキュワーレも想定済みである。
「もちろん存じている。だから、特別ルールとしてこの部屋の中にいる者で新規にパートナーを組むことを許可する。もっとも、その代償として新規にパートナーを組んだ者、つまり、先のアイドルバトルの勝者でもある旧パートナーは、その時点で失格となる」
低音でしゃがれた声が告げたのは、パートナーの絆をずたぼろに切り裂くかのような悪魔の提案であった。
「あなた達から夢を奪った者達に対して、今度はあなた達が逆に夢を奪うことが出来るわ。もっとも、単独でアイドルバトルを挑むことも可能だ。ただし、自分は新人アイドルに簡単に負けるほど弱くはないし、単独で挑んできた場合、負けた時は先のアイドルバトルの勝者でもあるパートナー共々失格となることを肝に銘じておくことだ」
集められた敗北者達に与えられた選択肢は二つ。
一つは、先のアイドルバトルで敗れた自分が、パートナーの夢も背負ってヘキサスターズのリーダーであるスキュワーレに一対一のアイドルバトルを挑むか。
あるいは、共に夢を追いかけてきたパートナーを見限り、勝利のためにこの場で見知らぬ他人と新たなパートナーを組むか。
究極の選択をアイドル達は迫られた。




