1-2:ようこそ、キラステのステージへ
今日も無事にキサラギ・ステーションでの仕事が終わった。
同僚アイドル達に「お疲れ様でした」と声を掛けながら帰路につく衣瑠夏。
外に出ると、今日も鮮やかな金髪をツーテールにまとめているクラリスが待っていた。彼女も仕事が終わったのだろう。
今はいつものブラックスーツではなく、蝶柄があしらわれた可愛らしいワンピースを着ている。二人は肩を並べながら、寮に向かって歩みを進めていく。
「聞いたよ、聞いたよ。衣瑠夏ちゃん、ついに来週、キラステのステージに立つんだって?」
「うん。今日、スキュワーレさんに呼び出されて、しっかり準備しなさいって檄をいれられちゃったよ。ねえ、クラリスちゃん。今から、時間ってある?」
「もちろんだよ。キラステのステージで歌う曲、悩んでいるんだよね?」
「うん、その通りなの。キラステでの初給料も入ったし、スイーツはおごるからさ。お願い、一緒に考えて」
手を合わせながら懇願する衣瑠夏と笑顔でうなずくクラリス。
二人は笑いながら、そして来週のステージへ希望を膨らませながら、歩き続けていく。
クラリスとのお茶会と称した作戦会議にて歌唱曲は決まった。
『Start Star』と呼ばれるこちらの世界の住民なら誰もが知る定番曲だ。
初めてのステージだから、変化球ではなく直球勝負で観客を楽しませることを二人で選んだ。
衣瑠夏がステージに立つまでは残り一週間。
週に三日あるレッスン時間はクラリスの指導の下、ステージに立つための基礎をもう一度、最初からたたき込まれた。
歌唱力が評価に直結するソング値。切れのある動きやダイナミックな動きが求められるダンス値。観客をいかに魅了できるか問われるステージ値。
その全てにおいて、衣瑠夏はまだまだ最低のFランク評価が多い。でも、この一ヶ月で少しでも前に進めたはずだ。
「アイドルはお客さんがいて、初めてアイドルなんだよ。だから、ステージが始まる前からアイドルの活動は始まっているんだからね」
これはクラリスの言葉だ。
その通り、衣瑠夏がステージに立ってもみてくれる観客がゼロなら、それはステージとは呼ばれない。
歌を聴いてくれる観客や声援を送ってくるファンがいるからこそ、アイドルだ。
「おっ、聞いたよ、衣瑠夏ちゃん。今度のステージ立つんだってね」
「はい。そうなんですよ。だから、今、猛練習中なんです。三日後のお昼から2Fのステージで歌うんですけど、見に来てくれます?」
「その日は、夜からエリーゼちゃんの特別ステージがあるから、お店には来るつもりだったよ。それなら少し早めに来て、ついでに衣瑠夏ちゃんのステージも見ていこうかな」
キサラギ・ステーションで働いている時もアイドルとしての営業を忘れない。
顔なじみとなった常連さんに初ステージをアピールして回る衣瑠夏。
キサラギ・ステーションはカレン・プロが経営する飲食店であり、そこで働くのはほぼみんながアイドルの卵だとお客さんも知っている。
純粋に食事やお茶をしにくるお客さんもいるにはいるが、大半はアイドルに直接会いにやってくるファンだ。
応援してくれる人。
来れないときっぱり言う人。
ついでに見ていくと言ってくれる人。
衣瑠夏がステージのことを話して、見に来てくると言ってくれた人は数少ない。
でも、一人でも多くに自分のステージを見て欲しいから衣瑠夏は、一人でも多くの人に声をかけ続ける。
「衣瑠夏。三番テーブルへの料理出来たわ。持って行って!」
「はいっ。ただいまっ!」
厨房から呼ばれ、料理を引き取りに行く衣瑠夏。
そんな彼女の目には、壁に貼り付けられた一枚のポスターが映っている。
『新藤衣瑠夏 待望の初ステージ』
そのうたい文句とともに、鮮やかに彩られているこのポスターは、衣瑠夏とクラリスが二人で作り上げた大切な一枚だ。
「うん。がんばろうね、わたし」