6-3:なりたい未来のために
ステージ上に衣瑠夏とモナコが並び立つ。
課題曲である『Start Star』が流れ始めるまでの残りわずかな時間、互いに戦わなければならくなったアイドルのスポットライトに照らせていないステージで対面しながら互いの想いを確かめ合っていく。
「あんた、本気であたしとアイドルバトルするつもりなの?」
「うん。わたしは全力でモナコとアイドルバトルさせてもらうまでだよ」
「あっけらかんと言ってくれるわよね。あたし達一緒に頑張ってアイドルになろうって約束したじゃない。あの約束は嘘だったっていうの、衣瑠夏?」
「嘘じゃないよ、モナコ。わたしはモナコがいたからこんなにも頑張れてきたよ。でもね、アイドルになるためにモナコを倒さないといけないのら、わたしは全力をもってモナコを倒しに行くよ。だって、この世界、チャンスは限られていて、一度手放したチャンスがもう一度巡ってくる保証なんて何処にもないんだからね」
衣瑠夏は今も笑っている。
この娘はいつもそうだ。迷わずいつも笑っている。そして笑っているその顔の下でいつも考えているんだ。
愚直なまでにアイドルになることに本気で、誰よりもアイドルとは何か考えている。
彼女と一緒だからエリーゼとのアイドルバトルであんな無謀とも思える危険な端を渡ることを選んだ。
いつも笑顔で、何を考えているか不安になる時もあるが、この娘がアイドルに対して妥協をしない人間であることは、苦楽を共に過ごしてきたモナコには痛いぐらいに分かる。
それに、アイドルになりたいって気持ちは衣瑠夏には負けるかもしれないが、モナコにだって衣瑠夏に負けない気持ちを持っている。
スポットライトに照らされたステージ上から見渡す視界の中には、まばらな観客とアイドルバトル審査員が見える。
そして、神に祈るように両手を組んで、皺一つ無いブラックスーツを着た金髪ツインテールの彼女が二人のステージを見守ってくれている。
「まさしくあんたの言う通りだわ。ヘキサスターズの新規メンバーになる、しかも、クラクラちゃんの後継者としてヘキサスターズに加入するなんて、ここを逃したら一生やってこないわね」
モナコ・モナは、アイドルを引退したクラリス・クラリスの後継者となる。
そのためにここまでやってきたんだ。アイドルになる気持ちは衣瑠夏の方が勝っているかも知れないが、クラリス・クラリスの後を継いでヘキサスターズの新規メンバーになりたいという気持ちであれば、モナコ・モナは誰にも負けない。
「ねえ、モナコはさ、わたしとクラリスの事、どっちが大事?」
「そんなのクラクラちゃんに決まっているでしょう」
最大限の嫌みを込めて衣瑠夏に笑い返す。
「クラクラちゃんの後継者は、一人で充分。ここであんたを倒せばあたしだけが、クラクラちゃんの後継者として大手を振ってデビューできる訳だから、これはこれで願ったり叶ったりの道筋かもしれないわね」
「何を言っているの、モナコ。わたしは負けないからね。アイドルになるのはわたしだよ、そのためにこうして異世界にまでやってきたんだからね」
新藤衣瑠夏とモナコ・モナは、同じ夢を目指して手を取り合ってきた仲間かもしれない。しかし、同じ目標を目指してきた訳でない。
目的地は同じだとしても、そこにたどり着くための想いは全く異なっている。
「先に言っておくわよ、衣瑠夏。二次選考のオーディション、手を抜いたら承知しないわよ。本気のあんたをぶちのめしてこそ、意味があるのだからね」
「手を抜くなんてそんな事しないよ。手を抜いて勝てるほどモナコは弱くないからね。全力であなたに勝ちに行くからね、覚悟してよ」
二人は歩み寄っていく。互いの健闘を祈るように手を握り合うなどこの二人には不要だ。
「あのとき、わたしの直感に従って、モナコに声を掛けて本当に良かったよ。モナコがずっとそばにいてくれたから、わたしはアイドルとしてこんなにも成長出来たよ」
「何上から目線でもの言っているのよ。あたしはあんたの踏み台じゃないわよ。あんたこそ、あたしとクラクラちゃんをつなげるための道先案内人でしかなかって思い知らせてあべるわよ」
手を取り合う必要などない、ただ互いの前に立ちはだかる、それことが大事なことだ。
だって、新藤衣瑠夏とモナコ・モナは、ライバルなのだから。
そして、運命の課題曲である『Start Star』のイントロが流れ始めた。




