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異世界アイドル活動記  作者: 三宅交流
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5-4:ボーカルとボーカルの殴り合い

「それでは、ヘキサスターズ、新メンバー先行オーディションを再開する。参加メンバー、新藤衣瑠夏とモナコ・モナはステージへ」

 

 再開の言葉を宣言するスキュワーレに呼ばれ、衣瑠夏とモナコはエリーゼが待つステージへ上がる。

 二人そろって並び立ち、観客席にいるアイドルバトル審査員に一礼をする。


「ねえ、衣瑠夏。あんた、本当にあれをやるつもりなの。分かっているの、このアイドルバトルはあたし達絶対に負けられないのよ?」

「うん。痛いぐらいに分かっているよ。でも、わたし達はアイドルだからこうするべきだって、わたしの直感がグッと告げているんだよ」


 課題曲の準備が始まっている中、モナコが小声で最終確認をしてくる。

 先ほどの昼食を兼ねたミーティングの際に突如と出てきた衣瑠夏の計画。

 勝負を捨てたとも思えるその作戦にモナコは拒絶反応を示した。

 しかし、今のモナコもステージに立つアイドルの卵。

 アイドルであれば、衣瑠夏の申し入れを否定することは自身の存在も否定する事になる。


「衣瑠夏ちゃん。なんだか、凄く楽しそうですわね。何か良いことありましたか?」

「う~~ん。良い事あったんじゃなくて、これから良いことが起こるから、楽しみなの。ねえ、エリーゼさん、わたし達本気の本気で行きますから、観客の皆さん楽しませましょうね」


 話掛けてきてくれたエリーゼに向かって真っ向勝負の宣言をする衣瑠夏は、アイドルバトル審査員とスキュワーレしかいない観客席と向き合った。


「ええ、分かりましたわ。お互い、本気を出し合って、アイドルしましょう」


 エリーゼが微笑むと同時に今回の歌唱曲、『大好き、大好き、パンケーキ』の前奏が流れ始めた。

 『大好き、大好き、パンケーキ』は初恋の蕩けるような甘い感情を蜂蜜満載の甘いパンケーキに見立てた恋愛ソングだ。

 POPな曲調は特に10代前半の女性達に人気が高く、可愛らしく、明るく、笑顔で歌うのが定番である曲であるのだが、


「私は、大好き、大好き、パンケ~~~~~~~~~~~~~~キぃぃぃぃぃぃ」


 歌い出しのフレーズから衣瑠夏はビブラートを効かせ、譜面以上に音を伸ばして、ボーカル力に全振りしたかのような歌い方をしたのだ。

 これには観客席で腕を組み新人アイドル達を選別していたスキュワーレも思わず目を丸くした。

 エリーゼの得意分野はボーカル。

 オーディションの参加者はエリーゼに勝つために極力エリーゼのボーカル力を発揮させない選曲をしてきた。

 この『大好き、大好き、パンケーキ』も普通に譜面通り歌えば、エリーゼの最大の武器である伸びのある高音を生かせる場面は少ない。

 しかし、譜面通り丁寧に歌うことだけがアイドルじゃない。

 ステージ上でアレンジを加えるのもまたアイドルの一つの姿だ。


『なるほど、そう来ましたか。あえて、歌唱によるエリーゼとの真っ向勝負。良いですわ、こいうの、心が大変躍りますわ』


 歌い出しフレーズでの先制パンチで衣瑠夏の意図をエリーゼも理解した。

 マイクを握りしめる手に自然と力が籠もる。


「あたなも、大好きぃぃ、大好きぃぃ、パンケェェキキキキキィィィィィィィィィ」


 衣瑠夏につられて観客席に向かいエリーゼも自分の歌唱力を遺憾なく発揮していく。

 ここから先のアイドルバトルは、歌と歌との殴りあいだ。

 考えていたプランと全く違うステージとなったがこうなってしまってはモナコも心を決めるしかない。

 第一オーディションに向けた最終ミーティングで永遠のライバルである衣瑠夏は笑顔でエリーゼと歌唱による真っ向勝負をするなんてとんでもない事を言ってきた。でも、


『わたし達アイドルは観客に観てもらうためにステージに立つ。一緒に歌うアイドルを陥れるためにステージに立つんじゃないんだよね』


 なんて言われたら、何も言いかせなかった。

 ヘキサスターズのファンであった自分だからこそ分かる。もし、今日のオーディションを見に来たファンがいたとしたら、もっとも盛り上がるステージは、エリーゼと真っ向勝負で歌唱バトルを挑むアイドルの姿だって。

 だから、勝ち負けも大事だけど、それ以上にアイドルとしてステージに立つ自分が輝くためにも、この一曲にモナコも全てをぶつけていく。


「みんなも、だいすき、だいすき、パンッケーキッイイイイィィイイイァャャャャ!」


 ステージで輝くアイドル達は一歩も引かずに『大好き、大好き、パンケーキ』を歌唱していく。

 Bメロが終わり、サビが始まる。

 呼吸を整えるわずかな間奏、麗しい三つ編みを揺らすエリーゼが衣瑠夏に向かって、突き立てた二本の指で先に行くように合図を出す。

 このパート。最初は衣瑠夏にソロを任せるつもりだ。

 エリーゼの意図をくみ取った衣瑠夏は二人より前にでてスポットライトを一身に浴びる。


「甘く、甘く、回る、回る、パンケーキ。いつでもみんなの心をとろりと虜にするパンケーキ。はい、次はエリーゼ」


 サビのワンフレーズをポップな歌声で歌い終えると衣瑠夏は可愛らしくぐるりとターンしながらスポットライトから外れていく。

 アドリブで対戦相手の名前を呼ぶが、それは流石、数多のステージをこなしてきた現役アイドル。

 主役のいなくなったスポットライトの中に、緑のローブを身に纏った麗しいのアイドルが華麗に舞い降りた。


「染み込む、染み込む、拡がる、拡がるパンケーキ。いつでも私の心をハピネス満たしてくれるパンケーキ。決めてください、モナコさん」


 歌詞にある通り、音を観客の心に染み込ませるような高音による歌唱で、見事に歌い上げるエリーゼ。

 そして、歌唱のバトンは三人目の彼女に受け渡された。


「だから、わたしも、あなた!も、みんな!も」


 受け渡された歌のバントをモナコはあえて一度区切った。

 自分の意思をステージ上に伝えるように、そのワンスレーズに想いを込めて。

 あの常に常夏の夏のような幸せそうな笑顔を振りまくライバルは何も言わずとも分かってくれるはずだ。


「「パンケーーーーーーーーーーーーーーキィイイイイイイイ!!」」


 モナコ、そして、衣瑠夏の二重奏がオーディション会場へち力強く響き渡った。


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