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異世界アイドル活動記  作者: 三宅交流
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5-3:アイドルとは

 新生ヘキサスターズの新メンバーオーディションは、キサラギステーションの2階に設置されたイベント用ステージで実施されていた。

 オーディションは既に始まっており、ステージ上では緑色のローブに身を包んだエリーゼとオーディション参加者のパートナーがアイドルバトルを繰り広げている。

 オーディション参加者が選んだ楽曲を、パートナーの二人とエリゼーの合計三人が同時に歌い、アイドルバトル審査員が公平な審査を行う。


「ただいまのアイドルバトル。参加者側は、アグレッシブなダンス力は観客を引きつける魅力があり、Bランク。歌唱力にては音が外れる場面が17カ所ありCランク。ステージ値については観客席を意識しているとは思えずDランクとする」


 ただいまの勝負はアグレッシブなダンス曲を宴曲されて、激しい踊りをこなしながら一つの音も外さなかったエリーゼの勝ちであった。

 これまでのオーディション結果でいけば、勝ち上がっているのは参加メンバーの約3割といった所だ。


「それでは、ここで一度休憩を取る。オーディションの再開は一時間後。それまでの間は各自自由に過ごしていただいてかまわない。ささやかながら、キサラギステーションの方にて軽食も用意しているので、自由に食べてくれたまえ」


 アイドルバトル審査員の隣に立っていたスキュワーレがオーディションの一時中断を宣言した。

 一曲だけを歌う参加メンバーと異なりエリーゼは、既に10曲以上を連続で歌唱していた。

 いくら現役のアイドルとはいえ、中座して休憩を挟まなければ身体が持たない。

 オーディションに破れ、夢を絶たれたアイドルの卵が涙を流しながらステージを去って行く。

 審査が後半組の参加メンバーもちりぢりとなり、オーディション会場から去って行く。

 だが、衣瑠夏は納得いかないとばかりにオーディション会場に残り、エリーゼが立っていたステージを見つめていた。


「ちょっと衣瑠夏。あんた何突っ立ているのよ。あたし達はオーディション後半戦の一番手なんだから、早く御飯食べてコンディション整えるわよ」

「う~~ん。何だろうこの感じ?。ごめん、モナコ、わたしもう少しここに残っているから、先に行っていてきて」


 名前を呼ばれても、衣瑠夏は動こうとせずに空っぽになったステージをただ見つめていく。ほほに指を突き当てて自分の心に残る違和感の正体を探り続ける。

 観客席からステージを見ていても何も分からない。

 衣瑠夏はステージに立ち誰も一人いなくなった会場を見渡していく。


「どうしてだろう。もうすぐ大切なステージがやってくるというのに、わたしの直感が全然グッと告げてこないよ」


 モナコと一緒に猛練習を重ねた『大好き、大好き、パンケーキ』のステップを軽く踏んでみる。

 この曲でエリーゼにアイドルバトルで勝てるイメージがどうしても衣瑠夏には出来ないでいた。

 実力的な差ではない。

 モナコとこの曲を歌い、踊る上で何かが足りていないのだ。

 でも、その何かが分からない。


「こら、そこ独りで勝手に踊ってないでこっち来なさい。仕方ないから、あんたの分の御飯もあたしは持ってきてやったわよ」

「ほらほら、衣瑠夏も一緒に食べよう。この会場での飲食は私の方からスキュワーレにもらったから大丈夫だよ」


 両手にパンケーキが盛られた皿を持ったモナコと、飲み物を持ってきたクラリスがオーディション会場に入ってきた。

 軽くステップを踏む衣瑠夏をモナコがあきれた表情で、観ている。


「あれ?」


 衣瑠夏の中で、直感がこれだとグッと告げた。


「ちょっと、早く降りてきなさい、衣瑠夏。このハニーパンケーキ、クラクラちゃんのお手製らしいわよ」

「あはは。公平を保つために私はオーディション会場への入場禁止だからね。待っている間に厨房借りてつくちゃった。エリーゼに比べたらまだまだまだだけど、きっと美味しいよ美味しいはずよ」

「そんなクラクラちゃんの作った料理なら、炭屑だったとしてもあたしは美味しく食べる自信があるから大丈夫だって」

「あはは。炭屑なんて食べたらモナコの身体が心配だよ。それに、私そんなに料理へへたじゃないから大丈夫だって……」


 推しアイドルの手料理が食べれるとあって、モナコのテンションはいつになく高い。

 思わずクラリスでさえも気圧されてしまう位だ。


「ねえ、モナコ。もう一度わたしを観てよ」


 一方、そんなモナコのテンションに一切感化されることなく、衣瑠夏は今日もステージの上で笑っている。


「だから、あんたは変なこと言っていないで、早くステージから降りてきなさい。クラクラちゃんの手料理は楽しみだけど、食べ終わったらオーディションに向けての最終ミーティング始めるわよ」


 観客席側からライバルがいつものように、自分を怪訝な目つきで見てくれている。

 ステージに立つ自分を観てくれている。

 そうだった。この後の、このステージで衣瑠夏とモナコはエリーゼとアイドルバトルを行う。

 アイドルバトルに勝つことはもちろん大事だ。

 でも、今日の自分たちは勝つことが目的となってしまっていたようだ。

 アイドルとはステージの上で歌い、踊り、観られて、戦うのだ。

 そして、今日のステージに立つアイドルは衣瑠夏一人ではない。

 ステージに立つのは、三人のアイドルだ。


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