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異世界アイドル活動記  作者: 三宅交流
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5-2:みんな大好きパンケーキ

 ランチタイムを終え、閑散とし始めた喫茶キサラギステーションに衣瑠夏とモナコはやってきていた。

 衣瑠夏は既に本日のシフトを終えており、私服であるピンク色の水玉ワンピースに着替えている。

 今の衣瑠夏はバイトではなく、モナコと共にやってきたゲストである。


「それで、歌唱曲どうしようか、モナコ? 二人が一番練習してきて安定の曲と言えば、『Start Star』とか?」

「あんたね、それは定番曲過ぎるわよ。『Start Star』は、ヘキサスターズの初期からの人気曲よ。クラクラちゃんの元、あたし達もみっちりダンスや歌を叩きこまれたけど、ヘキサスターズのメンバーであるエリーゼちゃんは、あたし達とは比べものならないぐらいステージで歌唱を披露しているのよ。あたし達に与えられた唯一のアドバンテージでどうして、相手の十八番で勝負と挑むのよ」


 やれやれと肩をすくめて、モナコは頼んでいたメロンジュースに口をつけた。

 第一オーディションは、エリーゼとアイドルバトルを行うに当たり、二つのハンデが参加者に与えられいる。

 一つは参加者はパートナーと組み、エリーゼに対して二対一でアイドルバトルを挑むことが出来る。

 もう一つは、ステージ上での歌唱曲を参加者側が指定できるのだ。

 オーディション参加者は指定した曲をステージで披露し、対するエリーゼも参加者が指定したのと同じ曲をステージで披露するのだ。

 歌唱曲の指定期限は今日までであり、そのため二人はこうして作戦会議をしている。


「エリーゼちゃんといえば何とっても、あの空にも繋がるような伸びやかな高音。ソング値で勝とうなんて無謀よね……」

「だったら、この前二人で練習した、『風を見たら、最強』は。あれなら、モナコもだいぶ踊れるようになってきたよね」

「あえてエリーゼちゃん相手にダンス勝負に持って行くか。選択肢としては悪くないわね。少なくとも、エリーゼちゃんのボーカル力を封じることが出来れる作戦を思いつけば、あたし達は圧倒的に有利になるわ」

「あえてエリーゼさんのボーカル力を封じる作戦か………う~~ん。そーいうつもりで言ったわけじゃないんだけどな………」


 頬に指をあて、小首をかしげる衣瑠夏。


「ねえ、エリーゼさんってステージの上で何が一番好きですか?」


 注文していた喫茶キサラギステーションの特別メニューを持ってきてくれた彼女にごく自然と問いかける。


「あら珍しく、バイトの後にキサラギ・ステーーションで御飯食べて行くとおっしゃったのは、こういうことなのですね。わたくしを倒すための作戦会議を、わざわざ今日ここでやるなんて、大胆不敵といいますか、豪快といいますか。ですが、そのような衣瑠夏さんの包み隠さない所、わたくしは大好きでございますわ」


 注文を持ってきてくれた彼女はマスクで口元を隠していている。

 しかし、この麗しい三つ編みに、蜂蜜のよう甘い声をモナコが聞き間違える訳がない。


「へぇぇ、エリーゼちゃん?」

「はい、ご明察の通りです。あなたがリカとクラリスの言っていたモナコさんですね。今度のオーディションでの対戦楽しみにおりますので、何卒よろしくお願いいたします」


 マスクで顔を隠しながらも、モナコに向かってウィンクして、麗しの三つ編み女性は厨房へ去って行った。


「ねえ、衣瑠夏。これってどういう事? お願い状況を説明して……っていうか、笑ってないで今すぐに説明しなさい!!」


 エリーゼが目と鼻の先にいて、さらにウィンクまでしてくれたことに放心状態となってしまったモナコであるが、もはや日常と化した太陽のような衣瑠夏の笑顔を見た瞬間、いつもの自分に戻ること出来た。


「エリーゼさんって、料理好きらしてくて、オフの日にキラステやってきては、こっそりとゲスト向けの料理作っているんだよね。で、今日はモナコとの作戦会議があったから、さっきのバイト中に厨房で、おやつ作ってくださいってお願いしちゃったんだ」


 モナコにとって憧れのアイドルグループの一員であるエリーゼだが、衣瑠夏にとってはバイト先の先輩。

 モナコならエリーゼに料理を作ってくださいなんて天地がひっくり返っても出来ない願い事を、この娘はいともたやすくこなして見せた。


「え? でもでも、ちょっとまって……じゃ、じゃ、じゃ、これって………エリーゼちゃんの手作りパンケーキ」


 思わず、モナコはエリーゼが持ってきたパンケーキを見つめ、生唾を飲み込んだ。


「うん。わたし達バイトのまかないメニューとしても人気の、ハーニーパンケーキ。ほっぽがとろけるほどのおいしさに、モナコもきっと病みつきになる事間違えなしだよ」


 少しでも形を崩さないよう、慎重にパンパンケーキにナイフを通す。

 アイドルの手作りパンケーキを口元に運ぶ、モナコの手は震え始めている。

 そして、フォークに刺したパンケーキをかみしめるようにぱくりと食べる。

 アイドル手作り料理を食した感動は、簡単には言葉が出なかった。

 でも、その瞬間、モナコに天啓が降ってきた。


「ねえ、衣瑠夏。良いこと、歌唱曲は、『大好き、大好き、パンケーキ』で行くわよ。エリーゼちゃんのパンケーキを食べたこの感動を、ステージでぶつけるわよ!!」



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